8話 勇者の魂は闇と煌めく Possession part3
「あ、あれは食べ物の屋台じゃなぁい?」
リリムスが指さす先、そこには何らかの食べ物を売っている屋台が一台止まっていた。
昼時を過ぎているのか人の姿はなく、店主と思われる人物も次の場所へ移ろうとし始めていた。
「おおい!」
そんな屋台を呼び止め、
ドッ!!!! と凄まじい音と共に、猛烈な衝撃波が往人の全身を叩いた。
屋台が何かによって吹き飛ばされた、と気が付いた時にはすでに固い石造りの地面の上を転がっていた。
視界が明滅し呼吸もろくにできず、声をあげることすら叶わなかった。
「ユキトッ!?」
「ダーリンッ!!」
一瞬でアイリスとリリムスが駆け寄り、フラフラと立ち上がる往人を庇うように周囲へ気を張る。
「どっちだ?」
「……ソッチ側」
小さく舌打ちしたアイリスが腰に下げた剣を一振り抜く。
それはみるみるうちに赤く染まり熱を帯び始める。
「人間界だと極端に感知が落ちるわねぇ……」
「それでも……っ! そこだっ!!」
アイリスが敵の気配を感じ取ったのか、鋭く叫びながら赤熱化した剣を横薙ぎに振るう。
斬撃は、赤き刃となって姿なき襲撃者へと高速で飛来する。
バヂィィ!! と激しい衝撃音が耳を
「ああ? なんだよ。バレちまったぜ」
そこに立っていたのは少年だった。
年の頃は往人とそう変わらない感じで、灰色の瞳が特徴的だった。だが、それよりも気になったのは服装だった。
「俺と似たような……!?」
そう、年だけではない。服装すらも同じようだった。
灰色のデニムジーンズ、赤いTシャツに黒い薄手のパーカーというどこにでもいる。しかし、この世界ではありえない『
「おい、あれが天族だと?」
「……魔力の特徴はそうだったわよぉ」
だとするのなら。
少年が腕を振るうとそれに合わせて空気が歪んだ。
「契約かっ!?」
その歪みは鋭い刃となってアイリスたちへ襲い掛かった。
だが、その刃はアイリスたちを斬り裂くことはない。
剣を上下に一閃。それだけで不気味な唸りをあげる風の刃は虚しく消えた。
「うん? ああ、ああ、そうか。あれがもう一人のターゲットね。オーケー、オーケー」
パーカーの少年が勝手に一人で納得している。
いや、一人ではない。
姿は見えないがもう一人、あの少年に力を与えた者がこの場にいる。
「貴様……誰と契約をした」
「あ? 誰だって関係ないっしょ。あー、でもオレ的にはアンタたちみたいなのとケーヤクしたかったってカンジ?」
少年の下卑た視線がアイリスとリリムスへと注がれる。もっと言えば彼女たちが持つプロポーションへと。
「なにアイツぅ。
心底不快そうにリリムスが吐き捨てると、アイリスも汚い物でも見るかのような眼差しを少年へと向ける。
「へい、へい。分かってますとも」
契約者に返事をしたのだろうか呟くと、少年は再び腕を振るう。
歪んだ空気が刃となって三人へと牙を剥く。
「まだあるってねっ!!」
矢継ぎ早に腕を振るい、さらに刃を生み出し三人へと襲わせる。
ズバンッ!! と激しい爆発音が響き渡り白煙が辺りを覆う。
「……あん? 煙?」
そう、パーカーの少年が放ったのは風の刃。
血が噴き出し、辺り一面を安っぽいB級スプラッター映画のような景色に変えこそすれ、爆発はしない。
「あらら、やっぱり
白煙が晴れると同時に声が聞こえた。
千切れた右腕をつまらなそうに見ながら、それほど焦ってもいないような声だった。
「ねぇ?」
「なんだ?」
リリムスが聞いた。
「ワタシがやっても、イイわよねぇ?」
その声は冷たかった。怒りも、悲しみも、そこにはなく。
ただ冷淡な、呆れの声だった。
「好きにしろ。興味はない」
同じ気持ちのだろう。アイリスもつまらなそうに返す。
「じゃあ、ダーリン。初めての共同作業といきましょうかぁ?」
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