第216話 19の狩人
内野は今回のクエストについてどうするのか、リビングで飯を食べながらチャットで聞いていた。
父や母が後ろを通り過ぎる時に閉じれば問題ないので、平然とリビングでクエストについての話をする。
先ず2つ大事な情報がある。
それは防衛対象の欄に名があったレベル110の『灰原 啓』は色欲グループの者という事。しかも以前の話合いで廊下の見張りをしていた者だという。
彼は色欲グループで西園寺の次にレベルが高く、ほぼ色欲グループのエース的存在。
以前合った時は訓練でかなり魔力を使っていたので梅垣もそこまで魔力量で警戒していなかった。
そしてもう一人のレベル128の『宮田 愛駆』は暴食グループの者という事。
大罪並みの高レベルだがそれ以上に情報はもらえず、この者が以前涼川と共に話し合いの場に来ていた者なのかも分からない。
そもそも目立っていなかった人はあまり覚えていないので、内野は涼川の隣にいた者の姿すら思い出せなかった。
だがこれで今回の防衛対象が全グループから選ばれているというのが分かった。
しかも色欲、暴食グループグループに続いて高レベルプレイヤーが多いので、相手が早めに高レベルプレイヤーを潰そうとしている事も。
本来は4グループの精鋭メンバーで集まった状態でクエスト開始し、最初に現れた使徒を倒すつもりだったが、この防衛対象の選出には計画を変更せざるを得なかった。
それは色欲と憤怒グループは突出して強いプレイヤーはいるもののレベル平均は低く、今回防衛対象に選ばれた者達が居ないのは痛手だからだ。
一方怠惰グループは戦える50人の平均レベルが基本的に70越えと高いので、『契りの指輪』で慎二と吉本にある程度護衛を付けられ、精鋭メンバーの人員をそれに割く必要は無かったので、作戦通りに動くのは可能だ。
だが1グループ動けても意味は無い。
(『契りの指輪』は二つの指輪で一組のアイテム。クエスト時の転移だったり通常の『テレポート』で、必ず相方の転移場所の近く相方も転移するという効果がある)
そこで西園寺から出された提案は、色欲・憤怒グループは大罪含めた精鋭メンバー全員で『契りの指輪』を付け合い、クエスト開始の転移後すぐにその場所から集合場所に向かうというものだった。
西園寺が『色欲』でコピーを生成して沢山渡す事が可能なので、これには誰も異論はなかった。
なので作戦の変更点は、4グループの精鋭メンバーで集まった状態でクエスト開始するというのを、4グループの精鋭メンバーは
バラバラの状態で開始とはいえ精鋭メンバーなら素早く移動できるので、余程のトラブルが無い限りは次の使徒が現れる前に最初の使徒と対峙するのは可能だと思われる。
その作戦変更を受け、内野はチャット欄を見つめたまま思考する。
それじゃあスタートの段階では強欲と怠惰グループの精鋭メンバーだけになるのか。
その後憤怒と色欲グループと合流し、使徒を倒しに向かうという流れだな。
まだ精鋭メンバーに誰を選ぶのか川崎さんに教えてもらってないが、俺に出来るのは一つだけ。足を引っ張らない事だ。
一見難易度が低い様に見えるが、周囲の高レベルプレイヤーの足を引っ張らないというのは簡単な目標ではない。
訓練で強い者達の実力を間近で見てそれが分かったので、内野はこれを次のクエストの目標として心に刻んだ。
〈土曜日〉
クエスト当日、内野は梅垣と共に渋谷駅で二人並んで川崎達を待っていた。
何故二人しかいないのかと言うと、強欲グループの精鋭メンバーに選ばれたのがこの二人のみだったからだ。
内野は前回同様に新島が『闇耐性』持ちとして同行するのかと思っていたのでこれは以外だった。
ただ異論がある訳ではない。新島が来ても前回同様に誰かに負ぶってもらわねばならないが、使徒との戦闘中にそんな余裕など誰にもないので連れて行くのは新島と背負う者のリスクが大きくなるのだ。
それに内野が選ばれたのは大罪だからであり実力は伴ってなく、実質的に強欲グループで実力で選ばれたのは梅垣だけであった。
「中村、工藤は惜しかったな。レベルさえあれば選出しても良いレベルだったらしいぞ」
「それ聞きましたけど…中村さんも工藤も凄いですよね。俺は大罪だから選ばれているけど、二人はガチの実力で選ばれそうになってましたし」
