1-16:「歪なFour man cell」
「ったく、どうかしてるぜ」
「パーチーはもう終わっちまったのかぁ、残念だずぇ」
警戒についている隊員の中から、騒がしい声が聞こえて来る。
声の主は、1中隊の問題隊員である竹泉と多気投であった。
「騒がしいな」
「なんだ、君たちまで来たのか」
その声に気付いた制刻と鳳藤は、彼等の元へと歩いて来て発する。
「来ねぇ方がよかったかぁ?俺ぁ、是非ともそうありたかったがねぇ?」
制刻と鳳藤の言葉に、竹泉は皮肉気な言葉で返す。竹泉のそんな発言には返さずに、制刻は今一度周辺を見渡す。
「お?」
そこで、住民達が捉えられていた小屋の前で、陸曹等が集まり、なにやらざわついている事に気付いた。
「何かあったのか?」
「ぽいな」
二人は小屋の方へと向かう。
「何かありましたか?」
そしてその場にいた河義に尋ねる。
「あぁ、制刻。それが、囚われていた子供が一人居ないらしいんだ……」
「なんですって?」
河義の言葉に、返し発したのは鳳藤だ。
「山賊の頭だ。奴が――」
エティラの話によれば、4分隊が魔導士の男と交戦し、エティラ達が倒れている隙に、山賊の頭である男が逃走したらしい。そして保護された少女達の話によれば、山賊の頭が一人の少女を連れ去って行ったとのことだった。
「そういや、ここの頭っぽいデカブツがいたが、そいつの死体がねぇな」
制刻は周囲に散乱する山賊達の死体を見渡しながら、呟く。
「くそ……アイツ、エナちゃんを……」
歯を食いしばり発するセネ。その連れ去られた少女というのが、他ならぬエナ少女だった。
「鷹幅二曹」
「あぁ。廃村内を制圧しながら、対象を捜索。処理、及び保護する」
河義の呼びかけに、鷹幅は捜索制圧行動を行う旨を発する。
「私達もエナちゃんを探そう!」
「だな」
そこにセネが声を上げ、エティラも同意の声を上げる。
「エティラさん、しかし――大丈夫ですか?」
河義は立ち直ったばかりのエティラの身を案じる。
「あぁ、今度は無茶はしないさ」
「分かりました。くれぐれも気を付けて。危なくなったら、私達を呼んでください」
河義はエティラに向けて、念を押す言葉を発した。
「鷹幅三曹、この先は二手に分かれる必要があります」
そして河義は鷹幅に向き直り進言する。廃村内は、隊員らがいる現在地からさらに東と南に、L時に小屋が連なり伸びている。これらを制圧するには、部隊を二手に分派する必要があった。
「分かっている。河義三曹、君はここで民間人収容の指揮を取ってくれ」
「了解です」
「3分隊1組、私と来い。廃村の東側を制圧に向かうぞ。そして――」
そして鷹幅は制刻に向き直る。
「制刻、お前に一組任せる。南側を制圧しろ」
「いいでしょう」
鷹幅の指示の言葉に、制刻はいささか不躾な口調で返答を返した。
「竹泉、多気投。お前達も合流しろ」
「げ!」
「フゥー!二次会の始まりだなぁ!」
鷹幅は警戒についていた竹泉と多気投の姿を目に留め、命令を飛ばす。その命令に、竹泉は嫌な顔を隠そうともせず、多気投は高らかに発した。
「剱、竹泉、多気投、行くぞ」
「分かったよ」
「うぇ、最悪だ!」
「おっぱじめようぜぇ!」
制刻の指示の言葉に、各員はそれぞれの反応を示しながら、南の家屋帯へと駆け出した。
制刻等は廃村の南側へと踏み入る。そこからは、さらに南の方角にいくつもの小屋が立ち並んでいた。
「さぁ、始まるぞ――臆してる奴はいないな……!?」
そう発したのは鳳藤だ。その言葉は他の者へと言うより、自分自身に向けて発した言葉であった。
「任せとけって、俺はアウェイに強いんだ!」
鳳藤の言葉に対して、多気投が意気揚々と答える。
30m程先の小屋の影から、複数の人影が出て来たのは、その瞬間だった。
「来たぞ」
「接敵ッ!」
制刻と鳳藤が同時に発するとともに、各員は姿勢を低くして駆け出す。そして近場に遭った小屋や木箱などの遮蔽物に飛び込み、カバー態勢に入った。
人影、すなわち山賊達はこちらの姿を確認すると、それぞれの得物を手に向かって来る。
