2-4:「死の集落Ⅳ」
集落から脱出した指揮通信車は、集落から1㎞程の地点まで退避。東方面偵察隊は、その場で態勢の再構築と、状況の整理を行っていた。
各銃座にはそれぞれ矢万と策頼が付き、警戒を行っている。
そして指揮通信車の隊員収容用スペースでは、出蔵が新好地の手当てを行っていた。
「――うん、骨も内臓も異常無いですね」
「そうか、良かった……痛てッ!」
「ただし体を強く打ってることに変わりはありませんから、回復には少しかかりますよ」
「ッー……了解……」
出蔵の言葉に、新好地は顔を顰めながら返した。
「あの、ごめんなさい……」
そこへ指揮通信車の外から声が掛かる。開け放たれた後部ハッチの側に、ニニマの姿があった。彼女は新好地の手当ての様子を、ずっと見守っていたのだ。
「嬢ちゃんが謝ることはねぇさ」
「でも、私のせいで……えっと……」
そこで少し戸惑った様子を見せるニニマ。
「ん?あぁ――おれは新好地だ」
新好地はその意図を察し、自分の名前を告げる。
「に、ニーコーチさん……?」
「呼びにくかったら、
「えっと……私のせいでラクトさんが……」
「俺が勝手にやった事だ、嬢ちゃんが気にする必要はねぇさ」
「でも――いえ、ありがとうございました……」
ニニマはそれ以上は返って失礼だと判断したのだろう、少し割り切れないといった表情だが、新好地に向けて礼を言った。
「えっと、いいですか?」
そこへニニマの背後から声が掛かり、河義が姿を現した。背後には制刻や剱、ハシア等の姿も見える。
「は、はい!」
「あぁ、すみません。私はこの偵察隊の指揮を任されています、河義と申します」
驚き振りむいたニニマに、河義は謝罪と自己紹介をする。
「あなたはあの集落に住んでいる方ですか?」
「は、はい……」
「では申し訳ないのですが、教えていただけませんか。あの集落で何があったのか?」
河義のその質問に、ニニマは困惑した表情を作る。
「……ごめんなさい、私にも分からないんです……。私は一週間の間、月橋の町への使いでこの村を離れていたんです。そして今日の夕方にやっと帰ってきたら……」
「あの事態か」
ニニマの言葉の最後を、制刻が引き継ぎ答えた。
「ハシア、オメェさんは何か分からないのか?」
制刻はハシアに尋ねる。
「すまないが何も……正直、集落での光景だって、未だに信じ切れていないんだ……」
「それに関しちゃ、俺達も同じだけどな……」
ハシアの返答に、新好地が同意の言葉を発した。
「何が起こったのかも気がかりだけど、今一番心配なのは、アインプだ……」
ハシアは囮となってはぐれたアインプの身を案ずる。
「アインプさん――たしか女性の方でしたね?そう言えば、他のお二方の姿も見えませんが……?」
「あぁ、ガティシアとイクラディは、別ルートを取ってるんだ」
河義の疑問の言葉に、ハシアは答える。
ハシアによれば、他の二人は別方向にある町への使いに行っているとの事だった。そしてハシアとアインプは最短ルートである連峰を越える道を通って月橋の町を目指し、そこで情報を収集。後に町で後の二人と落ち合う事になっていたらしい。
「目的地は私達と同じなんですね」
「その道中で、あの集落を見つけたわけか」
河義と制刻が順に言う。
「あぁ。そして集落を訪ねてみたら、村人に追いかけられてるニニマさんと出くわして、そのまま逃げ回る羽目になったんだ。その途中でアインプは、僕らを逃がすために……」
「ごめんなさい……私のせいで戦士様が……」
言葉尻を暗くしたハシアに、ニニマが謝罪の言葉を述べる。
「よしてくれニニマさん。あの判断を下したのはアインプ自身だし、それを受け入れてニニマさんを連れ出したのは僕だ。ニニマさん、君のせいじゃない」
謝罪を述べたニニマに、ハシアはそう返す。
「でだ。あの集落がどうしてああなっちまったかは、誰にも分かんねぇわけか」
「情報が少なすぎるな……」
