第27話 セレスSIDE 卑怯な手

冒険者ギルドに呼び出された。


嫌な予感がしたから静子さんには黙ってきた。


『英雄』絡みだ、きっと魔族との戦闘の話だろう。


「これは大きな騒ぎになるから、緘口令を引いていますが…」


ギルドの職員の顔は青い。


嫌な予感がする。


今迄で一番嫌な予感がした。


こういう事を言い出す時は絶対に俺にとって嫌な話しかない。


しかも、態々サロンを使ってまでの説明だ。


絶対にとんでもない事を頼まれるに違いない。


直感は当たったようだ。


「まずはこれを…」


記録水晶に映像が映し出された。


嘘だろう。


ゼクトがリダがマリアが、そしてメルが鎖で吊り上げられている。


しかも、四肢が揃った者は誰も居ない。


まるで人犬。


それが一番近い。


しかも、周りには沢山の死体が山積みにされている。


ゼクト達は勇者パーティだ。


此処迄の事が出来る存在等そうはいない筈だ。


まさか、魔王軍四天王が動いたのか。


「聞くまでも無いが、これを誰がやったんだ」


「魔王軍四天王、剛腕のマモンです!元、勇者達ですが、今の所は誰も死んでおりません。マモンは7日間処刑を待つそうです」


「何故だ…」


マモンを殺してやりたい。


だが、相手は『魔王よりも強い』恐ろしい存在だ。


勇者の多くはマモンを避けながら魔王城にたどり着き、魔王と対決。


そういう選択をしている。


恐らく、マモンは勇者や魔王より強い可能性が高い。


俺が行っても殺されるだけだ。


俺は頭の中で此奴の攻略法を散々練った。


他の四天王なら兎も角、此奴に勝てる方法は思いつかなかった。


たった1人に数万の人間が戦いを挑み負ける。


不条理すぎる。


その昔『ルディという猟師が善戦した』という伝説があるが眉唾だと思う。


街を一人で滅ぼせる様な相手に1人の男が互角に戦うなんてあり得ない。


まさか、ゼクト達が出会ってしまうとは思わなかった。


世界中を放浪している様な奴に出会うなんて、どれだけ運が悪いんだよ。


何時かぶつかるかも知れない!倒す為の作戦も考えた。


だが、その結果は『無理』だった。


もし、マモンを倒すなら、馬鹿な話だが大量の人間を使い『数の理』で倒す。


それしか考えられない。


だが、此奴はいったい、なんで7日間も待つと言うんだ。


「元勇者パーティ、最後の1人貴方と戦う為です!貴方の到着を待っています。もしセレス様が戦わないなら7日後には勇者達の処刑と街の人間を皆殺しにするそうです」


街の人間は何をしているんだ。


相手は1人逃げられるだろう。


「何故、街の人間は逃げないんだ」


「それは」


記録水晶には更なる映像が映し出された。


無数の騎士や兵士の死体が山積みになり門を塞いでいた。


まるで数百の死体で作った山。


そう思える。


死体をどかさなければ、此処を通れない。


いや、これを見たら、余程の人間じゃなければ怖くて此処は通れない。


恐らくは殆どの人間は家の中で震えているだろう。


4人が捕らわれている以上は関わらないという選択は俺にはない。


ゼクトは静子さんの子だ。


それに他の三人の親にも俺は可愛がって貰った記憶がある。


この状況で俺が逃げられるわけが無い。


だが、問題はどうやって戦うかだ。


ただ漠然と行っても4つの死体が5つになり、死体が1つ増えるだけだ。


苦痛から救ってあげたい…


助けてあげたい…


逃げられない…


頭の中がグルグル回る。


◆◆◆


死ぬ程考えた。


その結果、勝てる可能性が今回に限りあった。


今回のマモンは大きなミスをした。


いつものマモン相手にこんな事は出来ない。


確かに残虐だが『正々堂々』それがマモンだった。


戦争というが、魔族と人間の戦いには暗黙のルールがある。


残念だな、マモン。


今回、此奴はそのルールを破った。


『だからこそ勝てる!』


その可能性が出来た!


これがばれたら、きっともう『英雄』とは呼ばれない。


だが、これなら勝てる。


「俺はこれから、マモン対策をする!その為に通信水晶を用意して欲しい! そして、その通信水晶の1つをマモンに届ける役が必要だ!」


「マモンと連絡をとりたいなら、これを!」


「これは?」


「マモンの行動を記録水晶に収めている時に、マモンから渡されたそうです」


彼奴は何を考えているのか?


解らないが…これでどうにかなる!


◆◆◆


今日で3日目、あの様子じゃ7日間もつか解らない。


急ぐしかなかった。


考えた末『これしか思いつかなった』


通信水晶で連絡をとった。


「お前がセレスか?」


「そうだ! お前がマモンで間違いないな!」


「俺が他の誰に見える!それでお前は何処にいるんだ! 早く来ないと7日間待たないで此奴らは死ぬぞ!」


「なぁマモン...俺もこんな事はしたく無かったんだ…何時もみたいに一人で乗り込んで戦うお前相手にこんな事したら、魔族も人間も俺を許さないだろうな。だが、今回のお前にならこれは許される」


「何が言いたいんだ…早く来ないと此奴らが…」


「お父様!助けてー――っ」


「貴方!」


「てめーら勝手に喋るんじゃねー」


「イレーヌにシレーヌ、貴様、俺の妻と娘をどうするつもりだー-っ」


「あはははははっ、簡単な事だ! 殺すんだよ! 殺す…それだけだ!」


「貴様卑怯だぞ! 家族を人質にとるなんてふざけるな!」


「どこがだ? 自分がした事を考えろ! いつもの傍若無人なお前ならそれを言う資格はあるだろうな!だが、今のお前にそれをいう資格はない!『先に人質を取ったのはお前だ』違うか?」


