第二章 第五艦隊

第五艦隊にこんにちは

「し、失礼いたします! 本日より第五艦隊に着任しました妙高型重巡洋艦一番艦、妙高です!」


 明るい日差しの射す執務室の扉を、白の着物を着て狸のような耳と尻尾を伸ばした少女が、ほんの少し手を震わせながら開けた。扉の先には静かに彼女を待ち受ける少女が一人。


「妙高か。思ったより早い到着ではないか」


 机に頬を突いて座っていたのは、一角獣のような大きな角を持ち、勲章のついた黒い軍服に身を包んだ理知的な少女である。


「つ、角……」


 部屋に入ってきた少女は、彼女の角に思わず見入ってしまう。


「あ。す、すみません」

「構わん。第一世代の船魄は少ないからな。こういう見た目は目立つだろう」

「た、確かに……? それでその……あなたは長門様でしょうか……?」

「ここに座っているのだ。旗艦以外の何者でもないのではないか?」

「あ、当たり前でした! すみません」

「うむ。改めて、私は長門型戦艦一番艦、長門。第五艦隊旗艦を務めている。今日から君の上官だ」


 先の大戦における連合艦隊の旗艦、基準排水量三万四千トン、全長216メートル、長門型戦艦の一番艦、長門。帝国海軍の象徴として、船魄達のみならず、帝国臣民に敬愛されている艦が今、目の前にいるのである。


「よ、よろしくお願いいたします!」

「ああ、よろしく頼む。君も自己紹介をしたまえ」

「あっ……大変失礼をいたしました! これから第五艦隊でお世話になります、妙高型重巡洋艦一番艦、妙高といいます! 先日までは第三艦隊勤務で、主に治安維持を担当しておりました。同格の敵との実戦経験は大東亜戦争の時以来ですが、是非ともよろしくお願いいたします!」


 長門と概ね同時期に建造された軍艦である、基準排水量一万三千トン、全長204メートル、妙高型重巡洋艦一番艦の妙高。船魄として目覚めたのは長門より遅く、第二世代型の船魄である。


「連合艦隊旗艦たる長門様の下で働けて光栄です!!」


 妙高の率直な賛辞に、長門は少しだけ微笑む。


「それは昔の話だ。連合艦隊旗艦の座はとっくに後輩の和泉に譲っているのだからな」


 和泉というのは、51cm砲9門を装備する、基準排水量九万三千トン、全長294メートルの和泉型戦艦一番艦であり、連合艦隊旗艦を現職で務めている。


「それは存じていますが……やはり長門様は伝説の船魄です! お目にかかれて、しかも麾下で戦わせて頂けるなんて、光栄ですっ! 精一杯、人類の敵アイギスと戦う所存です!」

「うむ。そう言ってくれると私も嬉しいぞ。君の活躍についてはよく聞いている。今後とも活躍を期待するぞ。とは言え、まずは艦隊の皆と挨拶をするべきだろう。案内は我が艦隊の高雄に任せる」


 長門が電話で誰かを呼び出すと、すぐにその少女はやって来た。


「失礼いたします、高雄にございます」


 妙高と似たような白い着物に、狐の獣耳と短い尻尾を持った少女。妙高とほぼ同じスペックを有する高雄型重巡洋艦一番艦、高雄である。妙高とは違ってとても落ち着き払った印象を受ける。


「あ、私、妙高って言います! 以後お見知りおきを!」

「お話は聞いていますよ。ようこそ第五艦隊へ、妙高。それでは長門からのご命令通り、このプエルト・リモン鎮守府をご案内しましょう」


 大日本帝国海軍、北米方面艦隊隷下第五艦隊。その拠点として帝国領コスタリカに整備されているのがこのプエルト・リモン鎮守府である。


「高雄さん、よろしくお願いします!」

「うむ、行ってこい」


 元気よく返事をし、妙高は港と基が一体化したこの拠点の案内を受けることになった。長門型戦艦も修理ができる大型の船渠や、船魄のための生活施設、宿舎、娯楽施設などが完備された、前線拠点としてはこれ以上ない施設である。


「すごいですね……この鎮守府は。妙高が以前いた第三艦隊では、あまりこういうのはありませんでしたから……」


 第三艦隊での勤務は、妙高にとってはあまり思い出したくない記憶だ。


「うふふ、そうでしょう? 実は長門の権勢を使って本国に色々と要求しているだけなのですけどね」

「えっ……そ、それは、職権乱用と言うか……」

「いいのです。本国には予算が沢山あるのにわたくし達の為に使ってくれないのですから」

「そういうものでしょうか……」

「あ、向こうにいるのは信濃ですね」


 桃色を基調とした厚い着物に身を包み、狐のような長い耳と地面を引きずる尻尾を持った小柄な少女。どこか儚げに空を眺めている少女を、高雄は指差した。


「しなの……信濃!? もしかして、大和型三番艦として計画され、空母に改装されたあの信濃ですか!?」

「ええ、その通りですよ。先の大戦で活躍した航空母艦信濃です」


 大和型戦艦の三番艦として設計、建造されたが、戦局の変化を受けて空母として完成した大型空母、信濃。基準排水量六万三千トン、全長266メートル、先の大戦中では最大の排水量を持つ空母である。もっとも、その重量は主に重厚な装甲によるものが大きく、特段多くの艦載機を搭載しているわけでもないのだが。


 妙高と高雄がぼうっとしている少女に近づくと、信濃の方から語りかけてきた。


「そこの見知らぬ者、大和のお姉様を知らぬか?」

「え? 大和、ですか。すみません、妙高は何も知りません。というか、大和はもう……」


 沈んでいる、そう言いかけたが、高雄に制止された。


「そう……」


 信濃はぼうっとしながら空を見上げた。


「あのぉ…………」

「すみません。信濃は何と言いますか、浮世離れしていると言うか」


 高雄は申し訳なさそうに言った。


「あ、私、妙高と言います。一応、よろしくお願いします」

「妙高、我のことは信濃と」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「…………」

「これで、我が艦隊の主力艦はご紹介が終わりました。信濃は、ちゃんとご紹介できたか怪しいですが……」


 戦艦と空母を中心とする少数精鋭の艦隊。それが帝国海軍の基本的な艦隊の構成だ。最小で6隻、最大では第一艦隊の13隻と、数にはそれなりの幅がある。旧時代と比べれば一個艦隊の編成は大幅に縮小されたが、船魄だけで構成された艦隊の戦力は、旧時代の艦隊の何十倍もの力を持つ。


長門

https://kakuyomu.jp/users/sovetskijsoyuz/news/16818093074633950450


妙高

https://kakuyomu.jp/users/sovetskijsoyuz/news/16818093074633988496


高雄

https://kakuyomu.jp/users/sovetskijsoyuz/news/16818093074634022470


信濃

https://kakuyomu.jp/users/sovetskijsoyuz/news/16818093074634068358

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