第43話 討伐対象:フレイムリザード1

クエストが始まり辺りを見回すと、周囲は荒野の様な場所だった。所々に大きな岩がある程度で、視界を妨げる物があまり無いので視界を確保できた。

現実世界では20時だというのに、相変わらずこっちは昼間である。太陽が上空に見え、日が強く射している。



取り敢えず前回のみたいに暗い洞窟からのスタートじゃなくて良かった。

だが、最後に新島が言ってた通り今回も黒狼がいるだろう。奴に対して警戒を払いながら動かないといけないし、隠れられる所が少ないのは少々不味いかもしれない。

それに熱いし、日影が無いのもキツイぞ。物影が無いから陽の光を常に浴び続けないといけないのは…って、よく考えて何でこっちにも太陽あるの?


上に見える太陽は現実世界で見えるものと何ら変わらずにある事に疑問を抱くが、その直後、遠くで魔物らしき影を発見する。


あまり見えないけど、少なくとも人間には見えない。フレイムリザードかもしれないし取り敢えず向かってみよう。


内野は剣を手に持ち魔物の元へと走り出した。



ある程度近づくとそれが大きなトカゲだと分かった。

全長3m以上で赤黒い鱗を纏うトカゲで、尻尾の先には鋭い刃の様になっている。


もしかしてあれがフレイムリザードか?

だとするとラッキーだ。クエストが始まって数分でターゲットを倒せるのはデカいぞ。


いや…あれを一人で倒せるのか?

未知の敵だしもう少し人数が揃ってからの方がいいかもしれない。


走りながらそんな事を考えていると、内野と同じくトカゲに向かっている人が右奥にいる事に気がつく。


あ、あれは…進上さんだ!

前回の新島と工藤といい、進上さんも近くにいてくれて良かった!

まずはトカゲと戦うのよりも先に合流しよう。


内野はトカゲより先に進上の方に向かい合流を目指す。すると向こう側も内野の存在に気が付いたようで、進上もこちらに向かってくる。



「内野さんがすぐ傍に居てくれて良かったよ!」


「はい!それにフレイムリザードらしき魔物もあそこにいますしラッキーですね!」


進上と合流出来た事により緊張が少しほぐれる。


正直一人で戦うのは不安だったから、進上さんがいて少し安心した…

でも二人で行けるのか?

進上さんもまだ2回目なのにも前回のランキングに載れるほど強いが、流石に高レベルの人がいない状態で挑むのはキツイと思う。


「進上さん、あの魔物に挑むのはもう少し人数が集まってからにしませんか?」


「…そうだよね。じゃあ…ここで誰か来るのを待とうか」


人数が揃ってから挑もうと内野が提案すると、進上はそれに賛同する。だが何故か進上は肩を落とし、落ち込んだ表情をしていた。


「進上さん、どうしたんですか?」


「大丈夫、何でもないよ。って…あ!あれ見て!」


進上はいきなり大きな声を上げたかと思うと、魔物の方を指差す。魔物がこちらに向かって来ているのかと思い焦って魔物の方を見るがそういう訳ではなかった。


魔物の更に奥の方に一人の大柄の男が見え、その男は魔物に向かって一直線に走っていた。

魔物もその男に気が付いて走り出す。


な!?未知の敵に正面から突っ込むなんて!


「内野さん!あの人と共闘しよう!」


「は、はい!」


進上の掛け声と共に内野もトカゲを追いかける。心なしか魔物に向かう時の進上の表情は明るくなっていた。




「あ!あの人は!」


トカゲに向かって二人で走っていると、進上が声を上げた。


「あの人は前回知り合った人です、防御スキルを持ってるので僕らは攻撃に専念しましょう!」


「分かりました」


防御系のスキルを所持してるらしいが、真正面から突っ込む何て無謀過ぎないか?

あの人は一体何を考えているんだ…



内野達が到着する前に、その男はトカゲと接触する。


男は魔物の目の前でしゃがんだかと思うと、足元から砂が現れ、男を包むようにドームが生成される。

魔物はそのドームに向かって炎を口から出す。まともに食らえば人ぐらい簡単に火だるまになりそうな火力である。


「クェェェ!」


炎を砂のドームに向かって放出し続けてもドームはビクともせず、それに怒ったのか大声で鳴く。


内野達もようやく辿り着き、魔物に攻撃を始める。



相手の後ろをとれたので、内野が最初に魔物の尻尾を切りつける。上から剣を振り下ろすが、魔物の尻尾の先が刃みたいに鋭くなっており、それが内野の剣を防いだ。

そして尻尾で剣を振り飛ばし、剣は少し離れた所まで飛ぶ。

武器を失った内野はすかさず魔物から距離を置く。


「進上さん!尻尾の先の所は硬いです!」


「分かった、スキルを使う!」


尻尾が厄介だと判断したのか、進上はスキルで尻尾の切断を試みる。内野はその隙に剣の回収に向かう。


「一閃!」


スキル名を言うと、進上は高速で剣を横に払う。

だが魔物の尻尾と進上の剣がぶつかる直前、尻尾の先の刃が赤く光り始めている事に内野は気が付いた。


何だあれ…な、何かマズイ気がする!


