22 魔帝討伐作戦
「……こりゃあ驚いたな」
部屋に転移して開口一番、リオが呟いた。その気持ちは良く分かる。俺も初めて転移した時はそう思ったからな。
冒険者になってから二年。俺のツリーは大分進化していた。そのおかげで魔力量も増え、大勢を同時に転移させることも可能となった。
「じゃあ国王のもとまで行きますか」
『流れ星』の面々は少し戸惑っている様子だったが、すぐに気を取り直して全員で謁見の間へと向かった。
「ようこそ、『白銀』『流れ星』の諸君」
俺たちを出迎えたのは、この国の国王――アルフ・ラ・サンタリアだった。
「お久しぶりです、陛下」
俺は深く頭を下げて挨拶をする。他のみんなも同様に頭を下げていた。
「よい。顔を上げなさい」
「はい」
顔をあげると、アルフと目が合う。彼の瞳は以前にも増して鋭い眼光を放っていたが、その奥にあるのはやはり優しさのようだ。その証拠に、アルフはリルを見て軽く目を細めた。
別にアルフとは親しい訳では無いが、彼の実の妹であるリルを任されている関係で謎の信頼関係がある気がしている。
「話は聞いているな?」
アルフの問いかけに皆一様に頷いて答えた。
「ならば話は早い。事は急を要する。直ぐ様聖国へ向かってもらう」
「転移門ですか?」
「そうだ。事の仔細は聖国についてからライオットに教えてもらえ。彼は先に向かって魔帝のことを調査しているはずだ」
「分かりました」
謁見が終わると、『白銀』『流れ星』の面々は王城の地下にある転移門へと足を運んだ。俺も使うのは初めてだ。というのも、双国の許可を同時に得ないと起動させることができないのでなかなかお目にかかることがなかった。
転移門の見た目は黄金の輪っかの中に紫紺の魔力が渦となっているという体裁だった。
「では、行ってきます」
「あぁ、頼んだぞ」
国王に見送られながら俺達『白銀』と『流れ星』は聖国へと赴くのだった。
転移門を括るとよく知った顔があった。
「来たか。早速作戦会議だ」
ライオットがそう言ってこちらを見る。ライオットに会うのは二年ぶりだ。ライオットはまったく容姿に変化はないが、俺らは多少成長している。ライオットはこちらを見るなり「大きくなったな」と一言呟いた。
ライオットについていくと、会議室に通された。そこには話に聞いていた通り耳の長いエルフ達がいた。
「この度はよくお越しくださいました。サンタリア王国のオリハルコン冒険者チーム『流れ星』そして『白銀』の皆様」
腰を折ったのは若いエルフの青年だった。その声は鈴がなるように綺麗だった。
「私は魔帝ラッカの一人息子、アデル・レクシオンです」
自己紹介したので俺は会釈して同じように「『白銀』のリーダーやってます、ハンス・ハイルナーです」と自己紹介をしておいた。しかし、王子アデルは女と言われても通じるくらい美少年だった。きっとモテるに違いない。いや、王子だからモテるに決まっているか。
「では、改めて作戦会議を始める」
ライオットが口火を切り、魔帝討伐に向けての話し合いが行われる。作戦内容は至極簡単。ライオットは既にラッカの居場所に検討をつけている。そこを集中砲火すれば良いとのことだが、懸念材料があった。
「魔族がいるかもしれない。その強さは計り知れない。よって、この作戦に参加するものは少数精鋭。私と『白銀』『流れ星』、そして聖国を代表するオリハルコンチームである『サザンクロス』で討伐に向かう。異はあるか?」
ライオットの案に皆頷いたが、一人だけ首を振った。
「私も行きます!」
「ダメです王子。王子様こそ魔帝亡き後の国王なのですから!」
宰相のような男がそう言うと、王子アデルは腑に落ちないみたいだった。やはり自身の父が魔族についたこと、思うことがあるのだろう。
「うむ。そなたが行かねばならない理由はあるのか?」
ライオットが王子アデルに詰め寄る。アデルは強い眼差しで答えた。
「はい。私は次期魔帝として、父の意志を継がなくてはなりません。何故魔族、魔王軍に寝返ったのか、その理由を知る必要があります!」
ライオットはアデル王子の瞳を見つめて、諦めるかのようにため息をついた。
「まぁよい。私と『白銀』と一緒に行動するなら同行を許可する。その代わり、死んでも責めないでほしいな」
「はい。ここにいる聖国の忠臣に告げる。私が死んだとしてもライオット、及び冒険者たちに罪はないと知れ!」
王子の主張に反論を持つものもいた。だが、王子の決意に満ちた表情に気圧されて、反論を述べる者はいなかった。
「では、向かうか。流石の私もこの人数を一度に転移させるのは骨が折れる。先ずは私と転移魔法の使えるハンスでザトナ山まで向かう」
ライオットはそう言うと転移魔法を唱えた。すると景色は会議室から木々に包まれた闇夜の森へと移った。
魔帝ラッカ・レクシオンがいるのは、魔の山と呼ばれることまある世界で二番目に高い山ザトナ山。ライオットと二人きりになったところでライオットが話し始めた。
「一つ、お前にだけは話しておく。少なくとも私の知る魔帝は人類のことを最優先とする男だった。魔王軍に裏返るなどあり得ない」
「ですが、実際には……」
「そうだ。私もスパイ活動など何か理由があると思っていた。だが、やつはついぞ理由を明かさなかった。それ故に私はやつが人類を裏切ったと判断したのだ」
「はぁ……。なら、殺すのは良くないのですか?」
「うむ。私は必要ならばあの男を殺すつもりでいる。だが、できれば他の方法も模索したい。このことを心のなかに留めておいてくれないか?」
「分かりました」
何故魔帝は人類を裏切ったのか。その理由は知らない。だが、これからの戦いは生半可な気持ちで挑むと死ぬかもしれない。俺は深呼吸を一つし、夜空に浮かぶ真ん丸の月を眺めるのだった。
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