第21話 勇者ゼクトの決意、俺だけが死ぬ未来!

あの無様な戦いの後、私達とゼクトの間に大きな溝が出来た。


『責められる』


そう思ったが、意外な事にゼクトは私達を一切責めなかった。


マリアもメルも殴られる。


その位の覚悟はしていたのに…


ゼクトは何も言わない。


最初は怒って『喋ってくれない』そう思っていたのに…違うようだ。


その証拠に話かけると返事は返ってくる。


「マリア…どうすれば良いんだ」


「どうする事も出来ないよ、あんな失態をしたんだから」


「それより、皆は大丈夫なの? 確かに竜は怖かったけど…これから先もっと険しくなるよ」


「「うっ…」」


「そうだな、あれ程の失態だ…きっとゼクトもかなり責められた筈だ」


「どんなペナルティが課されるのかしら…簡単な物の訳ないわ」


「それもそうだけど、この先どうするの?」


「「…」」


私達にはもうどうして良いか解らなかった。


こんな時にセレスが居たら、そう思うのは私だけじゃない筈だ。


◆◆◆


俺はセレスに守られていた。


そう考えると本当に情けなくなる。


彼奴は俺に本を読めと良く言っていた…


『勇者の俺には関係ない』と言って何もしなかったが、もし知識があれば違った結果があったかも知れない。


彼奴は良く俺達に『今のお前じゃ無理だ』と言って牽制していたが、その通りだった。


俺は勇者だから…ジョブのおかげで元から強い。


自分の力に慢心して考えないで行動した結果がこれだ。


彼奴は俺達についてくる為に暇があれば訓練をし、装備に常に気を使っていた。


もし、俺が同じ事をして思慮深く行動していれば、何かが違ったかも知れない。


あの場に彼奴が居ても、戦局は大きく変わらない。


だが、3人を守り元気づける。


そこ迄はやった筈だ。


そうすれば、あんな無様な負けは無かったかも知れない。


恐らくは竜の出鼻を挫いたかも知れないし、


『勝つためでなく彼奴ならきっと守る為の戦い』をした筈だ。


本当の所は解らない。


だが、彼奴ならもしかしたら…そう思えてならない。


あははははははっ!


結局俺は居なくなってまでセレスに『守られてやがんの』


彼奴が事前にしっかり教皇達と話し合い俺達に責めが来ない様にしてくれていた。


教皇様を含み、教会の重鎮相手にあの失敗の時に、喧嘩腰で交渉していたんだな…


出来るかよ…そんな事。


教皇だぞ!世界で一番偉いんだぞ!


それに喧嘩売るような交渉なんてセレス以外の誰が出来るって言うんだよ!


きっと、国王だって出来ない。


それを彼奴はやってのけた。


何で出来るんだ。


解らない。


だが理由は解っている。


『俺達の為だ』


彼奴は俺達の為に、懸命に頑張ってくれていた。


それだけだ…


◆◆◆


考えが纏まった。


だから、俺は三人を呼び寄せた。


リダ、マリア、メルは緊張した顔をしている。


当たり前だ、あれ程の失態をしたのだ、きっと俺が烈火のごとく怒る。


そう、思っているのだろう。


「そんなにしょげる事は無い、あの件は全部俺が悪い!今回はそれに関する事だが、責める話ではない…セレスがな」


俺は今回、教皇様から聞いたセレスの話を三人に話した。


「そんな事があったんだ…」


「セレスが…そんな事を」


「本当にセレスは…」


「ああっ、彼奴がしっかり話をしてくれていた為に何も責任は追及されなかったよ。それでな、俺なりに考えたんだ…しっかりした話をしたい」


「「「解ったわ」」」


「これは俺の考えだがもしセレスが戻ってくれるようであれば、パーティのリーダーを俺は辞める、俺は只のパーティメンバーになり、セレスにこのパーティのリーダーは譲るつもりだ。今更ながら俺にはその器で無い事に気がついたよ…」


「そうか…ゼクトがそう言うなら仕方が無い」


「そうね…」


「そう」


まぁ三人も薄々そう思っていたのだろう。


目を伏せてはいるが反対は無いようだ。


「それでな、此処からが本題だ!まだ、俺はパーティリーダーだ、俺がパーティリーダーであるうちに最後に一つだけ命令を下す事にした!マリア、リダ、メル3人をこのパーティから近く追放する!この間の竜との戦いで思ったんだよ!お前達は女の子だったんだってな、小さい頃は泣き虫で俺やセレスが何時も助けてやっていたよな?この間、泣いていた三人の顔はその時と同じだった。もう戦うのを辞めた方が良い。村に帰っても良いし、セレスが此処に戻らないならセレスの元に行くのも良いだろう」


「ゼクト、お前の気持ちは嬉しい、責めて無いのも解った。だが三職(聖女、賢者、剣聖)の追放なんて出来る訳ない」


「聖女の追放なんて出来ないわ」


「賢者も同じだよ」


『セレスが本を読め』そういった意味が良く解った。


「まぁ、話を聞いてくれ! まず剣聖のリダだが、問題なく割と簡単に追放が出来るかも知れない。時代により勇者、聖女、賢者の3人しか存在しなかった時もある。歴史の中には、勇者パーティから追放されて自由気ままに生きた剣聖も存在した。次に賢者のメル、これは少し難しいが、賢者は『聖属性』じゃなく魔法を極める存在だ。案外ごねればどうにかなるかも知れない。問題は聖女のマリアだ!これはどうにもならない」


俺達が『知らない』のを良い事に今迄散々利用されてきた。


少し調べるだけで、魔王討伐から逃げる話が数件見つかった。


「私とメルだけ自由になるなんて出来ないよ!」


「私の事は気にしないで、良いわ」


「駄目だよ、マリアだけ残すなんて出来ない。それにゼクトは私達を追放した後はどうするの?」


この三人はなんだかんだと仲が良い。


マリアだけ残すとは思えない。


「皆の気持ちは解っている。セレスは教皇様達の話のなかで『やりたくも無い命がけの仕事を押し付けて、失敗したら責任を取れ!なら、勇者辞めさせるよ!』そう言ったそうだ、あのセレスが根拠もなくこんな事を言ったとは思えない!何か辞められる方法があるのかも知れない!マリアも一緒に三人を抜けさせる方法がきっとある筈だ!それを俺は探す!すぐには無理だが、必ず三人がパーティから抜けれられる方法を探すから、安心してくれ!」


セレス、お前ならきっと泣いている此奴らに戦いなんてさせないよな…


俺もそうするよ!


今は出来なくても必ず三人は辞めさせてみせる!


「待って、その後ゼクトはどうするの?」


「1人じゃ何も出来ないわ」


「そうだよ」


あはははっ締まらないな。


「俺は、どうしたら良いか、セレスに聞いてみる」


それで無理なら俺が1人で戦って死ねば良いだけだ。


4-1は3。


4人が全員死ぬ未来よりも、3人が生き残る未来、俺だけが死ぬ未来。


その方がまだましだ。


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