「そいつの尻尾の色が変わってます!気をつけてください!」


内野は即座に警告するが、少し遅かった。

その赤くなった尻尾の刃と接触した進上の剣は折れてしまい、尻尾はそのまま進上の胴を真っ二つにするかのように薙ぎ払われる。


進上はギリギリの所で上体を後ろに反らしたお陰で服が無傷で済み、内野と同じく後ろに下がる。


「君の警告のお陰で助かったよ」


「それは良かったです。

取り敢えず進上さんは今の内に新しい武器を買っておいて下さ…」


内野がそう言いかけた所で、魔物は距離を置いた二人の方を向いて炎を吐く。二人は咄嗟にそれぞれ別方向に避けて炎を避ける。

二人が移動した事により、魔物を内野・進上・ドームの男の3人が囲む形になる。


そこまで射程は無いが…これじゃ近づく事が出来ない…


魔物が内野の方を向いて炎を吐いている内に、進上がその隙に後ろから距離を詰めるが、尻尾を振りましているので攻撃出来ない。


ここで少し膠着状態が続くが、この状況を打ち破ったのはドームの男だった。



「こっちだトカゲ!」


ドームの男がそう言い魔物の注意を引いたかと思うと、さっきまで男を包んでいたドームの形が崩れと、中から全身に砂を纏った男が現れた。砂の鎧というべきものだろうか。

砂の鎧を纏った男は目の前の魔物の尻尾に向かい走り出す。


魔物は赤く光る尻尾を男に向かって振る。

その尻尾は男の胴体に当たり、彼の胴体を切断する………事は出来なかった。尻尾が当たる直前に砂の鎧が変形し、尻尾が当たりそうだった所に全ての土が集まる。

それにより砂に分厚く守られた胴体を焼き切る事が出来ず、尻尾は砂に包まれ動きが止まる。


「今だ!」


砂で魔物の尻尾を止めた男がそう言い放つと、進上は一気に距離を詰める。


チャンスだ!

トカゲはこっちを向いてるし、尻尾は後ろの砂の人が止めている。今なら進上さんがコイツに攻撃出来る!


進上は魔物に接近すると、右目を剣で突き刺す。


「クェェェェェェェェェ!」


魔物が叫び声を上げ、暴れながら炎をあらぬ方向に吐く。そのせいで進上は退くしかなく、右目には進藤さんの剣が刺さったままだった。


内野に向かい吐いていた炎が無くなったので、これで内野も自由に動けるようになった。

そして我を取り戻した魔物が砂の男に向かい炎を吐こうとした瞬間、内野は魔物の頭に飛び乗ると、持っている剣をトカゲの左目に突き刺す。

魔物は両目を潰されてもまだ絶命せず、内野を振りほどくように暴れ続ける。

だが口から吐いていた炎は止まった。


これで相手の視力を奪えたが…駄目だ、両目を潰してもまだ死なない。やっぱり頭をやらないとダメなのか!


左目に刺した剣を引き抜いて、それを魔物の頭に突き刺してみると、貫通は出来なかったが剣は少し刺さった。

すると暴れるのが更に激しくなり、内野は振り落とされてしまった。


「キ、キイィィ…」


トカゲの魔物は頭を刺されているがまだ絶命していない。

再び炎を吐き始めたので進上と内野は魔物に近づけなくなる。


クソ、俺の力じゃ殺しきれなかった!もう武器が無いぞ!



「後は俺がやる!」


そう言ったのは尻尾を抑えていたはずの男であった。

男が魔物の頭に刺さっている剣に力を入れて押し込むと、見事トカゲの頭を貫くことが出来た。


「た、倒せた…の?」


「…動かない。倒したっぽい…」


内野と進上はトカゲが絶命してることを確認すると地面に倒れ込む。


ダメージは喰らってないけど…なんか疲労感が一気に襲ってきた…

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