制刻がハシア達の会話に割って入り、河義がそれに続いて呟いた。
「何が起こっているのかは皆目不明だけど……僕はもう一度集落に行ってみるよ」
「待ってください、ハシアさん一人で行くつもりですか?」
ハシアを河義が差し止める。
「アインプが集落に残されてる。彼女は大切な仲間なんだ、放っておく事はできない」
しかしハシアは、確固たる意思の籠った言葉でそう返した。
「河義三曹。俺等は、どうします」
制刻が河義に尋ねる。
「あれを見てしまった以上、素通りするわけには行くまい」
「んじゃ。もいっぺん、乗り込むしかねぇようですな」
「だな……異論のある者は?」
河義が尋ねるが、各員から異論が上がる事は無かった。
「――よし決まりだ、各自装備を整えろ。じき暗くなるから暗視眼鏡を忘れるな。10分後に、集落へ再度突入する」
河義の指示で、各員は準備に取り掛かる。
「すまない、本来君達には関係の無い事なのに」
「村では、あなた方に協力していただきました。お互い様です」
申し訳なさそうにするハシアに、河義はそう返した。
準備の傍ら、指揮車の近くでは制刻と出蔵が、偶然持ち出すことのできた獣のようなゾンビの死体の検分を行っていた。
「これが動いてただなんて、信じられませんよ」
「あぁ。だが、奴等は実際、俺等に襲い掛かって来た。オメェも見たろ?」
ゾンビの死体を眺めながら言葉を交わす二人。
「あの、何を……う……!」
そこへニニマが歩み寄って来た。彼女は制刻等の足元に転がるゾンビの死体に気付き、顔色を変える。
「あぁごめん、嫌な物見せちゃったね。ちょっと検死をしてただけなんだ」
「検死……あなた、お医者様なんですか?」
ニニマは小柄な女子である出蔵の姿を見ながら、意外そうに発する。
「そんな大層な物じゃないよ。ちょっと心得があるだけ」
対する出蔵はそう発する。
「……あの、村の人達は……本当に死んじゃったんですか?」
ニニマは出蔵に恐る恐る尋ねる。
「うーん、そうだね……この体に限って言えば、大分腐敗が進んでるし、少なく見積もっても二日前にはもう……」
「……」
「これは推測だけど、村の人達が動いているのは、個々の意思によるものじゃないと思う。何かは分からないけれど、別の要因によって、一度死んだ体を無理やり動かされてるんだと思うんだ」
「そんな……いえ、ありがとうございます」
出蔵の推察を聞いたニニマは、悲し気な表情のまま礼を言った。
村の中心部にある、ある家屋の一室。
「ん……ここ、どこ……――はっ!」
そこでアインプは目を覚ました。
「気が付いた?」
そして地面に横たわる彼女の前には、一人のローブ姿の女が立っていた。
「だ、誰!?――あ、あれ……?し、縛られてる!?」
床に横たわったアインプの両手両足は、縄で拘束されていた。
「残念だったわねぇ、頑張ったのに。でもおかげで、アンデッドちゃん達のいい情報が撮れたわぁ」
ローブ姿の女はその整った顔に薄気味悪い笑みを浮かべて言う。
「だ、誰だよお前!ハシアは!?」
「うふふ。勇者様ともう一人がどうなったのかは、残念だけど私にも分からないの。ただ、勇者様の魔力が感知できなくなった所を見るとぉ、逃げ出したか、それとも――アンデッドちゃん達に殺されちゃったかなぁ?」
その言葉にアインプの顔は青くなる。
「そ……そんな事あるかぁ……ッ!ハシアはなぁ、無敵なんだぞぉッ!」
しかし慌てて首を振り、ローブの女に言葉を返すアインプ。
「うふふ、元気で健気ねぇ。それに強い力を感じるわぁ。良質な研究材料になりそう」
言うとローブの女は、妖艶な動きで小さく舌なめずりをする。
「うぅ~、何をわけわかんない事言ってんだぁ……!」
「そのうち分かるわ。ま、今は大人しくしててねぇ」
言うと、ローブの女はその一室から出ていく。
「あ、待て!ちょ……くっそぉ、ハシア~!」
集落の入り口付近。
