21 宴
目の前のテーブルには豪華な食事が並び、そこに二人の美少女が座っている。そして、この食堂に集う大人たちは皆笑いながら酒を手にしていた。
「ハンス。十歳の誕生日おめでとう!」
二人の美少女のうちの一人、リルが高らかにそう言うと、王都中央ギルドは喝采で満たされた。大人たちは嬉々として酒を飲み、拍手を俺に送ってくれる。
「みんな、ありがとう!」
俺はコップを掲げると、その中に入っている果実水をがぶりと飲んだ。オレンジのような柑橘系の味で喉越しがいい。
「さぁ、今日はあなたが主役なんだから、食べて食べて」
「うん。いっぱい食べて」
セシルとリルが取皿に料理を盛り付けながら、促してくる。チキンの煮込みに、温野菜のサラダ、魚介のスープなど、食欲のそそられるラインナップだった。俺は二人から料理を受け取って応える。
「そのつもりだ。二人もたくさん食べていいんだぞ」
「私は、私の誕生日の時に食べすぎたから、自重するつもり」
セシルは自身のお腹を気にするように見た。痩せてると思うんだけどな……。本人は気にするのだろう。
「私は食べまくるわ!」
一方のリルはテーブルの料理を一つ残らず自身の取皿に盛って、食べつくそうとしている。そんな折、声がかかった。
「よう、ハンス。成人おめでとさん」
声のした方を向くと、酒臭い金髪でサイドを刈り上げた屈強そうなハンサム男が一人、満面の笑みを浮かべていた。
「あぁ、リオさん。ありがとうございます」
俺がお辞儀をしてそう言うと、リオは面倒くさそうに開いている方の手を振り、そのまま肩を組んできた。やはり酒臭い。
「かしこまらなくていいって。俺らの仲だろ?」
「そうよ。それに、同じオリハルコンの冒険者なんだから」
顔を上げると、リオの仲間のシアンさんがいた。彼女は紺色の長髪をしていて、かなり背が高い。スタイルもいい。リオとシアン、そして他二人の計四人の冒険者チーム『流れ星』は冒険者最上ランクであるオリハルコンのチームだ。二年前、冒険者に成り立ての俺達に『流れ星』のみんなは色々と教えてくれた。そのリーダーであるリオは何かと面倒を見てくれる。
「お前も酒飲め! 成人なんだからさ」
「酒は15歳からですよー」
「は? んな細かいこと気にすんなよ。なぁ、リルちゃん?」
「え、何の話ですか?」
リオがリルに訊くと、リルは首を傾げた。これは食べるのに夢中で話を聞いてなかったな、リル。どんだけ食い意地張ってるんだよ。
「ねね、折角の機会だし、『白銀』の武勇伝でも聞かせてよ」
興味津々とした様子でシアンさんが聞いてくる。確かに、こういう時くらい自慢話をしてもいいだろう。
それから俺は冒険者になってから二年間の武勇伝を語った。北の山脈でドラゴンを使役した話とか、王都を襲撃した魔族を倒した話とか、未踏破のダンジョンをクリアした話だとか、色々話した。だが、リオは最後の方は酔が回ったせいか、あまり話を聞いていないようだった。今は机に突っ伏している。大丈夫か?
それに、俺の隣に椅子を持ってきて座っていたシアンさんは、やたらとスキンシップというかボディータッチが多い。リルは食べ物に夢中だが、セシルがなんかこっちを睨んでいるような気もする。いや、睨んでるな。
「ねぇ、ハンス。耳かして」
「えぇ、いいですけど……」
シアンさんが耳元で小声で話す。
「あなたさぁ、付き合ってる子とかいないの?」
「い、いませんよ。なんですか急に」
「ふーん。じゃあ、セシルちゃんとリルちゃん、どっちが好きなの?」
「それは……」
俺は返答に困り、沈黙した。
「ふふ。冗談だよ」
戯けるように笑ったシアンさんの真意は汲み取れないが、酔っているせいかその微笑みは妖艶としていた。俺がシアンさんの表情に見とれていると、ドタンとギルドの入り口の扉が大きな音を立てて開いた。
そこに立っていたのは立派な鎧を身にまとった騎士だった。彼はあたりを見回していて、俺と目があった。途端、血相を変えてこちらに駆けてきて深くお辞儀をすると、慌てて話し始めた。
「私は王国聖騎士隊に所属する者で、国王様の勅使であります。この度、四劫帝が一人、魔帝ラッカ・レクシオン様が魔王軍に寝返りました。至急に討伐隊が組まれます。国王は賢帝ライオット様とともにオリハルコン冒険者である『流れ星』『白銀』の二パーティーを王城に召喚します」
聖騎士が言い終わると、リオが質問した。
「おいおい、魔帝って……。まさか聖国リーエンが魔王軍に占領されたのか?」
「いえ。今のところ聖国は攻められていません。ですが、エルフの長でもある魔帝が魔王軍に情報を流していたようなのです。それをライオット様が調査し問い詰めたところ逃亡したとのことで、この度討伐隊が組まれるとのことです」
「ふむ……。だが、相手は魔帝だろ? いくら賢帝ライオット様がいても、厳しいのではないか?」
「それに、魔帝を殺してもいいのかしら。一応はまだ聖国の王なわけだし……」
「その心配はごもっともかと存じます。ですが、放置こそ愚策と国王様は判断されました」
リオとシアン、そしてセシルは俺の方を見てくる。どうするか確認しているようだ。リルはこんな状況でもまだ料理を食べている。逆に尊敬してしまうな。
「分かりました。俺は行きます」
「俺は、とか言うなよな。『流れ星』だって行くぜ」
先よりも酒臭いリオが肩を組んできた。だが、嫌な気はしなかった。
「みんな! 今日は俺の成人のために集まってくれてありがとう。だが、行かなくちゃならない用事ができた!」
俺は別れと感謝の挨拶を酒場のみんなに告げる。みんなは行って来いとか、頑張れとか応援の声をかけてくれる。
「では、至急王城に来てください」
確認するように告げた聖騎士がそのままギルドを出ていこうとしたので俺は彼の肩を叩いた。
「転移で先行ってますね」
聖騎士の返答を聞く前に、俺は『流れ星』と『白銀』のメンバーを王城の一室、国王から与えられている部屋へと転移させた。
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