第46話 大教主様
「アラド様~、此方の病室にも沢山居ますよ~♪」
サランに呼ばれて行ってみると、ずらりと並んだベッドに貧しい身形の人々が横たわっている。
「面倒だから全員治せ、それが終わったらお仕置きだ!」
サランの〈はーい〉って声を合図に端から順に(ヒール!)と唱えていくが魔力切れには注意。
最も瀕死の病人ではないので一度に使用する魔力は少なく、終わった時には半分以上魔力が残っていた。
サランも、未だ未だ大丈夫ですと元気だ。
元の部屋に戻り、大口を叩いて俺達を連れて来た騎士の所に行く。
此奴は両足の向こう脛を叩いておいたので立てなくなり、這って逃げようとしていた。
「よう、俺を連れて来いと言った、ロフスク大教主様の所へ案内しろ! 嫌なら、泣き叫んで許しを請うまで痛めつけるぞ」
「糞ッ、教会に刃向かう馬鹿が! 生きて帰れると思っているのか」
「あーそれね、良く聞く台詞だわ。そんな事を言って生きている奴はいないよ」
両足の膝を打ち砕き、煩い口をフルスイングで殴りつける。
白目を剥いて気絶した奴を放置して、震えている騎士の所に行く。
「どう、君ならロフスク大教主って馬鹿の所に、案内してくれるかな。嫌なら別に強制はしないよ、他にも沢山お仲間がいるからね」
木剣で頭を叩きながら聞くと、涙目で案内しますと言ってくれる。
一人じゃ心許ないので、三人ほど足を治療してやり、前を歩かせる。
病人を収容している建物から、程ない距離に在る大きいだけで何の変哲もない建物に案内された。
建物の中に入ると衛兵が建っていて、仲間の騎士と俺達を不審そうに見ているが、騎士の腕が折れているのを見て制止の声が掛かる。
〈止まれ、ふしん・・・〉
声を上げる途中で、サランのアイスアローを食らって全員倒れ込む。
「ほらっ、ぼけっと見てないでさっさと歩け! 病人は助けるけど、指示に従わないお前等なら、幾らでも殺すぞ」
そう言うと、呻きながら歩き出す。
外観の素っ気なさとは違い、中は豪華絢爛で贅の限りを尽くした造りになっている。宗教ビジネスの、元で要らずの荒稼ぎがよく判る。
何せ建物も神像も経典や衣服まで、全て信者が賄ってくれるんだもの。
舌先三寸、テキ屋の啖呵売より元手が掛からないからなぁ。
通路の奥に又々衛兵が立つ場所が有った。
其処が、俺達を呼び寄つけた張本人の御座す所だそうだ。
サランが即座にアイスランスを連射し射ち倒す。
「無茶苦茶だ! 何故殺すんだ!」
「あーん、俺は敵認定した奴に情けを掛ける気はないんだよ。特に神様の名を騙って金儲けしている奴相手にはな」
転がる衛兵をどかし、創造神様を称える華麗な彫刻が施された扉を押し開く。
大広間と言っても良い広い部屋の中央でふんぞり返る男、テーブルには果物や各種の菓子が山盛りの皿と、酒杯の横にはつまみの皿も有る。
取り囲むように美女が笑みを浮かべているが、場違いな俺達を見て反応できず固まっている。
純白の衣装にキンキラキンの刺繍が施されていて、頭には宝石で飾られた宝冠と指にはゴテゴテの宝石が連なる成金丸出しのおっさんがふんぞり返っていた。
ゲンナリするほどの俗物な姿に萎える。
俺はこんな男の相手をする為に呼び付けられたのかと思ったら、無性に腹が立ってきた。
「誰だ、お前は?」
「お前が呼び付けた、アラドだよ」
「予に対し、その口の利き方は何だ! お前達何をしている! その男を跪かせろ!」
腕が折れている騎士に気付かず、偉そうに命令するが誰も動こうとしない。
敵対すれば殺すと公言している相手に、怪我をしている自分では勝てないと判っているので従わない。
此れほど威張っているのなら、室内にも護衛を置いておけよと言いたい。
「ロフスク大教主で間違いないよな」
青い顔をして震えている騎士に尋ねると、無言で頷き目をそらす。
「そのアラドが、何故勝手にこの部屋に来る」
煩いので黙らせる為に駆け寄り腹を蹴りつける。
〈グェッ〉て呻き声と共に、腹の中の物を撒き散らしてのたうつおっさん。
おっさんの周囲に侍っていた美女達が、漸く反応し悲鳴を上げて撒き散らされた汚物から逃げる。
俺も汚いおっさんに触れたくないので、木剣で小突きながら尋問する。
「何の用で、お前が俺達を呼び付けたんだ、納得のいく説明をしなければ創造神様の元に送ってやるぞ」
「おまっ、お前っ・・・」
「アラド様! 大勢やって来ます」
「サラン、済まんが此の部屋には誰も近づけるな、気にせず蹴散らせ!」
「はい!」
良いお返事と共に扉の所へ走って行き、通路の左右に向けてファイヤーボールを射ち出す。
〈ドーン〉〈ドーン〉と二度の破裂音の後は静かになってしまった。
まさか、いきなりファイヤーボールを射たれると思わず、無警戒で近づいて来たのだろうから、被害甚大に違いない。
