第2話 自分の力で

東京に住む母の弟の名前は海堂拓也。

母の歳の離れた弟。

とても優しくて穏やかな人だったのを覚えてる。

まだ、20代前半だがそこそこ売れている画家で収入があるとのこと。


2年前。兄が13歳。

私が10歳。弟が7歳の時に、拓也さんは1度沖縄に尋ねたことがある。

茶髪で白いシャツを着て青いジーンズ。

キャンパスの道具を持ってきていた。


 私たちが家族で海で遊んでるところを、彼はキャンパスと筆を持って黙々と絵を描いていた。

 

 家に帰ってから描いていた絵を見せてもらった。

 まるで、絵に命が宿ったように、そこに家族が存在していた。


母の瑠璃が絵を見ながら深々とつげる。

「昔から拓也の絵はすごいわ。」

父の吉勝も「見事なものだ。」と関心する。

弟の空も「すごいね。」と笑顔だ。

 兄の優はプライドに触れたのか。眼鏡に触れ「僕だってこれくらい...」

拓也は優の頭に触れる。

 「優君は自由に描いていいんだよ。」


私は自分の部屋にある宝箱を出して、ピンクの貝殻を渡す。

 「愛花ちゃん?」

拓也さんは疑問を口にする。

「とても、素敵な絵を描いてくれたから私の宝物をあげる。」


 はじめは目を丸くしていたが、意図を察した拓也さんは微笑んで貝殻を受け取った。

 「ありがとう。」


家族は皆、笑顔だ。

 この幸せが続けばいいと私は思った。


だけど、このあと間もなく母が病気で亡くなりなりその願いは崩れ去った。


私はこの2年間。

母の代わりになろうと家事全般頑張ってきた。


 家に帰る途中。幼なじみのほんわかしてる顔立ちの相沢健が話しかけてきた。

 健とは幼稚園の頃から遊んでた。一緒に育った仲間だ。

 「今日、沖縄から出発なんだ?」

感情が読めない表情ー...

 「うん。今までありがとうね。健。」

 

 私は早足で健を追い越していく。


「愛花!!」

大声で名前を呼ばれてビクッとなる。

笑顔で頷いた。

「僕も大人になったら、東京へ行くから待っていて。」


私は感情が読めないと思っていた健の必死な表情に笑顔で頷いた。


 愛花はリュックに荷物を詰め込んだ。今までの思い出も。

空港までは父が車で運んでくれる。


兄の優に「元気でな。愛花。時々は連絡くれよ。」と言われて、「うん。兄さんもね。」と返す。


弟の空は私の腕を掴む。

「嫌だ。行かないで。姉ちゃん。」

涙を流している。

私はグッときたが、空を安心させるようにいう。

「大丈夫だよ。空。手紙も書くから。どこにいても私は空の姉ちゃんだよ。」


 空港までの車内。

「ごめんな。愛花、俺がもっとしっかりしていたら。」

父の謝罪の言葉に、「ううん。」と首を振る。


「私は家族を守りたいから。後悔はしてない。それに大人になってお金を貯めたら戻るよ。

自分の力で。」


こうしてこの日、私は沖縄から東京に行く飛行機へ乗った。









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