第33話 セレスSIDE

出て行ったゼクトはさて置き、問題はこの三人だな。


特にリダが問題だ。


マリアとメルは戦闘以外でも手に職はある。


だが、剣聖のリダから戦いをとったら何が残ると言うんだ。


最悪、リダはうちで引き取るしかないかも知れない。


俺は静子さんと結婚している。


だから、三人が『娘』としてと言っているが、これは俺の気持ちにも合っている。


今では記憶が虫食いで顔も思い出せないが、前世の俺には妻が居て、娘も居た。


しかも朧気ながらセーラー服姿が思い出されるから、娘は三人に近い年齢の筈だ。


かなり懐いていて俺に結構べったりだった気がする。


だからこそ、俺にとっては静子さんの事が無くても三人は『娘』みたいな存在にしか思えない。


ちなみにゼクトも悪友兼息子な。


面倒見るのは、だから吝かではない。


前世の俺が娘に出来なかった事をこれからしてやれば良い。


だが、それと『甘やかす』のは違う。


少なくとも俺は娘をニートになんかさせるつもりは無い。


三人は俺と静子さんを悲しそうな目で見ている。


なんで捨てられた猫みたいな目でみるんだ。


S級冒険者だし、金だって持っているだろう!


「ゼクトが置いて出て行ってしまったから仕方が無い。暫くは俺が面倒を見てやるよ」


「ちょっとセレスくん、少しお人よし過ぎない?」


「仕方ないよ、三人の親からも頼むと言われたし、静子さん程じゃないけど、三人の親にもお世話になっていたから…それに静子さんの友達の娘だと考えたら『娘』みたいな者と考えても可笑しくないからね」


「「「娘?」」」


「そう『娘』だ! お義父さんでもパパでも良いって自分で言っていただろう? だから、暫くは娘のつもりで面倒見るから、安心して良いよ」


「え~と!本気?」


「冗談だよね?」


「リダはお父さん、マリアはパパと口にしていただろう?」


「私は口にしていないし、それに元は恋人だったじゃない? 勇者パーティは複数婚がOKなんだから、三人全員、それが嫌なら私だけでもお嫁さんにすれば良いじゃない? それに私…もう賢者じゃないから普通の女の子としてしっかり、セレスの事受け入れられるよ!」


「メルがそう言うなら、私だって剣聖じゃないんだ! しっかり相手出来る、もう勇者パーティじゃない」


「そうよ、そうだわセレスが受け入れるならすぐにでもお嫁さんになってあげるわ」


「貴方達何を言っているのかしら? セレスくんをパーティから追放したのに図々しくない?」


凄く面倒くさいな。


「俺は三人を愛している」


「「「セレス」」」


「だが、それは恋人とか妻としてじゃない! 歳は近いが家族を愛するその気持ちに近い。大体俺にそれ以外の『愛』があると思うのか? リダ以外は朝は起きて来ない。リダは起きて来てもすぐに素振りに行くから、毎日の朝食は俺が作っていたよな? お昼も夜も基本は俺だ! トイレに行くときの見張りも俺だったよな? 本当に俺が好きなら、少し離れているとは言え異性の前で排泄なんて出来ないんじゃないか? それに洗濯も俺だったよな? 普通に考えて異性だと考えたら汗臭く汚れた下着の洗濯なんてさせられるのか?ゼクトにトイレ番でも下着の洗濯でも一度でも頼んだ事ないよな!」


「随分と酷いわね? あの三人の娘だと思えないわ…」


「「「それは…」」」


「だろう?元から三人はゼクトは男だけど、俺は男じゃなく、幼馴染か家族としか見ていなかった筈だ! 怖い思いして、ゼクトに失恋したから『俺』が気になっただけだ。それに俺は今までの生活で三人を愛しているが『異性』とは見れない。当たり前だろう?」


「私はそんなことは無い、ちゃんとセレスが好きだ」


「私だって同じだわ」


「私も」


「だから、それが勘違いなんだよ!ねぇ静子さん」


「そうね、本当に好きな人に汚れた下着を洗わせる女の子なんて村に1人も居ないわ。好きな人になら一生懸命料理を作りたくなるのが当たり前だわね。自分達の母親を思い出してみたらどうかしら? それに極めつけは普通の女の子なら、好きな男性の傍で排泄なんて出来ないわ」


「そんな、パーティだから、それは」


「それじゃ、マリア、同じ事ゼクトに出来たか? 他の二人もどうだ」



本当は違うのは解っている。


何時も5人で居た。


俺は前世の記憶があるから『対象外』だったが、三人は村であのまま生活していたらゼクトと俺どちらかしか選択が無い。


ゼクトも三人しか選択は無い。


俺も気持ちは兎も角、恐らくはこの三人から選び結婚し生活したのだろうな。


だから、ゼクトへの気持ちが10だとすれば俺への気持ちだって5か6はある筈だ。


勇者パーティになり、ゼクトが三人を望んだ瞬間から本来の人生は変わった。


勇者パーティになんてならなければ、恐らくはマリアとゼクトが結ばれて、きっと俺はリダかメルと結ばれる。


そんな運命だった筈だ。


だが、ゼクトが勇者になり三人がゼクトを選んだ結果がこれだ。


だから、もう三人との『縁』は切れた。


「それは、出来なかったと思う」


「私もそうだな、ゼクトには出来なかった」


「ごめん、私も同じかも知れない…」


だから、この気持ちは挿げ替える。


『異性としての愛』じゃなくて『家族愛』に。


「そうだろう?だけど安心して良いよ! 俺はちゃんと家族として父親や兄貴の様に三人が好きだし、愛しているから自立できるまでは面倒はみるからな。マリアは治療師、メルはアカデミーか事務の仕事とか?探してみたらどうだ? リダも…そのなんだやりたい事をこれから探せば良いさ」


「そうね、そうするわ」


「私も、ごめん暫くお世話になります」


「私も」


これで良い。


これが正解な筈だ。


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