「馬鹿な、俺は人質など取っておらぬ」


魔族と人間の間には暗黙の了解がある。


殺し合いはしても、そこには暗黙の了解がある。


少なくとも今迄魔族も人間も捕虜の交換はや、殺戮はあっても『卑怯な事』をした。そんな記録はない。



恐らくこの世界は前世の様に『なんでもあり』の戦いじゃない。


本当になんでもありなら、俺なら魔族の暮らす井戸に毒をいれまくる。


川の上流から毒をまいたり、魔族の住んでいる森に火を放つ。


だが、お互いにそれはしない。


そして、こんな人質を取る行為は『魔族であっても人間であっても最低の行為と非難される』


ある意味、甘い世界だ。


「そうか? そこに居る4人は俺の幼馴染だ! 俺が7日間以内に行かないと殺す!そう聞いたぞ! それは人質を取るのと同じだろう?」


「この4人は俺が戦い勝ったのだ、生かすも殺すも俺の自由だ!」


「あれっ? なら俺はお前の妻と娘をこれからぶちのめす! その後は何をしても良いんだな? そうだな奴隷として遠くに売り払うか? それとも殺してしまうか?」


「私はどうなっても良い…です。娘だけは、娘だけは助けて…」


「なんで? お前の旦那は、俺の幼馴染に此処迄酷い事したんだぜ…同じ目に合わせても文句はない筈だ! なぁ奴隷として売り払う方がまだ優しくないか?手足が無くなる方が辛いと思うが」


「待て! そんな事したら、勇者達を殺すぞ!」


「それは脅しにならない! 俺が行っても一緒に殺されるだけだ、どうせ俺もそいつらも死ぬ運命しか無い! ならお前にも同じ思いをして貰う!」


「解った…勇者達は殺さない…それで良いんだろう…」


「その言葉に意味はねーよ! だってそうだろう? お前はマモンなんだ! 強いんだ! 此処をもし見逃して貰っても『次に会った時に殺される』俺達にはお前から身を守る術がない」


此奴の性格からしたら、約束は守るのだろう。


だが、それは絶対じゃない。


「良く考えろ! このままこの二人は何処かの国に連れていくかな? マモンの妻と娘だってプレート下げて歩かせるか? 何時間生きていられるかな!」


「止めろ、止めてくれー-っ」


さてと此処からが本題だ。


「そうか、だったら簡単だ、お前の妻と娘の命とお前の命の交換だ!お前が死ねば、二人の無事は保証してやる」


此処で情けを掛ける必要は無い!


マモンに同情なんてする必要は無い。


此奴は大勢の命を奪っている。


その中にはただの商人や農夫まで居る。


何万もの命を奪ったんだ。


俺的には『此処迄しても問題はない』筈だ。


『人質など卑怯な方法』そう言われるかも知れないが、当人は気がついて居ないようだったが、今回先にそれをしたのはマモンだ。


『先にやった』それで押し通せば良い。


「それは出来ぬな! お前が俺が死んだあとに妻と娘を助ける保証は無い!」


脳筋だと思っていたが、そこまで馬鹿じゃないか。


勿論、こんな話を飲むと思っていない。


相手が納得のいく落としどころが必要だ。


「なぁ、その街の教会にエリクサールという魔法薬がある! お前は俺の幼馴染を傷つけた、それが問題だ! その薬をお前が奪ってきて4人に振りかけろ! 手足が元に戻り解放したのを記録水晶に映せ…確認が取れたら、俺も此処を出て行く! あと、今後の人生にはお互い関わらない事、俺の知り合いや仲間に手を出すな! その代わり、俺もお前の家族には今後手を出さない」


「それは約束だな! 俺は約束を違えたことは無い、お前はどうだ!」


「『英雄』の名にかけて約束は守ろう!」


4人はもう勇者パーティではない。


こうでもしないとエリクサールみたいな秘薬の治療は受けられない。


約束通りマモンは教会からエリクサールを取ってきて4人に振りかけた。


恐らく教会に犠牲者は出ただろうが、そこ迄は知らない。


凄いな…流石は秘薬四肢欠損すら治るとは、噂通りだ。


「さぁ、この後、此奴らを解き放てば、こちらは約束を守った事になる、そちらも守れ!」


「解った、だが、その前に4人と話させてくれ」


「良いぜ」


「ゼクト、リダ、マリア、メル、今聞いた事、見たことは絶対に話すなよ! 早くそこから立ち去れ! マモン今回の件はお互いに不名誉な事だ!口外無用だぞ」


「ああっ、お前が言うとおり、知らないうちに俺は卑怯な事をしていたようだ!お前が約束を守るなら、俺も約束を守る!」


「それじゃ、俺も此処を立ち去る」


良かった…これでもう生涯マモンと関わることは無いだろう。



◆◆◆


「助かりました」


「貴方、本当は最初から私達を殺す気なかったでしょう?」


「さぁね」


「嘘おっしゃい、本当に主人を殺したいなら、最初に私を殺した筈よ!そして、お前が死ななければ『娘を殺す』そう言えば、多分主人は死んだわ」


「買いかぶりですよ」


「まぁ良いわ、脅しもせず、協力して欲しいなんて頼む人間に殺しなんて出来ない…結局、私も娘も主人も殺さなかった」


「そうじゃなくちゃマモンは約束なんてしない! それにマモンはこういう約束は必ず守る奴だ、そこは信頼している」


「そうね」


「それじゃシレーヌちゃん、怖がらせて悪かったね」


「怖くない…お菓子ありがとう」


ようやくこれでゆっくりできるな。




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