6 いきなりピンチ
今しがた門番の男、ではなく、サンタリア王国が遣わしたラモ・フォゼット(本名かもどうかも怪しいが)から、娘となっているリル・フォゼットが、実は第一王女であると明かされた。俺は正直めちゃくちゃ戸惑っていたが、もうあとには引けないので、演技を貫くことにする。
「ほう。そういうことだったか。私自身疑ってはいたよ。そうか。全ては父上の仕業か。で、マリアは何も知らないのだな?」
俺はそう言って誤魔化す。
「ご明察。マリアは一般人です。未亡人だった彼女の記憶を私が書き換えたのです」
「ということは【幻術師】か?」
「いえ、違います」
「ふむ。では、【賢者】か?」
「惜しいですね」
「ではまさか、【勇者】?」
「いえ。では、ヒントです。私の本名はライオット・リードロット」
ライオット・リードロット。田舎出身の俺でも聞いたことのある名前だった。
「まさか、あの! 伝説級の、存在さえ幻のLランク、【大賢者】!」
「そうです。よくご存知で。まぁ、自慢話は好きではありません。今日はお疲れでしょう。お休みになってください。それにしても、護衛をつけると魔族に狙われるから一人で来ることになったことかと思いますが、よくご無事で」
魔族? なんだそれは。ゲームとかによく出てくる、明らかな敵キャラだよな。魔族とは穏便ではないが、とりあえずラモ改め、ライオットに返答しなければ。
「何、取るに足らないことばかりであったな。心配は無用だ」
「そうでしたか。流石【大魔道士】でございます。いやはや。Aランクとは噂に聞いていましたが、その中でもSランクに最も近い職業の一つと呼ばれる【大魔道士】だったとは」
「なに。そう煽てるでない。【大賢者】の貴方が何を言うか。そうだな、そろそろ夜も深まったし、我はもう寝る」
「そうですか。では、寝る前に一つ……。【大賢者】の魔法にこんなものがあるのは知っていましたか?」
【全鑑定】
それを訊いて俺は鳥肌が立った。もしかして、もしかしているのか? だとしたら非常にやばい。やばいなんてもんじゃない。尋常じゃなくやばいかもしれない。
「貴方に王女のことを話したのは、なぜだと思いますか、シルヴァーナ様? いや、ハンス・ハイルナー」
ここでライオットの口調や雰囲気がまた一変した。もう、ライオンの前に立つ子鹿のような気分だった。
「やはり、分かっていたのか……」
ここまで来てこの口調を貫く俺に自画自賛しつつ、内心俺は慌てていた。やばいやばい。このままだと絶対にやばい。つまりはそういうことなんだ。いや、そうに違いない。だが、恐ろしくて自分の口から言うことができなかった。
「答えないのなら教えてあげよう。答えは簡単だよ。お前のことはいつでも殺せたからだ。本当なら出会ったときに王族の家名を偽る罪で殺せたのだが、一つ、【大賢者】の私にもわからないことがあった。お前の職業はなんだ?」
ライオットの眉間に皺が寄る。
「お前の職業は【ツリーマスター】とあるが【ツリーマスター】など生まれて初めて見た。【全隠蔽】さえ看破する【全鑑定】。今まで悠久の時を経て、幾千幾万もの隠蔽を見破ってきたが、お前のその職業は初めて見る。お前は何者だ? 私はそれを見極めるためにお前をあえて生かし泳がせていた。なぁ、答えろ。お前は何者なんだ?」
俺は黙ってライオットの話を聞くしかなかった。その錨のように重い声も、鷹のように険しい目つきも、とてもじゃないが話を遮ることなどできなかった。
「わからない。ですが、異世界からの来訪者、とでも呼べばいいでしょうか」
「なぬ、異世界だと? それは本当なのか?」
「はい。俺は異世界の記憶を持ってます」
「ふむ……」
ライオットは俺が異世界からの来訪者であることを告げると、考え込んだ。俺は緊張して待つが、異世界から来ていることが、活路に見えた。
「異世界とは、この世界とどれほど違うのか?」
「先ず、魔法やスキル、ステータスが存在しません」
「何だと!?」
ライオットは珍しく驚き目を見張る。
「はい。そして、科学とよばれるものが発展していて、人間は魔法やスキルを使えない代わりに知恵を発展させました」
「カガクか……。興味深い。もしかして、あれはお前のことだったのかもしれぬな」
「なんのことですか?」
「なに、気にするな。そうだな。お前を殺すのはやめておこう。だが、お前を私の監視下に置くことにした」
「監視下?」
「私が許可を出すまではこの町に住んでもらう。もちろん家はここだ。いいな?」
「分かりました」
そう言うと俺は気が抜けたのかため息が出た。
「それと、私の【全隠蔽】でお前の職業だけを【大魔道士】に書き換えておこうと思う。後々お前の職業については訊くが、正直、【全隠蔽】を持たぬうちは【隠蔽】をするのは勧めない」
「同じランクの【鑑定】に見破られるからですね」
「それもあるし、見破られたら厄介だからな。【鑑定】を持つ輩は無駄に正義心のある奴らだ。疑われたら面倒だよ」
俺は黙って頷いた。そして、ライオットが俺のステータスの職業を【全隠蔽】で【大魔道士】にしてくれた。
「なに。私の監視下にいる限りは安全だ。いずれにせよ今日はもう遅い。寝るのだな」
「分かりました」
俺はライオットに自室まで案内されると、そのままベッドに突っ伏した。だが、先程までのやり取りが想起され、寝るに寝付けなかった。こうなったら仕方ない。
「ツリーポイント振りますか」
そう呟くと俺はステータスウィンドウを開いた。
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