工藤は自分で出した氷柱に乗って足りない機動力を補え、しかもヒールを使える。なのでヒーラーとして連れて行く案が出ていた。
中村は単純にスキルと戦闘技術が高く、特にスキルの圧縮が得意で格上相手に大打撃を与える事が可能だと
スキルの圧縮とは、『グラビティ』で例えると通常の範囲よりも範囲を絞って更に重力を強くするというもの。
現にこれで黒狼に一矢報いた事もあるので、レベルさえもう少しあれば強敵戦に連れて行っても問題無い人材であった。
内野が二人の事を思い浮かべていると、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「内野!それと梅垣!よくビビらずに来たな!」
「二人とも来るの結構早いね~」
強気な声で胸張って歩いてくる柏原と、ポテトを歩き食いしている二階堂の
声だった。
そしてその後ろには川崎、清水、原井がいた。
やって来た怠惰グループメンバーに手を振り迎えるも、内野は二人足りない事に気が付いて首を傾ける。
「あれ、たしか田村さんと美海ちゃんも使徒討伐メンバーでしたよね?」
「ああ。ただ田村は『契りの指輪』で始めから吉本と共に行動するから、どこに集まっても同じだと言って途中で別れた。
昨日も言ったが、慎二とは『契りの指輪』で佐々木が護衛になってもらっているから怠惰グループから選出はここにいる面々と田村・吉本を含めた7人だ。
それと…」
川崎が残る一人の名前をいいかけた所で、その者は川崎のポップコーンを頬張りながら背後から現れる。
それは傲慢グループの薫森であった。
薫森が参加するなどと二人は昨日聞いていなかったが、実力は申し分ないので川崎の判断ならばと納得した。
「いや~頼み込んだら川崎さんが同行を許してくれてね、急遽俺も使徒討伐メンバーに入る事になったんだ。
それよりさ、まだ9時頃だし色々店回らない?
ほら、どうせクエストで明日には潰れるだろうし今のうちにさ」
「…そのポップコーンもそんな感覚で買ったのか?」
「そそ。屋台カーがあったから最後に買っておこうと思ってね」
店が潰れるだろうというのは間違ってはいないが、内野は平然とそう言う薫森をやっぱり好かなかった。
人の死をなんとも思わない薫森はプレイヤーとしてはある意味強いのかもしれないが、人間としては終わっているので、実際薫森の印象は見る人によってかなり異なっていた。
そんな薫森を無視し、川崎は話を進める。
「傲慢から一人、強欲から二人、怠惰から七人。
そして色欲から四人、憤怒から五人で合計19人での行動になる。俺らはともかく色欲と憤怒メンバーは初対面の者も多いだろうし連携は難しいだろうから、無理に彼らに合わせる必要は無い。各々の普段の戦い方で構わん。
ただ、恐怖を植え付ける能力や理性が無くなり暴走する能力だとかの一撃必殺の様な攻撃を大罪が喰らうのは絶対に避けねばならないから、大罪はそれらの使徒と戦う際は常に距離を置く。
内野君、たとえ仲間がピンチでも迂闊に前には出るなよ?」
川崎の名指しの警告に、内野は不安ながらも頷く。
自分が大罪という超重要な立場であるのも分かっており、自分が死ぬ事で今後起こるであろう損失も考えられるのでこの点は問題無い…と今の内野は考えられていた。
ただ、いざ戦闘中にその時を前にしても、自分が冷静に味方を見殺しにする選択肢を確実に取れる自信は無かった。だから不安が顔に出てしまっていた。
「大丈夫です、自分の立場は分かっていますから…」
「…見殺しという行為は人の道を外れるものであっても、大罪としては間違った道じゃないというのは覚えておいてくれ。
それに今回は君を闇から引っ張り出せる者が居ないから、基本的に『強欲』使用は控えてくれ。使徒の前で頭痛だとかでよろけるのは危険すぎるからな。とにかく避けて生き残れ」
『強欲』は使えないが、俺には沢山のスキルがある。
それらのスキルの練習もしてきたし、ブレードシューズを利用して3次元的な移動方、美海ちゃんや清水さんから教わった接近戦の動き、それに黒狼もいる。
全てを訓練通りに発揮すれば、俺が活躍できずともきっと作戦は成功する。
重要なのは使徒を殺す事、自分が活躍する事じゃない!
