第21話 クラスメイト
あー、死にたい。ていうか、まだ夕方なのになにやってるんだろう。普段はするにしても陽子が寝てるだろう夜にしてるのに。いやどっちにしろ陽子みたいに大きい声は出さないし、気づかれるってことはないだろうけど。
やばい。なんかこう、陽子の時は言っても、脳内で自分が架空の妹になりきって架空の姉に興奮する感じだったから、きっかけとは言えそこまでだった。
でも、普通に実際に小梅の顔を思い浮かべてしてしまった。いや、小梅は逆に喜ぶかもだけど、きついな。今まではしても架空だったから、はい、おわり、すっきりした。寝よう。って感じであっさりしたものだったけど、なんだろう。
なかなか納得できなくて2時間以上無駄にした時みたいな虚無感だ。なんでこんなことしたんだろう。興奮するのはいいけど、いつもみたいに適当なおかずにしておけばいいのに。
いやー。でも、まじで、いつもより興奮したんだけども。よかったけども。くそ、陽子のこと言えない気がしてショックだ。
「はぁぁ……テンションさがる」
まあいいや。晩御飯まだだし、なんか、勉強でもするか。基本課題は授業の合間に済ませているけど、たまには復習でもするか。テスト前にノートをまとめなおしてるけど、先にしておけばテスト前に楽だしね。
このままだらだらして時間がたってもきっと気分は晴れないだろうから、気持ちを切り替える為に勉強することにした。
そうしてしばらく集中すると夕食の時間になった。小一時間ほどだけど頭を切り替えたからかすっきりした気分だった。
陽子はなにやら難しい顔をしていた。私の日記はさっそく読んだのかな?
ここはスルーの一手。
お風呂を済ませ、ちょっとだけ陽子が来るかと身構えたけどそんなこともなかった。もしかしてあの二日で性欲使いすぎて今枯れてるのかな? このまま一年くらい枯れていてほしい。
その後も自主勉してると、小梅から通話が来たのでやめる。
『すみません、毎日電話しちゃって。その、声が聞きたくて。大丈夫ですか? もし勉強とか、テレビとかでもやることがあるなら私は片手間でも全然大丈夫なので』
「全然大丈夫だよー」
タイミングいいし、勉強をやめるベストタイミングまである。でもあれ、なんか、勉強してたとしても通話をやめるつもりはない感じなのかな? まあいいけど。
『ところで朝日先輩のお部屋のレイアウトがどんな感じなのかとか、聞いてもいいですか?』
「いいけどどうして?」
『ちょっと、室内の模様替えをしようかなと思ってまして、参考にお伺いしたいなと思いまして。全然、変な意味はないんですけど』
なるほどね。全然いいんだけど、なんでわざわざそんな言い訳するの? 逆に何かあるのかと疑ってしまう。まあ、いいけど。と言っても口で説明するのも面倒なので、ぱしゃっと部屋の写真を何枚かとって送る。
「こんな感じ」
『わぁ! 素敵ですね!』
「そう? ありがとう」
特に意識したものではなく、普通のレイアウトだと思うけど。
『はい。勉強机からも、先輩がこんな感じに勉強されてるのかなって、想像が膨らみます』
「それ模様替えに関係ないよね」
『すみません、つい。うふふ』
いやこれボケたのか? わかりにくいな。
「まあ、参考になるならいいけど」
『とってもなりました。ありがとうございます』
「いいよ。そう言えば小梅って勉強はできるの?」
まだちょっと気が早いけど、そろそろテスト期間に入る頃だ。小梅とは委員での付き合いなのでその辺りは詳しくない。
『そう、ですね。実はあんまり得意じゃなくて……そうだ、テスト期間が始まったら勉強会しませんか? 教えてもらえたら嬉しいです』
「うーん……いや、人に教えるの得意じゃないから。それにああいうのって結局集中力続かないから、一人でやった方が効率いいし」
私の成績は悪くない。でも教えるのは苦手だ。陽子にも散々勉強を教えてきたけど、自分的にはすごい丁寧にわかりやすく教えたのに何にも分からないとか言われるといらついてくるし、陽子は陽子で教え方が悪いとか言うからつい手も出るし。
それに友達と一回だけ勉強会したことあるけど、全然集中できないし、集中しかけたら誰かが集中切らして話始めるから自分の意識もそれるし、あれはただ勉強会と言う口実で遊んでるだけだ。いや、そうじゃないパターンもあるのかもだけど、私には向いてない。
『そうですか? でも……一緒に勉強会はしてみたいです。私、お友達ともそう言うのしたことなくて。あ、クッキーとか焼きます!』
「うーん」
もうそれイベントじゃん。そう言う体で遊ぶだけ。悪くはないけど、わざわざテスト期間を使って一日遊ぶのってどうなの?
