第7話 趣味バレ
俺の家は里の中心の辺り、少し段差になった土地に立っている。里の中央を縦に伸びるメインストリートから路地に入り、坂を上ってすぐ。俺は段差の角を飲み込むような形で立っているその建物を指さした。
「ここが俺の家だ」
キキョウたちは真上を向いて、口をポカンと開いて驚いている。
「お、大きいですね……」
「ああ。ちょっと多めに部屋がほしくてな」
部屋数は多いに越したことはない。複数あればそれぞれの目的のための専用の部屋を作れるのだから。掃除なんかは臨時で家政婦を雇えばいい話だ。
「さあ、入ってくれ」
入口のドアを開いて三姉妹たちを招き入れる。この階はリビングだ。
「ひろぉ~~い」
「ホントだ。広いねぇ……!」
次女と三女は目をキラキラとさせてリビングを見渡していた。この家に興味津々の様子だ。
「客室は3階にあるからな、そこを自由に使っていいぞ」
「ごーうすたん、もう行ってみていい?」
「ああ、いいぞ。好きに見てくれ。階段で転ばないようにな」
「うんっ!」
三女のスズシロはキラキラと目を輝かせて、「わ~い!」と階段へ駆けていく。その後ろを次女が追っていった。
……まあ次女が付いているなら大丈夫だろう。立派にお姉さんをしているな、と思っていたら「探検だぁ~!」と言っていた。歳相応だな。
「あの、妹たちがはしゃいでしまってすみません。その、前の部屋は狭かったので……」
「いや、いいんだ。子供なんだから、これくらい無邪気でちょうどいい」
「ありがとうございます。でもちょっと注意をしてきますね」
キキョウは階段に近づくと上の階に向かってあまりはしゃぎ過ぎないようにと注意を投げかけた。上の階からふたりの返事が聞こえてくる。微笑ましい光景だった。
「あら?」
キキョウが首を傾げて昇り階段の反対側を見る。そちらは下り階段になっている。
「この1階の下にもお部屋があるんですか?」
「ああ、実はここは1階じゃなくてな。この家は土地の段差沿いに建っているから。入口とリビングがあるここは2階で、1階は下の階──」
そこまで自分で口にして、気が付いた。
……俺は姉妹たちに『客室は3階にある』と言った。もし次女たちもこのリビング階が1階だという認識だとしたら、彼女たちがいま上っていった階は4階か──っ⁉
「マズいっ! あの部屋はダメだっ!」
俺が声を上げるのと、4階から「うわぁ~~~っ!」という華やいだ声が聞こえたのは同時だった。
「ど、どうしたんですか、ゴリウス様……?」
「いや、その、なんというか……」
しどろもどろになっていると、
「──可愛い~~~っ!」
上の階から次女と三女の興奮したような高い声が聞こえてくる。
……終わった。全身の力が抜け、俺はその場に座り込みそうになってしまう。
「えっ? あの、えっと……」
「……案内しよう」
すべてを諦めた俺は、キキョウを我が家の最上階である4階へと連れて行く。そして2部屋あるうちの、ドアが開け放たれた大きな部屋の前に立つ。
「……こういうワケだ」
「えっ……? こ、これは……!」
キキョウが覗いた部屋の中、そこに広がっているのは──溢れんばかりの【可愛いモノ】が集まったショールームだった。
2つある棚にはいろんな種類の着せ替え人形やぬいぐるみが並べてあり、ショーケースのなかにはアンティーク・ドールを始め、トルソーに着せたフリフリのドレスなどの女性物の衣装がズラリ。ここは俺が長年かけて作り上げた【趣味部屋】なのだ。
「あっ、ねぇねーも来た!」
スズシロが興奮そのままの勢いでキキョウの元へ走り寄る。
「見てっ! いっぱい、いっぱいミーたんと同じみたいな子たちがいるよっ!」
「そ、そうね……」
鼻息荒く、スズシロが俺の方を向く。
「これ、ぜぇーんぶごーうすたんのなのっ⁉」
「………………そうだよ」
いまさら誤魔化すこともできず、俺は項垂れたままそう答えた。
【NEXT >> 第8話 次女 セリ】
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