川崎の言葉を聞き、内野は下を向いて哀狼の指輪を見つめて気を引き締め直す。
だがその時、内野は二人の子供と目が合った。
二人とも背は130cmぐらいの小学生で、顔が似ているので恐らく双子だろうというのは分かった。
その二人は薫森と同じポップコーンを頬張りながらじーっと内野と目を合わせてくる。そして少女は内野の顔を見ながらポップコーンを一つ手渡してきた。
「ねえね、これ食べる?」
「これ美味しいよ、潰れる予定の店のだけど~」
「あ、ありがとう。でもお父さんやお母さんは何処に…って潰れる予定の店…?」
「内野君、その二人プレイヤーだぞ」
少年の言葉が引っ掛かり内野が動きを止めた所で、梅垣の警告によって二人の正体が明かされる。
内野が「えっ…」と反応をするのを見計らったかの様に内野の後ろから数人が歩いてきた。
「そこの双子は僕の所のエース。
気遣いも出来る上に技能の吸収能力も高く強い良い子たちだ。まったく、小学生は最高だね!」
「こんな小さな子供達でもプレイヤーに選ばれてしまうとは…なんとも悲しいことじゃ…」
西園寺と平塚の声がしたので振り返ると、そこには二人だけでなく色欲・憤怒グループの精鋭メンバーがほとんど揃っていた。
(登場キャラが多いので以下に出てくるキャラなどの見た目や、これまで何処で物語に絡んできたかなどは後の話で簡単にまとめます)
色欲グループは西園寺と双子の小学生、それと以前話し合い時に廊下で見張りをしていた今回の防衛対象でもある灰原の4人。
憤怒グループは平塚・笹森・牛頭・生見と、身長が2メートルあり腕が長い男性の5人いた。
その高身長な男性に一度目が釘付けになるも、内野は西園寺に視線を戻す。
西園寺はマスクとサングラスを付けて顔を隠しているが、これには訳がある。
最近5人グループのアイドルユニットが結成され、西園寺はそのリーダー的ポジション。しかもデビュー曲がかなり流行り超好調なスタートダッシュを切り、今日本で最も注目を集めている男と言っても過言ではなかった。
なので騒ぎが起きたりしない様に厳重に顔を隠しているのだ。
そんな西園寺はゆっくり近づいて来て双子の頭を撫でる。
「二人とも、落としたポップコーンはしっかり回収してゴミ箱に捨てるんだぞ」
「分かったパパ!」
「どうせ汚れちゃうのに~?」
「「パパ!?」」」
少女が西園寺をパパ呼びした事で内野達は声を合わせて驚く。
それは当然で、西園寺はまだ高校2年生で子供がいるわけないからだ。
西園寺は特に焦る事なく立ち上がり皆に弁明をする。
「大丈夫大丈夫、血は繋がってないよ。ただ二人の親の代わりに僕が面倒を見てるってだけだから。ま、この子達の素性はともかく自己紹介と行こうか。
ほら二人とも、さっきみたいに挨拶しなさい」
「今日はよろしくお願いします!『小町 片栗』です!2年生です!」
「ぱぱー、どうしてゴミを回収するの?だってどうせお肉で道とか全部汚れちゃうのに」
少女の方は元気いっぱいに挨拶し名前を言うが、少年の方は西園寺にずっと質問をしている。
双子とはいえ性格が全然違うんだな~と思うも、少年の実に子供らしい純粋なその疑問は、少し答えに詰まるものだった。
ただ西園寺は直ぐにそれらしい答えを返す。
「ごみを回収する癖をつける事に意味があるんだぞ~二人は大人になっても平気でゴミをポイ捨てとかする猿にならんようにな~
さ、皆に挨拶だ」
「へーゴミをポイ捨てする人ってお猿さんなんだ~
強欲のお兄さんも知ってた?」
「こら
男の子は気ままな性格なのか挨拶せずにいた。
ただそんな少年を女の子の方が叱り、少年は懲りて仕方なく自分の名前を言う。
「『小町
「こら!お姉ちゃんみたいにもっとしっかり挨拶しなさい!」
そんな両極端な性格の双子を見て和むと同時に、こんな子供達でも戦わねばならないのだと内野は胸を痛めた。
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