第28話 セレスSIDE 別れ


「だから、母さん、俺達にはセレスが必要なんだ!」


「うふふっ、今ね、母さん凄く幸せなのよ…まだ新婚なのよ? その幸せを息子の貴方が壊すのかしら? そんな親不孝じゃ無いよね?」


「静子さん、お願いします! 頼むからセレスを私達に返して下さい!」


「セレスくんを物みたいに言わないでくれるかな? リダちゃん達はセレスくんを追放したんだからもう関係ないと思いますよ!リダちゃんとセレスくんはもう縁が無いのよ?自分達の事は自分でどうにかして頂戴!」


「静子さん、お願いします、セレスを返してください!」


「マリアちゃん、幾ら言われても、セレスくんはもう私の夫です!返すっておかしいじゃないですか? 恋人でもパーティメンバーでも無いマリアちゃん達に、そんな事いう資格はないわ…私達、今幸せなの…邪魔しないで欲しいわ」


「そんな」


「静子さん…」


「メルちゃん…セレスくんから話は聞いたけど、貴方最低よね、昔から仲良くしてくれた、セレスくんにあんな酷い事 したんでしょう? 貴方が選んだのはセレスくんじゃなくて、私の息子、ゼクトなんだから、何を言おうとしているの?まさか今度はゼクトからセレスくんに乗り換えるつもりかしら? 流石に勝手すぎるわ」



帰ってきたら、ゼクト達が押し掛けてきて静子さんと揉めている。


「ゼクト、貴方はもう勇者を辞めたんでしょう! これからは自由に生きれば良いじゃない? セレスくんと一緒にいる意味無いよね?」


ああっ不味い、修羅場だ。


ゼクト達は悔しそうに静子さんを見ていた。


「ゼクトや皆に言わせて貰うけど、私の夫のセレスを何故連れまわそうとするのかな? もう勇者パーティは解散して、魔王討伐の任を解かれたという話じゃない?これからは自由に冒険者として生きられるでしょう?もう、セレスくんは関係ないじゃない?」


「母さん、セレスは俺達には必要な仲間なんだ…この通り、お願いだ返してくれ」


「「「お願い、返して」」」


「はぁ~ゼクト、それに三人ももう少ししっかりしないと、駄目よ! 貴方達は勇者を辞めて、形上パーティからもう抜けたんじゃない? セレスくんは抜けていないわ、そして私はセレスくんのパーティに後から入ったの、この意味が解らないの? 『英雄パーティ』に戻りたいの? 四天王はマモン以外に3人居るのよ? 場合によっては戦う事になるわよ…良いのかしら? それに教会から国まで半分怒らせての勇者辞任なんだから、教会に各国の王が絶対に許さないわ、もう無理なのよ…実の息子に此処迄言いたくなかったから、遠まわしに言ってあげたのに」


「そんな」


「「「それじゃ」」」


「セレスくんと貴方達がパーティなんて組めないわよ」


もう、そろそろ話は終わったな。


「「「「セレスー-ッ」」」」


「セレスくん」


不味いな…5人と目があった。


「久しぶり! いやぁゼクト、元気してたか?」


「この間は、その助けてくれてありがとうな、生涯恩にきる、それでな…セレス…お前は親友の俺を見捨てないよな…」


何を考えているんだ?


もうすべては片付いたじゃないか?


「ゼクトが何を言っているのか解らない。マモンからも俺は助けたよな? ゼクト達はもう勇者じゃない。これからは自由に暮らせるんだ!自由は良いぞ」


「だけど、私にはお前が必要なんだ!頼むから一緒に居てくれ!頼むよ」


「今度はちゃんと優しくするから」


「セレス…あの時はゴメンね」


もう、勇者パーティの運命から逃げられて、自由に成れたんだから、後は良いだろう。


「俺はもう必要ないだろう? S級冒険者が4人も居るんだ、金なんて幾らでも稼げる。魔王とは戦わないし、旅を続けないんだから、雑用なら、従者を雇えば良いだけじゃないか? それに大好きな者同士一緒に居られて最高に幸せだろう」


普通に考えてもう障害はない筈だ。


この先、幸せな未来しか無い筈だ。


もう解禁状態だ、好きなだけイチャついて体の関係にでもなんでもなれば良いじゃないか?


此処で俺に拘る必要は無い。


幼馴染4人がイチャつくのを見ている趣味は無いよ。


急に此処でゼクトが爪を噛み始め、顔色が変わった。


「俺たちはもう終わりだ…」


ぽつりぽつりとゼクトは話し始める。


色々、言い訳をしていたが簡単に言うなら『怖くなった』そう言う事だ。


竜に恐怖し、マモンに負けた今、全てが怖くなったのかも知れない。


今でもオーガも狩れて普通より楽な人生が送れる筈だ。


だが、弱い魔物でも…負ければ地獄が待っている。


その事に今更ながら気がついたのだろう。


ゴブリンやオークでも負ければ男は殺され女は苗床にされる。


オーガの一撃が当たれば死ぬかもしれない。


冒険者はどんな弱い冒険者でも『その恐怖』を背負って戦っている。


だが、ゼクトを除く3人は、その恐怖に耐えられなくなってしまった。


「なぁ、ゼクト!お前は三人が好きなんだよな!なら責任もって養えば良いんだよ! オークマンを見ろよ10人近い妻を持ち、沢山のガキを養っているんだぞ!冒険者のクラスはお前より遥かに下だ」


