第8話私は無関係!
昼休みになって肩を落としながら婚約者を迎えに行くラグナとシリルを見送り、私は昼食の手配と警備に特Aに近付く人がいたら追い払って、シフォンが来たら昼休み中は捕まえておくよう伝えた。
大事な時にシフォンに入ってこられたら、私の苦労が水の泡になるからね。
給仕を入れる訳にはいかないから、ご飯が冷めても見逃してもらおう。
準備が出来て待っているとラグナと婚約者のフィーラ・グラント公爵令嬢が特Aに入ってきた。
ラグナは硬い表情でフィーラ様は能面のように無表情。
その後にシリルとマリン・フォルツ侯爵令嬢が続く。
シリルは緊張で無愛想になり、マリン様は貼り付けたアルカイックスマイル。
なんかもう既に面倒くさいな。
そんな私の横でアジスが肘でつついてきた。
わかってるわよ。
「わざわざお越し頂きありがとうございます。」
私は内心を隠して笑顔で二人の令嬢に挨拶したわよ。
「どうして貴女がいるのかしら。」
本当にどうしてでしょうね。フィーラ様が王妃様に聞いてくださいよ。
「まさか特別食堂Aに入れるなんて。
ラゼントリオのお二方のおかげかしら。」
マリン様、私は本来無関係なんだけど。
「今日は
王妃様から言われてだからね。
文句なら王妃様に言ってよ。
王妃様の名前が出てビクッとなってるあんた達には無理だと思うけどね。
「ここで何があろうと全て不問にするのでしっかり話し合うようにとのお言葉を賜っております。」
「王妃陛下のご伝言をなぜ貴女が?」
フィーラ様の質問に答えずに笑顔で着席を促す。
「先ずはお食事を頂きませんか。
給仕がおらずご不便をお掛けしますがご容赦を。」
さっさと終わらせたいんだから、大人しくご飯を食べろ!
私の笑顔の圧にそれ以上の質問をせず、着席してくれたよ。
長方形の片側に女性陣が並んで座り、自分の婚約者が正面になるようにラグナ達が座って比較的穏やか·····無言でお昼ご飯を食べた。
カトラリーの音しかしない。
苦行のような食事が終わり、アジスがお茶を配る。
この中で婚約者がいないのはアジスだけだからか、気配り屋さんだからか、食器まで下げてくれた。
目線でお礼を言うと笑顔で答えてくれるできた弟に、後で胃薬を渡そう。
これからの修羅場はあの子にとってかなりキツイからね。
「それでお話とは何でしょう?」
口火を切ったのはラグナの婚約者、フィーラ様だった。
ラグナは意を決したような表情で婚約者を見る。
「今までの私の行いで君とグラント公爵家に迷惑をかけた。
フィーラ、君には婚約者としての義務も果たさず侮辱する様な態度だった。
すまなかった。」
「それで?」
「これからは君を大切にすると約束する。
でも君が許せないと言うなら私の有責で婚約を解消してもいい。
君の望むようにしよう。」
「殿下の謝罪は受けます。
ですが、婚約に関しては両家の契約。
軽々に発言はできません。」
「今の君の気持ちが聞きたい。
私を詰っても引っぱたいても構わない。」
「まさか殿下にそんな真似は致しませんわ。」
「フィーラ·····」
フィーラ様は何言われても眉一つ動かさないって事は、もうラグナに気持ちが一欠片もないのかもね。
「シリル様も同じですの?」
おっと、今度はマリン様か。
「俺はマリンとやり直したいとは思わない。
だが俺の行動でマリンに辛い思いをさせた。
君がどうして欲しいか言ってくれればそれに沿うように努める。」
「左様でございますか。」
二人の令嬢は立ち上がりカーテシーをして扉に向かう。
「フィー、私と話すのも嫌なのか?」
「マリン、これが最後になってもいいから何か言ってくれ!」
ラグナもシリルも今更ながらだけど婚約者と向き合おうとしてるけど、令嬢達の歩みは止まらなかった。
「姉上、見ているだけですか?!」
そう言われてもね~。
「私の役目は場を設けて話し合いをする様に頼まれただけよ。
後はこの顛末を王妃様に報告するだけ。」
その言葉に扉を開けようとしていた令嬢達が振り返り私を睨みつけてきた。
「ここで何があろうと全て不問にすると仰ったじゃありませんか! 」
「もともと不問にするつもりなどなかったのですね。
随分と卑怯なやり方ですわ。
さすが悪名高いラゼントリオですわね。」
フィーラ様はともかくマリン様、ラゼントリオを貶してただで済むと思ってる?