んな彼等に対して、各々は遮蔽物からそれぞれの火器を突き出して、発砲を開始した。
「イーヤッホォォォウッ!!」
分隊支援火器射手である多気投は、高らかな掛け声とともに、MINIMI軽機の引き金を引き続ける。彼のMINIMI軽機が形成する弾幕は、こちらへ向かってきていた山賊達を端から薙ぎ倒した。そしてMINIMI軽機の掃射を逃れた山賊達に、制刻等の小銃が牙を剥く。
「まず一匹」
制刻は山賊の一人を撃ち、淡々と発する。
「よし、入った……!」
続けて鳳藤が、命中弾を生み出した事に、複雑な心境ながらも声を上げる。
現れた山賊達は、見る見るうちに数を減らしていった。
「竹泉、前進するぞ。鳳藤、多気投、援護しろ」
「了解……!」
「うっへ、マジかよ!」
制刻の言葉に、鳳藤と竹泉がそれぞれ返答を返す。そして制刻と竹泉はそれぞれの遮蔽物から飛び出し前進。20m程先に置かれていた荷車を、次の遮蔽物としてそこに滑り込んだ。
村の奥から、別の山賊の集団が現れたのは、それとほぼ同時だった。
「畜生、新手だぜぇ!」
「落ち着いて、確実に処理しろ」
二人は馬車から体を最低限だけ覗かせて、小銃を構える。そして山賊達向けて発砲した。
制刻等の攻撃により、向かってくる山賊達は三人四人と倒れてゆく。そこで山賊達は朧気ながら事態を察したのか、突撃を止め、周辺の遮蔽物に身を隠し出した。
「チッ、奴ら物陰に身を隠しやがった!」
「皺共程、トンマじゃねぇってわけだな」
竹泉が悪態を吐き、制刻は身を隠す山賊達の様子を一瞥して呟く。
ドスッ、という鈍い音がしたのはその瞬間だった。
「うぇッ!?」
竹泉が声を上げる。
見れば、二人が遮蔽物としていた荷車の側面に、一本の矢が刺さっていた。
「ぬぁ、チキショウ!矢が飛んで来たぞ」
「――あれだな」
竹泉が叫ぶ傍らで、制刻は周辺を観察。そして前方にある小屋の屋根の上に、弓を構えてこちらを狙っている山賊の姿を見つけた。
「剱。11時の方向の屋根の上に、弓を持ったやつがいる。始末しろ」
《了解……!》
制刻がインターカムで鳳藤に向けて指示を発し、鳳藤から返信が返って来る。そして少しの間をおいて、一発の発砲音が制刻等の背後から響く。同時に、屋根の上に次の矢をつがえていた山賊の弓手がのけ反り、落下してゆく姿が見えた。
「うまく
《どうも……》
制刻の賞賛の言葉に、鳳藤は素直に喜べていない様子の言葉を返す。
「おら、もう一匹!」
その間にも、竹泉は物陰から身を晒した山賊を一人、撃ち仕留めた。
「ああ、チクショッ――奴ら、一向に出てこねぇぞ」
竹泉は、遮蔽物に隠れて出てこなくなった山賊達の様子に、焦れた言葉を発する。
「押し上げる必要があるな」
言うと、制刻は再びインターカムに向けて声を発する。
「剱、多気投、今度は俺等が援護する。先に見える飛び出した小屋まで前進しろ。んでもって、到達したら小屋の内部をクリアしろ」
《了解》
《任せとけぇ》
指示の声に、鳳藤と多気投から了承の言葉が返って来る。そして制刻が背後へ視線を送ると、丁度遮蔽物から飛び出す二人の姿が見えた。
二人はこちらへ駆けてきて、制刻等の横を駆け抜ける。そして先にある、道の上にやや突出して建っていた小屋の影に飛び込み、その壁に張り付いた。
《到達した……これより突入する》
鳳藤から無線が来る。
そして次の瞬間、多気投が小屋の扉を蹴破り、二人が内部へ突入して行く姿が見えた。
《――クリアー!》
《クリアだずぇ!》
そして数秒後、制刻等の耳に、無線越しに小屋内無力化を伝える二人の声が響いた。
「クリア了解。外に出て、もっぺん俺等を援護してくれ。――竹泉、右手の小屋が見えるな。次はあそこに駆けこんで、中を洗うぞ」
「へいへい」
制刻の言葉に、竹泉はやる気の感じられない返事を返す。そして制刻と竹泉は荷車の影から飛び出し、前進。鳳藤と多気投の横を通り抜け、その先にある小屋の壁に飛び込み、張り付く。
「行くぞ、蹴破れ」