そこに何かに集る数体のゾンビの姿がある。ゾンビ達は揃って地面にある何かを貪っている。それは村人の死体だ。元は同じ村人であった彼等は、今や食人鬼となり下がり、人の亡骸を食い漁っていたのだ。
そんな彼等の内の一体は、何か近づく物音に気付き、死体から顔を上げて振り向く。
「――オ゛ッ」
そのゾンビの頭部が、次の瞬間割れたスイカのように弾け飛んで消えた。
そして重い破裂音が遠方から響き、それに合わせて死体に集っていたゾンビ達が次々と弾け飛んで行く。
やがて動くゾンビ達が一人もいなくなった所で、その傍を指揮通信車が重いエンジン音を唸らせて通り過ぎた。
「おい……今のゾンビ達、人を食ってたんじゃないか……?」
指揮通信車の上で12.7㎜重機関銃の発砲を終えた矢万が、背後に視線を送り、先に弾き飛ばしたゾンビ達の亡骸を見ながら発する。
《人を食べるのなら、ゾンビではなくグールでは?》
矢万の言葉に、無線越しに鬼奈落が疑問の言葉を寄越す。
「細かい区分なんぞ知るかよ」
それに対しては、車上で警戒に付いている制刻が返した。
「各員、よく警戒しろ。まずはハシアさんがアインプさんとはぐれた地点まで向かう。ゾンビが出たら、指揮車に近づけるな」
指揮官ようキューポラから半身を出す河義は各員へ指示を出しつつ、指揮車の前方、斜め上へと視線を向ける。
視線の先の家屋の屋根の上には、指揮車に先行して屋根の上を飛ぶように駆けるハシアの姿があった。
「すげぇな、あいつ……」
同様に上に視線を向けていた矢万が呟く。
《――えっと、聞こえるかい?》
そこへ、各員のインカムにハシアの声が響く。ハシアには、相互連絡を容易にするため、隊の装備品であるインターカムが渡されていた。
「えぇ、ハシアさん。聞こえます」
ハシアからの通信には河義が返す。
《何か、側にいないのに声がするって変な感じだね……あぁそれより、道の少し先に集団が見える。おそらく、アンデッドだ……》
「待ってください――確認しました」
河義は暗視眼鏡を覗いて道の先を確認する。そこにはハシアの言う通り、10体以上のアンデッドが蠢いていた。
《どうする、僕が切り込むかい?》
「いえ、こちらでやります。ハシアさんは、上から周辺の警戒を願います」
《分かったよ》
そこで一度ハシアからの通信が終わる。
「策頼、彼等を攻撃しろ」
「了」
河義の指示を受けて、策頼は車体前部に据え付られたMINIMI軽機を旋回させ、前方に向けて発砲を開始。撃ちだされた5.56㎜弾の群れは、蠢いたゾンビ達に襲い掛かり、彼等をなぎ倒した。
「おおよそ倒しましたが、数体まだ動いています」
策頼の報告通り、地面には銃弾を受けて尚、這いまわっている何体かのゾンビの姿があった。
「構わん。鬼奈落士長、そのまま前進しろ」
《了解です》
河義の指示を受け、鬼奈落は指揮通信車のアクセルを踏み続ける。そして指揮通信車はゾンビ達の群れに突っ込み、コンバットタイヤが這いまわるゾンビ達を引き潰して息の根を止めた。
「うわぁ、嫌な感じ……!」
車内では、出蔵がコンバットタイヤ越しの人を引き潰す感触に、嫌な声を上げた。
《見えた、前方の交差路だ》
指揮通信車がしばらく進んだ所で、ハシアから再び無線越しの声が届く。どうやら指揮通信車の進路上にある交差路が、ハシアとアインプが分かれた場所のようだった。
「鬼奈落士長、交差路の中央で停車してくれ」
《了解》
指揮車は交差路へと踏み入り、その中央で停車する。
「アインプ、居たら返事してくれ!」
ハシアは屋根の上から交差路に響く声で発する。しかし彼の呼びかけに対する返答は無かった。
「河義三曹、周りの建物も、調べといた方がいいかと」
制刻は河義に進言する。
「だな。ハシアさん、私達で周辺の建物を調べます。その間、上から監視支援を願います」
《あぁ……分かったよ》
「よし。制刻来てくれ、他の各員は周辺警戒を」
制刻と河義は指揮通信車から降り、周辺を警戒しながら交差路の角にある建物の近くへと歩み寄る。そして玄関口の両脇へと張り付いた。