「お二方とも、私は王妃陛下から
なのにお二方は話し合う気はない。
つまり私は役目を全うできなかったのですから、王妃陛下に謝罪し何故そうなったのかを報告せねばなりません。」
あんたらラグナとシリルに何も言ってないからね。
「それとマリン様、不問にすると仰せになったのは王妃陛下です。ラゼントリオは関係ありません。
貴女の発言は曲解でラゼントリオを貶め、遠回しに王妃陛下をも侮辱しました。
いくらこの場では不問にすると言ってもラゼントリオへの侮辱まで不問にするつもりはありません。」
好きでお節介おばちゃんしてる訳じゃないんだよ。
王妃陛下に頼まれたって言ったよね。
「王妃陛下が不問にすると仰せになったのは身分で縛られないよう、婚約者と少しでも本音で話し合うのを望まれたからです。
それを調子に乗り婚約者とは何も話し合わず、ラゼントリオと王妃陛下を侮辱しただけ。
王妃陛下のお心を踏みにじってラゼントリオに喧嘩を売るなどマリン様、フォルツ侯爵家はなかなかに豪胆ですのね。」
喧嘩を売られたら倍にして買うのがラゼントリオだよ。
格下だからと思って舐めてるなら、今までの屈辱なんて可愛かったと思わせてあげる。
「申し訳ありません!
つい·····」
「つい?口が滑って本音が出たと?」
真っ青になって謝っても手遅れだよ。
「そんなつもりはありません!」
私は立ち上がりマリン様に向かって歩いて行く。
そんな化け物を見るような目をしないでよ。
「ではどんなつもりで?
私が最初に言った〈王妃陛下のご希望〉が聞こえなかったとでも?
格下の言うことには耳を貸す価値もないのかしら。
それとも不問の真意を読み取れなかった?
どちらにしても構いません。
これからは刺激的な毎日が送れるとお約束しますわ。」
マリン様に手が届く距離まで近づいたのに、シリルが割って入った。
「シリル様、退いてくれません?」
邪魔なんだけど。
「退いたらマリンに危害を加えるだろ。
彼女は俺のせいで感情が昂って失言したんだ。」
だから許せって?
「分かりました。
止めませんわ。」
さっさと終わらせたいんでね。
なんで二人して躊躇ってんのよ。
出てってくれないと私も出ていけないでしょ。
「姉上、当初の目的を忘れないでください。」
忘れてないわよ。
「目的は果たしたじゃない。
話し合いは拒絶。
私は任務失敗。
以上。」
「以上じゃありません!
グラント嬢、フォルツ嬢、殿下とシリル様と話したくも顔を見たくもないならそう二人に言ってくださっても良いのです。
お二方が殿下やシリル様に何をしても不問にするのは本当です。
叩いても引っ掻いても構いません。
そしてこの場での事は拷問されても、ラゼントリオの名にかけて他言しません。」
「⋯わかりました、アジス様がそこまで仰るなら。」
「わたくしもアジス様を信じます。
ラゼントリオを侮辱する発言をお許し下さい。」
·····ちょっと待って。
マリン様は私に向かってラゼントリオを侮辱したのに謝罪はアジスなの?
そんでフィーラ様もアジスなら信じるの?
私ってそんなに信用ないの?
私、アジスのお姉ちゃんなのに·····
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