「へーよッ!」
そして竹泉が小屋の扉を蹴破り、入れ替わりに制刻が内部へ突入した。
中には二人の山賊が潜んでいた。
二人の山賊は踏み込んで来た制刻等に驚きの表情を見せながらも、応戦の姿勢を取る。しかし、それよりも制刻が引き金を引く方が早かった。
制刻の発砲により、山賊の片割れが5.56㎜弾を受けて崩れ落ちる。その間にもう一人の山賊が、斧を振り上げて制刻に迫る。しかしその山賊も次の瞬間にのけ反り倒れる。後続の竹泉が制刻の脇から、二人目の山賊を撃ったのだ。
二人の山賊を無力化した制刻等は、そこからさらに小屋内に数歩踏み入り、内部をサーチする。
「クリアだな」
「あぁ、クリア!」
そして他に敵の姿が無い事を確認し、制刻と竹泉はそれぞれ発した。
「当たりだったなぁ、畜生ッタレ!」
内部に山賊が潜んでいたことに、竹泉は悪態を吐く。
「ここはOKだ。引き続き、外の奴等をやるぞ」
制刻と竹泉は小屋を後にし、外へと出る。
外では、鳳藤と多気投の二人が、山賊達と対峙し交戦していた。
《自由!敵の増援が来て、奴ら勢いを吹き返した!》
「フゥーーッ!掛かって来いやぁーーッ!」
無線越しに鳳藤の声が聞こえ、そして多気投の大声が直接聞こえてくる。
鳳藤は物陰に身を隠して様子を伺い、多気投はMINIMI軽機を構えて5.56㎜弾を山賊達に向けてばらまいていた。
「あぁ、そりゃいい!そのまま勝手に突っ込んできて、ぶっ倒れてくれりゃぁ有難いねぇ!」
竹泉は近場にあった樽に身を隠しながら、嫌味な様子で呟きつつ、小銃へ弾倉の再装填を行う。
制刻等四人はその場で山賊達を迎え撃つ。山賊達は果敢に突撃を敢行したが、形成される弾幕の前に、次々と倒れて言った。
山賊達の勢いが再び減じたタイミングを狙い、制刻等はさらに前進。そしてその先にある小屋をクリアリング。この行程を繰り返す。制刻等が押し上げるたびに、山賊達は数を少しづつ数を減らし、逆に山賊達が決死の突撃をかければ、待ち受ける集中砲火がさらなる犠牲を強いる。
それ等を繰り返し、山賊達はとうとう南北に延びる小屋帯の一番南端まで追いつめられる。
「そ、そんな――ぎゃッ!?」
そして山賊の最後の一人が銃弾に倒れた。
小屋帯の南側まで到達した制刻等四人は、その場で展開して四周警戒の態勢に入る。
「報告しろ」
「……敵影無し」
「こっちも無ぇよ」
制刻が報告を求める声を発し、鳳藤と竹泉がそれぞれ返す。各員は、周辺に動く者が一人もいなくなったことを確認。
「ハハァッ!前から後ろまでブッスリ貫いてやったぜぇー!フゥーーッ!」
そして多気投が、陽気な雄叫びを上げた。
「はッ、やぁれやれ……」
多気投の雄たけびを横に聞きながら、竹泉は呆れた様子でそんな言葉を零した。
山賊の掃討を終えた彼等の耳が、接近するエンジン音を捉えたのはその時だった。背後へ振り返れば、こちらへ小型トラックが向かってくる様子が見えた。
小型トラックは制刻等四人の傍まで来て停車。ハンドルは策頼が握り、後席には河義の姿があった。捕らえられていた女子供達の収容、及び後送を終え、河義等は制刻等を追いかけ、この場に駆け付けたのだった。
「――すでに終わったようだな」
「えぇ、奴らの大半は弾いたかと」
車上からの河義の言葉に、制刻は周辺を一瞥してから返す。
「よくやってくれた――しかし、山賊のリーダーや、さらわれた子の姿は無いか……」
周辺を見渡した河義は、保護対象である少女エナや、それを連れ去った山賊の頭の姿が無い事に、若干の落胆の色を見せる。
「あぁ、そういやそんなん探してたな」
そんな河義の言葉に、竹泉はふてぶてしい言葉を横から挟む。
「おい、竹泉――!」
竹泉の発言を咎め、鳳藤が声を上げかける。
《各ユニットへ。廃村の東端で非常事態発生――!》
しかしそれを遮り、各員のインターカムに通信が飛び込んだのは、その時だった。
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