第15話 初めての日々

内野がいつも通り後ろのドアから教室に入ろうとすると


「内野君!さっきのボール凄かったよ!」


廊下にいた山田がハイテンションで話しかけてきた。


「何かスポーツでもやってのかな?じゃないとあんな球投げれるわけないもん!」


う…ただ上がった筋力に物を言わせぶん投げてた、だなんて言えない。


「う、うん。実は野球やってたんだ。だからあんな速い球を投げれた」


口から出まかせである。

ただの帰宅部があんな球を投げた何て信じてくれないだろうし、こう言えば納得してくれるだろう。


「そっか~内野君野球やってたんだね。てっきりハンドボールをやってたのかと思ったよ。

あの球って野球の球の大きさとは違うし、そこまで関係無いと思ってたからビックリだよ!」


ああそうか…野球じゃなくてハンドボールって言った方が不自然じゃなかったか…

もう咄嗟に出るスポーツ名がサッカー、野球、バスケぐらいだから思いつかなかった…

ま、バレることはない…よな?


「取り敢えず教室入ろ、皆待ってるから!」


山田が内野の腕を引っ張り、教室のドアを開け入ると、昼飯を食べている一同がこちらを向き


「あ、鼻折りの内野が返ってきたぞ!」

「おかえり!」

「大丈夫?先生に叱られたりしなかった?」


内野が教室に入るや否や、待ってましたと言わんばかりに小西の取り巻き以外のみんなに歓迎される。


「いや~お前のおかげでスカッとしたわ」

「小西相手によくあんな事できたわね!」

「凄いよね!何かスポーツやってたの?」


小西にムカついてたのは俺だけじゃなかったらしい。女子も歓迎してくれたので、小西は男女問わず嫌われていたという事か。

てか「鼻折りの内野」ってあだ名ついたの!?それは嫌だ!

それに不味い…女子とまともに話したことが無いから何と返せば…


「内野君はまだ昼ご飯食べて無いんだ、話は食べながらしよう」


内野が困惑している所を助けるように、山田が内野を昼飯に誘う。

こうして内野は山田達と共に昼ご飯を食べた。


こんなに大勢の人に囲まれたのは初めてだ。

誰かとこんな話しながら昼飯を食べるのは初めてだ。

学校でこんな満たされた気持ちになるなんて初めてだ。



ドッジボールで皆に応援された時も思ったが、異世界での魔物狩りに巻き込まれて良かったと思った。こんな力をくれてありがとう。

もしも巻き込まれてなかったら、きっといつもみたいに一人だった。


「じゃあな内野」

「また明日な」

「じゃあねー、また明日も一緒にご飯食べよ」


「う、うん!」


いつもなら帰る時間が来ても誰とも話す事なく帰っていたが、今日は一緒に飯を食べたメンバーに声をかけられる。


今日一日で分かった。

俺は今まで人付き合いなんて面倒だと、一人の方が気楽だと思っていた。

でも、本当はそう思って無かったんだ。自分にコミュ力が無いのを棚に上げて、そう思う事で逃げてたんだ。




「待たせたな、帰るぞ勇太」


内野が下駄箱の前で待っていると佐竹がやって来くる。今日は部活が無いのでそのまま一緒に帰る。


「そういえばお前のクラスの小西が救急車で運ばれたらしいな。何があったんだ?」


ギクッ


こいつには俺が野球をしてなんて噓通じない、だから山田の時みたいに噓をついてもバレる。でも俺は知らないってここで言っても、噂は回ってくるだろう。そしたら俺のせいで運ばれた事がばれる。


結局俺は、「小西が油断してて、ボールを投げたら偶然小西に当たり倒れた。そして倒れた拍子に鼻が折れた」という事にして正樹に話した。

正直ドッジボールであれだけ活躍したのは言い訳の仕様がない。だから正樹の耳にその噂が届かない事を祈ろう。


正樹はこの話を笑いながら聞いていた。どうやら小西は他クラスでも嫌われているらしい。


「もしかして…このお陰で友達でも出来たのか?なんか今日嬉しそうだし」


「あ、顔に出てたか…?

実は今日は山田達と一緒に飯を食べたんだ。クラスメイトと一緒に飯を食べたのは中学の頃以来だったから…久々の事で嬉しくて…」


「おお、そりゃあ小西の鼻折った甲斐があったな!」


照れながらも嬉しそうに話す内野を見て、佐竹も幼馴染として嬉しく思い安心した。



佐竹の家の前に到着し、少し雑談してから内野は帰宅した。

その後19時半にクエストがあるかもしれないので昨日同様に準備していたのだが、今日も何も無かった。



今日の事があり、この時の内野は次のクエストがくるのを願っていた。

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