通路の外はサランに任せて、俺はロフスク大教主様のお相手をする。
木剣で頭をゴンゴン叩きながら質問を繰り返す。
頭が痛いのか、手で庇ってきたので強めに叩いてやると、指輪が潰れて指が折れた様で呻き声を上げて手を抱えている。
「好い加減に喋れ! 喋らないならその素っ首を斬り落とすぞ!」
木剣から長剣に持ち替えて構えるが、大教主様の周囲は汚くて近づけない。
長剣に防御結界を纏わせて3m程のライトソードを作り突きつける。
「これだ! 光の剣の使い手がいると報告に在ったが、治癒魔法も自在に使うと聞いて呼ばせたのだ。創造神ウルブァ様に仕えよ。教会騎士団でその光の剣を信者達に示せば、益々信仰を高められるぞ」
組織内の権力闘争には長けているのだろうが、此奴は相当な馬鹿だ。
大教主の名が、最高権力者を示すものかどうかは知らないが、教会の警備状況はグダグダである。
貴族の館の警備と比べればそれがよく判る。
宗教権力が無敵と勘違いしている。
王国側は教会と対立すれば領民に背かれるのを恐れて、教会を支配下に置かないだけだと知らないのか忘れているのか。
今、自分の身が危ないのも気付かずに、教会の権威と自身の功績を高める事にのみ意識が集中している。
神の名に背く者がいるなどとは、微塵も考えが及ばないんだろう。
残念ながら、創造神ウルブァ様の存在を信じるし魔法も授かって感謝をしているが、ウルブァ様の名を騙って、金儲けをする奴に払う敬意は持ち合わせていない。
大喜びで創造神ウルブァ様の、権威を高める構想を夢見ている大教主様の肩を、ライトソードで一突きして夢から現実に引き戻してやった。
〈ギャーァァァ・・・いっ、いっ、痛い!〉
「妄想の途中で悪いが、此れは実用品でね、夢から覚めたかい?」
そう言いながらライトソードで肩をグリグリと抉ってやる。
〈痛たたた、止めろ!〉
「止めろ? 未だ立場が判って無いな。俺の質問に答えないのなら痛くない世界に送ってやるぞ! もう一度だけ聞くぞ、何の用で俺達を呼び付けた!」
「止めろ・・・止めて下さい、痛い」
「喋れば止めてやるさぞ。痛いのと喋るかどちらかを選べ!」
「喋ります、喋りますから止めて下さい」
泣きながら俺達を呼び付けた経緯を話し出した。
発端は冒険者の噂話だった、治癒魔法を軽々と使い熟す男がいると。
其れが事実らしいと、ウインザの教会から報告が来たのだ。
奴隷商とエコライ伯爵がその男に襲われて多数の重傷者を出すも、ヒールの一言で次々と治したと冒険者達が騒いでいると、報告書に有った。
その男の名はアラド、緑の瞳に紫の髪で身長約165cm位の少年だと。
教会の神父に手配して探させたが杳として行方が知れなかった。
それが、オルデンの街の教会に赴任した神父の交代で、王都に向かっていた馬車が襲われた時に、助けに現れた男と少女が光の剣を使い二人して治癒魔法を使ったと報告が届いた。
人相を詳しく聞き出したところ、一人は手配していたアラドなる少年で、少女はアラドより頭一つ背が高く薄紫の瞳に灰色の髪と判った。
神父の報告では、オルデンの方面に向かったらしいので探させていたのだが、王都のホテルにそれらしき二人連れが投宿していると連絡が来たので。迎えに行かせた・・・って。
「で、俺達を連れて来て、いきなり治癒魔法の腕を確かめたのか?」
「そうだ、そうです。治癒魔法はウルブァ様からの賜り物だ、街の治癒魔法ギルドや野放しの治癒魔法使いは教会の元に集うべきだ!」
「で、女を侍らしジャラジャラ指輪を付けて宝冠を被るお前が、贅沢をする為に稼げってか? 残念だねぇ、神様の名を騙って稼ぐ奴は俺の好みに合わないんだよ」
反対側の肩にもライトソードをプレゼントして、グリグリ攻撃で痛めつける。
「やっ、止めて下さい、血を止めて・・・お願いです。死にたくない」
「んー、お前が此の教会本部のトップなのかい」
返事がないと思ったら、白目を剥いてへたり込んみ気絶していやがった。
後ろで震えている騎士にこの教会本部のトップは誰だと訊ねると、教皇様がトップだと答えた。
教皇、大教主三名、その下に各地方を統括する統括教主がいて、神父や治癒魔法師と鑑定魔法師等を従える、ピラミッド構造になっているらしい。
治癒魔法師は光の魔法師と癒やしの魔法師に別れていて、貴族や豪商相手には光の魔法師が治療にあたっている教会のドル箱。
さっき俺達が治療した相手は、中規模商店主の家族や下位貴族の家族や親族で大した金にならない相手だと。
大部屋でベッドが並んだ場所は教会の宣伝の為に比較的症状の軽い者達を銀貨10枚程度で治療しているそうだ。
見せ掛けだけの慈善事業すらやる気が無いって、徹底した拝金主義だねぇ。
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