「いや、セレス俺は…」


「もう俺なんて気にする必要は無いんだ!もう何処にも障害は無い、そうだろう?」


「だが、俺は勇者じゃないから一夫多妻は出来ない」


「ゼクトそれは間違いだ、勉強しておけ『勇者パーティに1回でも所属すれば』だ、その証拠に前の勇者パーティで一時、荷物運びをしていたオークマンが多数の妻も持っているし、魔法戦士の俺も静子さんという妻がいるのに、王国や聖教国から妻の打診がある…だからゼクト大丈夫だ!もし駄目なら俺がどうにかしてやる」


大体、そのハーレムで暮らすのがお前の夢だった筈だ。


その為に親友の俺を追い出したんだろうが…


その夢が叶うのに歯切れが悪いな。


「いや…だから」


「良かったじゃないか? ようやく一線を越えられるんだ、さっさと童貞を捨てて、オークマンみたいに子供を沢山作ってしまえ」


「だからー-っ! セレスお前は勘違いしているが、俺は三人を愛して等いない!そうかセレスは戻らないし…此奴らは足で纏いだ」


ゼクト…お前何を言いだすんだよ!


「ゼクト…お前、何が言いたい?俺を追い出してまで三人が欲しかったんだろう!違うのか?」


「セレスが手に入らないなら此奴らは要らない!愛してなんていない! 俺が此奴らに持っていたのは男女の愛じゃ無くて『情』だ。此処迄は『情』で手元に置いていたが、最早パーティメンバーでも無い、それじゃあな!セレスあとはお前に任せた。此奴らは置いてい…えぼばっぐっ」


馬鹿だな静子さんが居るのにそんな事言うなんて。


殴られていやがんの。


「私の教育が間違っていたようね!ゼクト今逃げようとしたわね?どういうつもりなのかな? ちゃんと説明してくれるわね?」


静子さん…本気で怒っているな。


「母さん…俺は、それでも…逃げるー――っ」


「悪いな、ゼクト…俺からは逃げられない」


俺は入り口に回り込んだ。


「なぁ、セレス、三人が好きなのは俺じゃない、お前だ!」


「流石にゼクト引くぞ!そんな嘘をつくなよ! これは言いたくは無かったが、俺を追い出してまで欲しかった3人だろうが、今なら4人で楽しく過ごせるんだぞ!いい加減にしろ!」


「本当だって! 嘘だと思うなら三人に聞いてみろよ!」


「三人ともゼクトはこう言っているが嘘だよな…」


「「「…」」」


「ほら見ろ、三人とも答えないじゃないか?」


「ゼクト…お前いい加減にしろよ!」


「私に必要なのはセレスだ。本当は恋人になりたいが、お義父さんで構わない!傍に居させて貰えないだろうか?静子さんが妻なら静子さんとうちの母さんは歳が近いんだ、私位の娘が居ても良いだろう?」


「私も恋人が良いけど、駄目ならパパ代わりで良いから傍に居させてよ!静子さんとママは同い年だし、セレスはパパとも仲が良いし問題ないよ、村を出る時パパに『娘を頼む』そう言われたじゃない」


「セレス、酷い事言ってゴメンね?私も真実の愛に気がついたの、私達元は恋人だったじゃない?駄目かな」


「4人とも…ちょっとお話しようか? ゼクトこれはどういう事かしら? 場合によっては貴方達の親にも報告するわよ」


こうなったら暫く放って置くしか無いな…俺は暫く席を外すことにした。

◆◆◆


暫くして戻ると、両方の頬っぺたを腫らしたゼクトが立っていた。


「ハァハァゼクト…貴方は本当にセクトールそっくりだわ…安易に女の子の事考えて、自分の事ばかり、もう良い、本当に我が息子ながら情けないわね、貴方はもう自由に暮らしなさい! その代わりもう縁を切らせて貰います、これで良いわよね?」


「ああっ!それで良い、そんな足手纏いはもう要らない。これでも此処迄は俺なりに頑張ってきたんだ、ちゃんと面倒も見てきたんだ…もう許して欲しい」


「あんた、まだそんな事を、ちょっと待ちなさいゼクト…リダちゃん、あんたはそれで良いの?」


「私はもう戦いたくないんだ!ゼクトがどうこうじゃなくてもう戦うのが、嫌なんだ」


「マリアちゃん、メルちゃん貴方達もそうなの」


「「…」」


「ゼクト、皆がそう言う考えなら、絶縁は取り消すわ、本当に、これで良いのね?勝手に自由にしなさい! 貴方はきっと後悔するわ、母さんはもう知らない。さぁ出て行きなさい!」


「母さん…」


「ゼクト…お前、本当にそれで良いのか?」


「世話になったなセレス、最後まで迷惑を掛けた…じゃぁな」


あの自尊心の塊だったゼクトの背中が随分小さく見える。


「ゼクト…いつかまた酒でも飲もうぜ…」


ゼクトは右手を挙げてヒラヒラして去って行った。


問題は3人だ…どうすれば良いんだよ、これ…


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