第4話 隻腕の英雄、趣味は人形遊び 前編

 今から20年ほど前の話だ。私の子供たちの国、メソレム王国はイルフィル帝国と言う国に滅ぼされた。


 この世界には、それぞれの国の法律と、全世界共通の神法しんほうが存在する。神法は、むやみやたらに戦争を起こさせないために作られ、それでもなお戦争をする意思があるなら、神々で会議するから巫女を通してお話聞かせてね。っていうものだ。


 が、イルフィル帝国はとにかく行き過ぎた科学主義で信仰を失いつつあり、既に教会も巫女制度も無くなっている。そのため、神法を無視して私の国に戦争をふっかけてきた。


 国を失った子供たちは散り散りになり、色々な国に亡命。虐殺や誘拐も多発し、現在生きのびているメソレム教徒は僅か600程度。今回話すのは、その中でも特に信心深く、イルフィルと戦う決意をした軍人の話だ。



 ―さて、今から9年前。クィジー王国というイルフィルの隣国に、1人の軍人が就任した。名をイーグ。


 クィジー王国軍の士官学校を出ると、軍大学に進学し、中尉として卒業後、気に食わないからという理由で宣戦布告し、戦争を始めたイルフィルとの戦いに参戦。格闘戦、射撃戦も非常に優秀。小隊長として部隊を率いた時にも被害を最小に抑え敵を打ち倒し、多くの戦功を挙げた。


 が、彼は運命の女神に翻弄されてしまった。


 この2国の戦局を変えた、コード平野の戦い。後に判明したことだが、官僚の1人が物資の横領、横流しをしたり兵を出し渋ったことによりクィジーは被害甚大。あやうくこの戦争初めての敗北を喫する所となりかけた。そうならなかったのは、イーグがいたからと、誰もが口を揃えて語った。


 増援が到着するまで残り1週間となった時、クィジー王国軍は僅か50と数名で防衛戦を行っていた。食料も弾薬もほぼ底をつき、敵兵の肉を喰らい、泥水を啜るような地獄の戦場において、唯一膝をつかずに戦い続けたその姿に勇気付けられたクィジー王国兵は必死に戦い続けた。


 そして、残り3日となった時、残存兵は10名。敵も恐れて近づかなくなり、あと僅かで増援という時に、敵の砲弾が彼らのいた塹壕を容赦なく吹き飛ばした。


 たった1発のその砲撃はイーグを含めた3人を残して、命の火を消し飛ばし、イーグも辛うじて生き残るも片腕を失う。


 この後、3人は到着した味方によって保護。しかし、1人は自殺を試み、1人はストレスからなる病気で息を引き取った。


 イーグも、軍病院目が覚めたのは1週間後。周りの人間は、除隊してゆっくり休むことを勧めた。


 だが、彼は軍に残ることにした。


 そんな彼は、流石に後方勤務となるはずだったが、1枚の辞令と、病室を訪れた1体の人形に、また運命を翻弄されることとなった。(続く)

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