「準備はいいか?」
「いつでも」
「よし――突入!」
河義が合図を発すると同時に、制刻が家屋の玄関を蹴破る。そして制刻が一度引き、入れ替わりに河義が小銃を構えて、屋内へと突入した。
「――クリア!」
「クリア」
河義と、続いて踏み込んだ制刻が、屋内を瞬時に見渡して声を上げる。家屋内は無人であり、アインプの姿も、はたまた他の生存者も、ゾンビの姿すら無かった。
「ここは無人か……次だ」
「了解」
家屋内が無人である事を確認した二人は、家屋を出て、道を横断して次の建物に向かおうとする。
「オオオーー……」
「ッ!」
河義が視線を横断していた道の先に向ければ、10体以上のゾンビ達が、緩慢な動きでこちらへと向かってくる姿が見えた。
《河義さん、奴らだ!》
そしてインカムに、矢万から通信が飛び込む。
「矢万三曹、彼等に対応してくれ!私達は周辺家屋のクリアリングを続ける!」
《了解!》
制刻と河義が道を横断し切ると同時に、指揮通信車の12.7㎜重機関銃が発砲を開始する。重々しい射撃音と共に撃ち出された12.7㎜弾は、接近していたゾンビの群れを一瞬の内に粉砕した。
その光景を横目に見ながら、制刻と河義は二件目の家屋のドアに張り付き、そして突入した。
《クリア!》
矢万の耳に、河義の家屋無力化の報告が届く。それを聞きながら、矢万は12.7㎜重機関銃の押し鉄に指で力を込め、迫るゾンビに向けて12.7㎜弾を注ぎ込む。
「矢万三曹、北側も来ます」
そこへ策頼が報告の声を上げる。見れば、言葉通り交差路の北側に、迫る別のゾンビの群れが見えた。
《皆、屋根の上にも表れた!》
今度はハシアから通信が来る。矢万が上へ目を向ければ、周辺家屋の屋根の上に、獣のようなゾンビが次々と姿を現していた。
「クソ、各員対応しろッ!」
「了」
矢万の言葉を受けた策頼は、すでにゾンビ達に狙いを付けていたMINIMI軽機の引き金を引いた。
「勇者の兄ちゃん、上はアンタに任せていいか!」
《あぁ、任せてくれ!》
インカムに向けて発した矢万が見れば、返答をしたハシアは、すでの屋根の上でゾンビ達に向けて大剣を振るっていた。
「奴らを交差路に近づけるな!」
指揮通信車から各方向へ向けて、重機、軽機による弾幕が形成される。
《クリア!次だ――》
河義と制刻は形成される火線を掻い潜って交差路内を周り、周辺家屋を一つ一つ無力化して行く。
《ッ――すまない、取りこぼした!》
家屋上に現れる獣のようなゾンビは数を増し、その内の2~3体がハシアを無視して交差路へ降り、指揮通信車へと肉薄して来た。
「構わん、こっちでやる!」
矢万は12.7㎜重機関銃の俯角を取り、独特の俊敏さで迫る獣のようなゾンビに向けて発砲。迫っていた一体のゾンビを弾き飛ばし、四散させる。しかし、迫るゾンビはその一体に留まらなかった。
「ッ――捌ききれん!鬼奈落、お前も車上に上がってくれ!」
「了解です」
矢万からの要請で、操縦手の鬼奈落が操縦席からハッチを潜って車上に上がって来る。その手には、〝65式9mm短機関銃〟が持たれている。これはニューナンブM66短機関銃が正式採用されたものであった。
鬼奈落は65式9mm短機関銃を構えて、獣のようなゾンビに向けて発砲。ゾンビは数発の9mm弾を身体に受けて、べしゃりと転倒して動かなくなった。
「こりゃえらい事だな……!」
さらにそこへ、新好地がハッチを潜って車上に上がって来た。
「新好地!?お前はいい、中にいろ!」
負傷者である新好地が出てきたことに、矢万は驚き彼に向けて発する。
「この状況じゃ、そうも言ってられませんよ!」
しかし新好地は矢万に返すと、ショットガンを構えて別方向から迫っていた獣のようなゾンビに向けて発砲した。散弾を諸に受け、ゾンビは吹き飛ばされて地面に投げ出される。
「ほら、後ろからも来てます!」
