『バイ友、始めます!!』〜美人令嬢と友達になるバイトを始めたんだが、どうやら彼女はネットで俺にデレてる女の子だったらしい〜
サイトウ純蒼
第一章「バイ友、始めます!!」
1.城崎幸太郎、貧乏です!!
『ねえ、こーくん、聞いて~』
『なに?』
『またね、クラスの子がね、私の髪を変だって言うの』
『それは酷いなあ。サラりんの髪は絶対きれいだと思うよ!』
『どうして分かるの~??』
『だってこんなに性格が良くって素直な子なんだもん』
『えへ~、そう言ってくれるのはこーくんだけだよ。ホント、嬉しいな!!』
『間違いないよ! 周りが気付かないだけだよ』
『うん、そうだね!! あ、もうこんな時間。そろそろ寝るね。今日はこーくんの夢、見られるかな~?』
『きっと見られるよ。俺もそう思ってるから! おやすみ』
『うん、おやすみ!!』
(さすがに眠いなあ。今日は朝からバイトも忙しかったからな……)
幸太郎は朝からずっと入っていたファミレスのバイトのことを思い出してあくびをした。
幸太郎の家は貧しかった。
父親は幸太郎が幼い頃に亡くなり、今は安い市営住宅で母と妹の三人で暮らしている。母は体は強くなかったが必死にパートをしながらふたりの子供を育て、幸太郎も高校に入ってからは家計を助けようと幾つものバイトを掛け持ちしている。
(そろそろ寝るか……)
時計の針が深夜2時を越えた頃、ようやく幸太郎は布団に入った。
幸太郎は勉強ができた。
貧しいながらも幼い頃から必死に勉学に励み、国内でも進学校と名高い光陽高校へ学費が免除される特待生として入学した。
試験でも学年で常にトップ10に入る優秀さ。入学後もバイトをしつつ睡眠時間を削って勉強を頑張っていた。
そんな幸太郎のちょっとした息抜きになっていたのが、偶然ネットで見つけた『悩み相談サイト』。
最初は勉強の息抜きに何気なく見ていたのだが、ある日そこに『サラりん』と言う女の子が悩みを投稿した事で状況に変化が起きる。
『私、友達がいないの。性格悪いから』
現役の女子高生という『サラりん』の投稿に、あっと言う間にたくさんの男からのコメントがついた。冷やかす者、何かを誘う者、真面目な者。コメントをするだけなら会員登録は不要だったので幸太郎も何気なく書き込んでみた。
『俺も友達いないなあ。性格は分からないけど』
多くのコメントの中、サラりんは幸太郎のコメントを選んで返事を返す。
『本当に友達いないの?』
『知り合いはいるけど、友達なのか分からない』
ここから『サラりん』と『幸太郎』のネット上での悩み相談が始まる。
サラりんはすぐに幸太郎を許可制の掲示板へと誘った。幸太郎は適当に『こーくん』と名前をつけ会員登録をして、送られたメッセージから彼女の掲示板へと入る。これでふたりだけの会話が可能となった。
『やっほー。こーくん!』
『こんばんは。サラりん』
ふたりは不思議と相性が良かった。
性格が悪いと言いながらとても素直でいい子のサラりん。
悩み相談など受けたことなかった幸太郎も、その真面目な性格が功を奏したのか徐々に彼女からの信頼を得るようになった。
『こーくん、今日のご飯はね……』
『こーくんはどんな人なのかな~??』
『こーくんがそう言うなら、私頑張るね!!』
やがてサラりんはまるでヤンデレような女の子へと変化した。
幸太郎も自分に甘えてくれるこの『サラりん』とのやり取りが楽しかったし、このサイトの規約である『本人を特定するような書き込み禁止』や『リアルで会うことを禁止する』と言った制約のお陰で程よい距離感を持って彼女と接することができた。
(さて、今日の予定は……、家庭教師か)
幸太郎は学校を終えると家庭教師をしている女の子、
