第20話 ごーうすたんの真実
「ガーベラはいるかっ!」
「あら、アザレア様じゃないですか。お帰りなさい」
アザレアが戦士ギルドへと入ると、いつも通り仕事に対して気だるげな様子のガーベラがひらひらと手を振ってくる。
「依頼されたワイバーンの討伐を行った。サイズは8.8メートル。正式な報告は毒沼の里のギルドから改めて上がってくるだろう」
「おぉ! すごいですね。ゴリウス様を抜いて暫定1位のサイズじゃないですか?」
「ああ、そうだな」
もしかしたらさっきまでのアザレアだったならこの場で小躍りのひとつでもしていたかもしれない。だがしかし、今のアザレアにとってその結果はもはや些事にすぎなかった。
「それよりもガーベラ。人探しをしたいんだ」
「人探し、ですか?」
首を傾げるガーベラへと、アザレアは自分の足元に立っていたスズの両脇に手を入れてひょいと持ち上げた。
「この子のお姉さんを探してやってほしいんだ。そのための依頼を発注する」
「え? その子って……えっ?」
「ん? なんだ、どうした?」
何やら困惑した様子のガーベラに問うが、しかしギルドのドアが勢いよく開かれて返答が遮られてしまう。
「あのっ、ガーベラさん! 妹が迷子になっちゃったんですっ!」
なにやらとても焦った様子で少女が受付へと駆けてきて、しかしアザレアと、アザレアに抱えられるスズを見て目を丸くする。
「スズっ!」
「あっ、セリたん!」
アザレアがスズを下ろすと、少女は涙目でスズへと抱き着いた。
「もぉっ! 心配したよスズっ!」
「ごめんなさい~」
「ううん、私こそ手を放しちゃってゴメンね……!」
……どうやらお姉さんは見つかったようだな。よかったよかった。
「君、スズちゃんのお姉さんってことでいいんだよね?」
「あ、はいっ……!」
アザレアが声をかけると、少女はコクリと頷いた。
「私、セリっていいます。あの、お姉さんがスズをここまで連れて来てくれたんですか?」
「ん、まあそうだな」
「本当にありがとうございますっ!」
セリは深々と頭を下げた。
……恐らくまだ11、2歳といったところか。しかしずいぶんと大人びた対応をする子だな。やはり、日ごろの生活苦が彼女に子供のままでいることを許さないのかもしれないな。
「頭を上げてくれ、セリちゃん。私の名前はアザレアという。よろしくな。……ところでスズちゃんからは三姉妹という話を聞いていたんだが、もしかして君の上にもうひとりお姉さんが?」
「あ、はい。キキョウという名前の姉がひとりいます」
「そのキキョウさんはどちらに?」
「いまの時間はまだ喫茶店で働いていますけど……」
「そうか」
……やはり、ひとりで三姉妹(それに加え【ごーうすたん】とかいう犬が1匹)の生活費を稼いでいるのだろう。喫茶店での給金だけでは一家を支えるのはとても大変なことに違いない。
「実は折り入ってキキョウさんにご相談があるんだが、今日どこかで都合がつかないだろうか?」
「えっ? お姉ちゃんに、ですか? 相談って何を……」
「決して君たちにとって悪い話ではないことだ」
そう、むしろ良い話ですらある。三姉妹はその生活を無条件に保障され、アザレア自身は昼夜問わずスズと仲良く共に過ごすことができるという完全Win-Winな関係性だ。素晴らしき未来予想図にアザレアがほくそ笑んでいると、
「やあ、いま帰ったぞ」
そんな時、ガコンとドアを開けて入ってきたのはゴリウスだった。相変わらず無骨なハンマーを背負って、ゴリウスは私に気付くと気さくに片手を挙げてきた。
「おお、アザレアじゃないか。久しぶりだな」
「ふんっ、まあな」
アザレアは素っ気なく返事を返した。別にゴリウスが嫌いなわけではなかった。ただアザレアはこの里の戦士代表の娘として、いずれその職を引き継ぐ者として一介の戦士程度に負けたままではいられないというだけだ。
……まあ、今日からは私がNo1だがな!
「ん? どうしたアザレア。やけに機嫌がよさそうだな?」
「ふふんっ、まあな!」
アザレアが得意げに腕を組んでいると、
「ごーうすたん! おかえり!」
その脇を駆け抜けたスズシロが、ゴリウスへと抱き着いた。
「えっ?」
目をパチクリとさせるアザレアの前で、スズシロはきゃっきゃとゴリウスにじゃれついていた。
……え? え、なにが? どういうことだ? ごーうすたんって……犬のハズじゃ?
「なあガーベラ、なんでセリとスズがギルドに?」
「なんか迷子になってたらしくって……」
受付嬢のガーベラも状況がよく理解できていないのか、首を傾げながら応じる。
「でも、なんだかもう解決したみたいですけどね。ところで討伐依頼の方はどうでした? なんか結構でっかいワイバーンが出たっていう話でしたからお任せしちゃいましたけど……」
「ん? ああ、確かにデカかったな。正式な報告は後から来るだろうが、サイズは9.1メートルらしい」
「わぁ、マジですか。それは過去最大ですねぇ!」
……は? きゅうてん、いちメートル……?
短い間に多量の情報が詰め込まれた弊害か、一瞬アザレアの意識が飛んだ。フラッと後ろに倒れそうになるところを、しかし足を踏ん張って辛うじて持ちこたえる。
「お、おい……ゴリウス」
「どうした? なんだか様子がおかしいぞ?」
「おかしい? ふっ、ふふっ……そうだな。どうやら今日の私はおかしいらしい。さっきからいろいろと幻聴が聞こえるんだ」
「幻聴?」
「気にするな。そんなことよりいま大事なのはひとつだけだ。それだけ、改めて聞かせろゴリウス」
「なんだっていうんだ」
「まさか、まさかとは思うがなゴリウス……お前がスズちゃんたちといっしょに暮らしている【ごーうすたん】だとでもいうのか?」
「ん? まあ、そうだな。そう呼ぶのはスズだけだが」
「──ガッデムッ!」
アザレアはそう叫ぶと、涙目で、しかし親の仇でも見るかのような形相をゴリウスへと向けた。
「勝負だゴリウス! 私が勝ったら、スズちゃんたちの養育権をもらっていくぞッ‼」
「は、はぁ?」
ゴリウスが心底訳が分からないといったように顔をしかめた。
【NEXT >> 第21話 3本勝負!】
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