ナ弐号作戦Ⅱ

 大鳳と信濃が敵の航空隊を完全に封じ込めている中、瑞牆は敵艦隊の前衛を射程に収めた。


「駆逐艦のみんな、ボクの活躍を見ててね」

『自分でそんなことを言う奴があるか』


 峯風は言った。


「うーん、ここにいるよ?」

『比喩表現だろうが!』

「ごめんごめん。でも軽巡がいない以上、敵前衛の排除はボクしかできないのは事実だよね」

『それはそうだが……ならとっととやれ』

「もちろんさ」


 双方の距離約30km。瑞牆の正面向きの31cm砲6門が火を噴いた。最初の斉射で駆逐艦一隻を撃沈、重巡一隻の主砲を3基吹き飛ばすことに成功した。最大射程自体は実のところ重巡の20cm砲と大差ないのだが、重巡洋艦の主砲より遥かに強力な主砲であり、ほとんど一方的に殲滅することが可能である。


『敵艦も撃ってきますよ』


 雪風が警告する。


「撃ち合いでボクが負ける訳がないだろう?」

『はぁ。何事もないことを祈っています』


 アメリカの重巡4隻が単縦陣を組んで瑞牆に攻撃を開始する。合計35門ほどで撃ってくるが、瑞牆は全く怯まない。20発が外れ残り15発ほどが命中した。しかし瑞牆の装甲にほとんどが弾かれた。舷側にある長10cm砲が2基損傷したが、大した問題ではない。


「やっぱり大したことないね、重巡程度は。さっさと死んでもらおうか」


 瑞牆が反撃する。今度は重巡1隻を大破炎上させ撃破し、もう1隻の主砲3基ほどを破壊した。これで一気に敵の無事な主砲は20門未満になった。


『雪風はどうやら、あなたのことを過小評価していようですね』

「ははっ、ボクのことを見直してくれたのかな」

『ええ、まあ』


 単縦陣に真正面から突っ込むという極めて不利な状況にも拘わらず、瑞牆は重巡4隻を完全に無力化し、駆逐艦を3隻撃沈したのであった。瑞牆の被害は副砲がいくらか使用不能になったくらいで、十分想定の範囲内である。


「じゃあ後は任せたよ、雪風」

『最初から雪風が旗艦の筈なんですが』


 敵の戦艦と撃ち合うのは瑞牆には無理である。瑞牆は後方に待機し、雪風率いる駆逐隊は前衛駆逐艦をささっと排除して、敵主力艦隊に最大戦速で突入する。もちろん主砲に撃たれればどうしようもないが、当たらなければどうということはない。戦艦の主砲弾が作る水柱の間を抜け、駆逐隊は一気に敵主力艦隊に迫る。


『全艦、魚雷斉射!』


 雪風の号令で、敵の戦艦を狙い一気に雷撃を行う。50本近くの魚雷が一斉に発射され、既に機動力を失っている戦艦を襲うのだ。


『全艦、速やかに戦域を離脱してください』


 駆逐隊は魚雷が到達するより前に戦艦の射程外に逃れた。15分ほどで魚雷は目標に到達し、戦艦の左舷に巨大な水柱が覆い隠すのが確認できた。戦艦は2隻ともたちまち左に傾き始め、最期は友軍の駆逐艦に自沈処理された。


 ○


 さて、アメリカ艦隊に残されたのは飛行甲板の破壊された空母と数隻の駆逐艦だけであり、戦闘能力の一切を喪失したと言ってもいいだろう。


『敵艦隊、撤退する模様。追撃の必要は?』


 信濃は長門に報告する。


「いや、いい。信濃、大鳳、艦載機を引き上げろ。瑞牆も戻って来い」

『了解。ボクの戦果ってどう思う?』

「確かに素晴らしい戦果だった。設計通りの目的を果たせると証明されたな」


 武尊型大巡洋艦が同格の敵を相手に実戦を経験したのは、今回が歴史上初めてなのである。そして瑞牆は水雷戦隊を率いて敵の前衛を排除するという本来の目的を見事に果たした。


『もっと褒めてよー』

「敵艦隊一つ殲滅したくらいで調子に乗るな」

『厳しいなあ』


 かくしてアメリカが何とか捻り出した艦隊も壊滅され、ナ弐号作戦の障害は消滅したのである。


 ○


 一九五五年七月二十八日、キューバ、グアンタナモ湾。


「感謝するよ、長門。これでアメリカも考えを変える筈さ」


 第五艦隊を出迎えたのはチェ・ゲバラ一行であった。


「ゲバラ殿、腹を割って話をしよう。本当に原子爆弾をアメリカに落とす気なのか?」

「クーバに原子爆弾があるってだけでアメリカが撤退してくれるなら必要ないけど、とてもそうは思えないからね。やるよ、僕達は」

「覚悟は堅いようだな。なれば、私が何を言っても意味はあるまい」

「君は原子爆弾の投下には反対なのかい?」

「あんなロクでもない兵器は抑止力に留めておくべきだ」

「既に戦争は始まってしまっている。抑止力では意味がない。奴らに戦争を止めさせるには、実際に原子爆弾を使う他にないんだ」

「貴殿はそう考えるか。好きにするといい」

「ああ、好きにさせてもらうよ。こう見えて、僕はアメリカに相当怒っているんだ。支持率などという下らないものの為に人間の命を何万と犠牲にする、あの狂った国に」

「それは同感だ。……ならば、アメリカに正義の鉄槌を下すといい」


 キューバは5つの小型原子爆弾を受領した。そしてすぐさま日本に、原子爆弾をアメリカに投下することを通告したのである。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る