胡桃は高校1年と幸太郎のひとつ下であったが、光陽高校の特待生ということもあって家庭教師を任されている。ファミレスに家庭教師、このふたつが幸太郎が現在行っているバイトであった。
そして今日胡桃の家を訪れることで、三つ目のバイトが増えることとなる。
「こんにちは」
夕方、幸太郎は電車を乗り換え、胡桃の家へと辿り着く。
「いらっしゃい、城崎さん。さ、どうぞ」
胡桃の母親が優しく迎えてくれる。そして階段を上がり二階にある胡桃の部屋のドアをノックする。
コンコン
「はーい!」
幸太郎が軽くノックをすると部屋の中から可愛らしい声で返事が返って来た。すぐにドアが開かれ満面の笑みの胡桃が現れる。
「こんにちは、先生!」
圧倒的に可愛い声。髪は少し茶色でややウェーブの掛かったナチュラルボブ。小柄だが胸は意外と大きい。
幸太郎が胡桃の部屋に入る。ピンクを基調とした女の子らしい部屋。ピンクのカーテンにぬいぐるみ、化粧台とその『女の子度数の高さ』に来る度に緊張する。
(いい香り……)
そして幸太郎を包み込む甘酸っぱい香り。
それが部屋の芳香剤なのか、それとも胡桃から発せられているのは幸太郎には分からない。でもずっと浸かっていたいほど心地の良い香りであった。
「じゃあ、始めようか」
「はい、お願いします!」
胡桃はとても真面目な子。
学年はひとつしか違わないが幸太郎の指示は良く守り、実際彼が家庭教師を始めてから彼女の成績は右肩上がりで良くなった。
胡桃は頭が良く優しい幸太郎に憧れていたし、それゆえ彼がいつも疲れているのを見て心配もしていた。
勉強の休憩中、胡桃はオレンジジュースを飲みながら幸太郎に言った。
「先生、大丈夫ですか? 随分疲れているように見えるけど……」
胡桃が心配そうに言う。幸太郎が答える。
「あ、ああ。大丈夫。まあ、ちょっとバイト入れ過ぎたかもね」
幸太郎が頭を掻きながら答える。胡桃が言う。
「先生、私ね。もっと稼げるようなバイトを紹介できるかもしれないけど、興味ありますか?」
「稼げるバイト?」
幸太郎の顔が真剣になる。
「ええ、一回行くと一万円です」
「日給一万か、まあまあかな……」
そう言う幸太郎に胡桃が首を振って言う。
「違うんです。時給一万です」
「え? 時給!? そ、それって何かやばいバイトじゃないの? 犯罪系とか……」
胡桃は少し苦笑いをして答える。
「いえ、そう言うんじゃないです。一日一時間だけのバイトなんです」
「どんなバイトなの?」
本当ならばかなり時間を有効に使える。苦しい家計をもっと助けられる。幸太郎は既に興味津々であった。胡桃が言う。
「それはですね、『バイ友』って言うんです」
「バイ友?」
きょとんとする幸太郎に胡桃が説明する。
「はい、知り合いの紹介なんですが、友達のいない子の相手を一時間するってだけのバイト。要はその時間だけ友達になるってバイトなんです」
「友達に? なんか怖いやつとかじゃないの?」
胡桃も首を傾げて答える。
「さあ、私もやったことはないので。少し気難しい子とは聞いたけど、でも危険ではないと思いますよ」
「ふーん、そんなバイトもあるんだ」
「興味あります?」
幸太郎はすぐに首を縦に振って言う。
「あるよ。ぜひ紹介してくれる?」
「いいですよ!」
胡桃はもしかしたらこれで幸太郎の重荷が少しでも楽になるんじゃないかと喜んだ。幸太郎自身も今よりもっと家計を手助けできるんじゃないかと期待した。
しかしこの時は、まさかそれがリアルの接触を禁止しているあの掲示板の彼女と会うことになろうとはまったく思ってもいなかった。
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