そして新好地は指揮通信車の後方を視線で示す。指揮通信車が来た道からも、多数のゾンビが迫っていた。
「ッ――河義さん急いでください!俺等は囲まれてます!」
「待ってくれ、次で最後だ!」
矢万の通信越しの急かす声に、声を張り上げて返す河義。
制刻と河義の二人は、交差路の周辺に立つ家屋群の最後の一軒の扉の前に居た。
「行くぞ――突入!」
これまで繰り返して来たのと同じ手順で、二人は家屋内に突入。
「――クリアー!」
「クリアです」
二人は最後の家屋の内部が、無人である事を確認した。
「糞……やはりもう、ここにはいないのか……」
河義は苦い表情で呟く。
「――あん?」
一方、家屋内を見回していた制刻は、その途中で足元に落ちている物体に気付き、それを拾い上げた。
「それは……?」
河義もそれに気づき、制刻が手にした物に目を落とす。それは巨大な戦斧だった。
「斧か?」
「ほう。――河義三曹、こいつぁハシアの仲間の姉ちゃんが使ってたモンです」
「何?」
制刻の言葉に、河義は若干の驚きを顔に示す。
「本当か?」
「えぇ、コイツでぶった切られかけましたから、間違いねぇかと」
「……武器だけ落ちていたという事は、ここで彼女の身に何かあったのか……?」
河義は状況を推察する。
《河義三曹、まだですか!?こっちはあまり余裕がありません!》
しかしそこへ、再び矢万からの通信が飛び込んで来た。
「ッ、仕方がない、これだけ持って戻るぞ!」
河義は考察を中断。二人は家屋内から外へと出る。そして視界に飛び込んで来たのは、多数の獣のようなゾンビに囲われている指揮通信車の姿だった。さらに獣のようなゾンビの対応に苦戦しているためか、交差路から各方へ伸びる道からは、ゾンビ達がすぐそこまで接近しつつあった。
各員はそれぞれ担当する火器でゾンビを相手取り、ハシアも屋根の上での戦いを止めて降りて来たのだろう、指揮通信車の側で群がるゾンビを蹴散らしている。
「ッ!なんて数だ!」
「急ぎましょう」
制刻と河義は指揮通信車へと駆け出す。
指揮通信車に気取られている獣のようなゾンビ達を背後から撃ち、進路を切り開く。
そして指揮通信車の元へたどり着いた二人は、その側面に取りつき、小銃を構えてゾンビ達を蹴散らす各員に加わる。
「すまん、待たせた!」
「大人気のようだな」
そして矢万に向けて河義が謝罪の言葉を発し、制刻が軽口を叩く。
「冗談はよせ!これ以上は限界です、早く乗って下さい!」
制刻に言い、そして河義に促す矢万。
「ハシアさん、乗って下さい!」
「あ、あぁ!」
制刻と河義、そしてハシアは最寄りのゾンビを蹴散らし、指揮通信車の車上に飛び乗る。
「鬼奈落、発進させろ!」
「了解」
指示を受けた鬼奈落は、65式9mm短機関銃での射撃を止め、操縦席へと引き込む。
《で、どちらに向かいます?》
「どこでもいい、とにかくここから離脱しろッ!」
鬼奈落の状況にも関わらない冷静な質問に、対する矢万は声を張り上げる。
《了解》
返事と共に鬼奈落はアクセルを踏み込んだのだろう、エンジンがより大きな唸り声を上げ、指揮通信車は急速後進。車体後方にいたゾンビを数体、跳ね飛ばし、引き潰す。そのまま後進を続ける指揮通信車の先には、道の先から迫っていたゾンビの集団の姿があった。
《このままですと、ゾンビの大群に突っ込みますよ?》
鬼奈落はバックミラーでゾンビの群れの姿を確認しながら言う。
「構うな、突っ込めッ!」
矢万は指示の声を張り上げる。
指揮通信車は後進状態のままゾンビの群れに突入。先程以上の数のゾンビを跳ね飛ばし、あるいは引き潰し、その巨体でゾンビの群れをかき分けて進路を切り開く。
そして指揮通信車はゾンビの群れを抜けた。
「ここから離れろ、全速力だ!」
河義の指示で鬼奈落は速度を上げ、指揮通信車は交差路を後にした。
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