『お休みの日に一日だけでも駄目ですか?』
「そんなにしたいの?」
『やりたいです』
「じゃあ、わかったよ。一日だけね」
気は進まないけど、そこまで小梅がやりたいなら仕方ないか。私は折れて頷いた。
このさ、小梅と陽子のややこしい感じになったし、あんまり今まで通りめんどくさいからって流されるのよくないかなって思ってはいるんだけど。でもやっぱ、絶対嫌、なにがなんでも無理じゃないことは拒否するのめんどくさいなぁ。
とりあえずそんな感じで約束してだらだら話していつのまにか寝た。
だいぶ寝落ち通話にもなれてきた気がする。
○
ようやく今週の後半戦、木曜日がはじまった。
今日明日頑張れば休み。そう思うと足取りも多少は軽くなる。先週は二日連続で出かけたし心労もえぐかったから、今週はゆっくりしよ。
何だかんだ小梅との関係も陽子との関係も、まあ、色々あったけど、今のところ流血沙汰になりそうな感じはないし、平和? だよね?
うーん。どうなんだろ。今日は小梅が日直だから早く行くってことで一人だ。今まで電車の中ではひたすらぼーっと電線見ていたけど、何だか今日は色々考えてしまうな。
このまま流されるまま生きていけば、そのうち二人とも私を飽きるでしょ、と言うのはさすがに楽天的すぎるよね。
なんていうか二人の熱量的に、私も真面目に向き合わないといけないよね、と薄々は感じているのだ。まあ、今のところできてる気はしないけど。
別に不真面目なつもりはないんだけど、正直私があんまり恋愛感情がよくわかってないし、いまだ二人の熱量に一歩、うーん、十歩くらい引いたところがある。
それに、これいったらあれだけど……めんどくさい。人の気持ちに真面目に向き合って、自分の感情をよく考えてってめんどくさくない? 自発的に恋に落ちたならともかく、別に焦って恋をしたいわけでもないのに、他の人のせいで私が頑張って恋愛とは、って考えて選んで結論出さなきゃいけないとか、めんどくさくない?
とりあえず言われることに唯々諾々と従う分なら、私に責任ないけど、私が選ばなきゃいけないのが本当になぁ。これが一人が陽子じゃなければ、なんなら二人で話し合って決めてって言いたいくらいだ。
誰かと付き合う自体は結構楽しいこともあるし、性欲も満たされるし悪くないけどさ。二人の人間の間に挟まれてるのがしんどいよね。なんならこの二人以外と付き合いたいくらいだ。さすがに誰も選ばないならともかく、別の人は刃傷沙汰になりそうでしないけど。
……これ、他の人はどうしてるんだろう。ふいに気が付いた。
片方が妹なのはおいておいて、二人の人間から同時に好かれるくらいなら、この私にあるのだから他の誰にもよくあることなんだろう。不倫とか浮気とかって言葉がごろごろしてるくらいだし。
なら他の恋愛が得意そうな人に相談してみればいいのでは?
と思い付いた。我ながらすごくナイスアイデアだ。問題があるとするなら、スマホに連絡先がはいってる人間のなかで恋愛が得意そうな人がいないことだ。
誰でもいいし、よさそうなモテてる人がいたら相談してみるか。さすがに道端で他人を捕まえるのはあれだけど、友達の友達とかならいるかも。そもそも私は友達が多い方ではないし。
そんなことを考えながら学校についた。
「ふんふーん」
下駄箱で靴を履き替えていると、ふとクラスメイトが機嫌よさそうに登校してきたのが目に入ってピンと来た。一応お互い名前は知っている程度の関係だけど、明るくて友人が多く、いかにもモテそうな子だ。大きな声で話していて、恋バナをしているのも盗み聞きじゃないけど耳にしたこともある。
考えてみたら親しすぎても恥ずかしいから相談しにくい、そうだ、井上さん、君に決めた!
「おはよう、井上さん」
「あっ、おはよぉ。南雲さん」
挨拶すると一瞬驚いたようにしてから、にこっと笑って挨拶してくれた。ただの挨拶で笑顔を見せてくれるとは、さすがのコミュ力がうかがえる。
「井上さん、ちょっと相談したいんだけどいい?」
「えっ」
意外と素早い動きで靴を履き替えて立ち去ろうとする井上さんに声をかけると、井上さんは肩をゆらすほど驚いて立ち止まった。
まあ確かにそんなに親しくないんだけど、挨拶もだしそんな驚かなくても。いや、こういうオーバーリアクションがまた、人気者の要素なのかも?
「ごめんね、急に。ちょっと、井上さんって恋バナとか好きそうだし、相談したいなって思って。手短に済ませるから。今が駄目なら後でもいいけど」
「あ、あー……いや、いっすよぉ? 全然、今で。あ、恋バナなら、ちょっと人気ないとこいきますぅ?」
「あ、そうだね。と言うか、普通に前ため口だったよね? どうしたの? あ、もしかして私も敬語の方がいい?」
「いえいえ、全然、全然。だいじょうぶっす、よぉ」
あれ、彼女こんな話し方だっけ? のんびりした話し方で可愛い感じだったけど、別に敬語が癖って感じはないし、むしろ先生にもため口だった気がするんだけど。まあいいか。
話を聞いてくれるみたいなので、手近で教室に近い人気のない廊下の隅に移動した。
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