終戦工作

 という訳で早速、瑞鶴達はチェ・ゲバラを呼びつけて戦争を終わらせる方法について議論することにした。キューバの最高指導者フィデル・カストロは忙しく、彼女らに構っている時間はないらしい。


「――君達がこの戦争を終わらせてくれるのならば、クーバとしては君達に可能な限りの支援を行おう」

「それは国家としての意思だと捉えていのかしら?」

「ああ。フィデルが約束してくれているよ」

「あ、そうなの」


 裏切られる可能性もあるしキューバの力では日本に対抗できないかもしれないが、この言葉を信じないことには話を進めることもできない。瑞鶴は一先ずゲバラの言葉を信用することにした。


「で、どうすればいいと思う? 戦争を終わらせるには」

「いやー、そんなことを僕に聞かれてもな。それが分かってたらもうやってるよ」

「ゲバラ、我らの力を如何に使うか考えよ」


 ツェッペリンは偉そうに命令する。


「僕はそんなに船魄については詳しくないんだけどなあ。第一、戦争を終わらせるとは何なんだ? 例えば僕達がアメリカに降伏すれば戦争は終わるけど」

「それはダメです!」


 妙高は反射的に叫んでいた。


「それは何故かな?」

「アメリカに侵略を受けた国は徹底的に植民地にされると、あなた達も知っている筈です。戦争を終わらせるとは、キューバが勝利することです」

「ああ、その通りだ。まずはそれを目標にして考えよう」


 戦争を終わらせるとはキューバが勝利することである。それ以外はあり得ない。これを大前提にして考えなければならない。


「キューバを勝利させる方法、ですか。しかし、正直言って陸上戦力が貧弱な以上、それは厳しいのでは……」


 高雄は悲観的であった。海上戦力においては帝国海軍が圧倒的に優勢であるものの、陸上戦力においては帝国陸軍よりアメリカ陸軍の方が優勢である。戦争は海軍だけでどうにかなるというものではないのだ。


「うーん、じゃあ、アメリカに輸送船を全部沈めて、補給を断てばいいんじゃないかな?」


 妙高は提案してみた。アメリカ本土とキューバの間で船が行き来できなければ、キューバに渡ったアメリカ兵は飢え死ぬしかないだろう。妙高はアメリカ人を殺すことに大した抵抗はなかった。


「それが上手くいけばいいでしょうが……ゲバラさん、どうでしょうか?」

「フロリダとハバナの間の航路は、アメリカ海軍が絶対国防圏としていて、大量の機雷をばら撒いていたり、海上要塞を幾つも配置している。いくら君達でもこれを完全に撃滅することは不可能だろうね」

「そうですかあ……」


 妙高はガックリと俯いた。


「やっぱり私達だけで戦争を終わらせるなんて無理かもしれないわね」

「わたくし達だけで帝国海軍にもできていないことをやるというのは、確かに無理があったのかもしれませんね……」


 そもそもたったの4隻で戦争を終わらせれるのなら、とっくに帝国海軍がアメリカを蹴散らしていることだろう。


「なれば、搦手を使うしかないということだな?」

「そういうことになるけど、ツェッペリンは何か提案があるの?」

「いや、特にない」

「使えない奴ねえ」

「搦手というのなら、原子爆弾というものを使えばよいのではありませんか?」


 高雄は先程却下になった案を再び提案した。瑞鶴は怪訝な顔をして尋ね返す。


「あれを手に入れるのは無理だって話になったじゃない」

「強奪せずとも帝国海軍に原子爆弾を供与してもらって、アメリカに落とすと脅せばよろしいのでは? もちろん本当に使うつもりなどありませんが」

「帝国が私達に原子爆弾をくれるって? どういう理屈で?」

「わたくし達にではなくキューバに原子爆弾を供与してもらえばよいかと。ゲバラさん、どうですか?」

「原子爆弾を供与、か……。まあ君達が妨害した艦隊が僕達に原子爆弾を送り届ける艦隊だったんだが」

「あっ……」


 後の祭りだが、瑞鶴が第五艦隊を襲撃していなければ原子爆弾は自然とキューバの手元に渡っていたのであった。もっとも、キューバに運び込まれたからと言ってキューバが自由に使えるという訳ではないのだが。


「まあつまり、上手いことすれば原子爆弾を供与してもらえる可能性はあるということだね。フィデルに話を通して日本と交渉してもらうよ。君達が使わずとも、原子爆弾は我が国にとって必要だ」

「ありがとうございます」


 現状で使える搦手と言ったらこのくらいであろう。取り敢えずはキューバ政府の交渉次第であり、瑞鶴達にできることはなかった。


 と、その時であった。キューバ軍の兵士が焦った様子で駆け込んできて、ゲバラに何かを耳打ちした。


「どうしたの、ゲバラ?」

「どうやら、日本軍が君達を狙っているようだ。君達を引っ捕らえるのに協力しろと言ってきた」


 どうやら瑞鶴達の動向は向こうに筒抜けらしい。


「た、大変じゃないですか! どうするんですか、瑞鶴さん!?」

「いや、私に聞かれても困る」

「手は打ってみるが、現状、我が国が日本と表立って対立する訳にはいかない。彼らが本気を出してきたら、止める手段はないんだ。すまない」


 ゲバラは悔しそうに言った。ソ連の支援もあるとは言え、日本の支援がなければキューバはたちまちアメリカに滅ぼされてしまうだろう。今のキューバの日本に抗う力はなかった。

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