国外追放された王女は、敵国の氷の王に溺愛される

坂合奏

プロローグ

0:冷酷な氷の王は、汚名を背負った妻を溺愛する

 寒い部屋の中で、吐息と体温だけが温かい。

 私を見つめるルビーのような瞳。

 短く整えられた銀色の髪の毛を、私はゆっくりと撫でた。


「ジョジュ」と呼ぶ彼の少し厚い唇が私の薄く小さな唇に触れると、抱きしめられる力が少しばかり強くなった。


 私よりもずっと厚い胸板は、服の上からでもわかるほど引き締まり、鍛え抜かれた筋肉があるのがわかる。

 身体中に駆け巡る鼓動が、彼に聞こえていないか心配になる程だった。


 熱気で、窓ガラスが曇っているのが、彼の肩越しに見えた。

 経験の乏しい私でも、関係が次の段階に移っていくのだろうということがわかった。


 不思議と身体を重ねることに恐怖はなかった。

 この人と一緒なら、大丈夫。

 そんな気さえした。


 ある一点を除いては。


「エミリオン。私は、あなたの子を産んでも良いのですか?」


 私の言葉に、「なぜ、そんな当たり前のことを聞く」といった表情を浮かべる男は、返事の代わりに私の黄金色の髪の毛に口づけを落とした。


「ジョジュ。私は、あなたが愛おしくてたまらない。あなたの気持ちが私に向いているのなら、私は遠慮なくあなたをより深く愛そう」


 何度目かの深いキスの後に、エミリオンが深く囁いた。


 私から、溢れる涙を拭う手は、ただ優しい。

 どうしてこの人を冷酷王だなんて呼ぶ人がいるのだろう。

 血生臭い泥にまみれた汚名と共に生涯を終える私を、愛してくれた唯一の人。


 もし、神様が本当にいるのであれば、どうかこの人の人生が、安らかで幸せなものでありますように。

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