第13話 ターゲット

19時28分。

内野は予め飯をたべておき、鞄の中に水を入れ、動きやすい服を着てスタンバイする。


そろそろ19時半だ…準備は万態だし大丈夫…いつでも来い!



だが19時40分を過ぎても、一向に転移が始まる気配はなかった。


今日は無いのか…だとしたら次のクエストはいつあるんだ?

もしかして不定期?だとしたら結構面倒臭いぞ。


その日はクエストが無いと判断し、その後は普段通り過ごした。

家事が終わり次第テレビゲームをして寝る。




次の日はいつも通りの時間に起き学校に行った。


俺の高校は偏差値45程度、正直バカ校だ。本当はもう少し高いと所に行けたのだが、近くに丁度いいレベルの高校が無かったのだ。私立に行かせてもらう余裕も無かったし。


正樹はサッカーの朝練だとかで俺よりも早く出ている。あいつとはクラスが別だし、教室には他に話せる人がいない。今日は一言も喋ることも無く終わりそうだ。

無理して誰かに合わせる必要が無いから楽だが…やっぱり寂しい。自分にも行動力があればな…クエストの時みたいに。




4限は体育の時間。今日は先生が不在で生徒のみでドッジボールをする事になった。一応代わりの先生はいたが、ドッジボールと決まってからは職員室にかえってしまった。


クラスの陽キャが勝手に決めたことだが、俺みたいな陰な者はそれに従うしかない。男子は適当にチームを分けられ、どうやら女子は参加せずに男子のドッチボールを観戦するらしい。

まだ上手い人が目立つものだから良い。持久走だとか体力が無い者の公開処刑にならないだけマシだ。



「みんな!精一杯頑張ろう!」


「「おー!」」


こちらのチームのリーダー「山田 春樹」がそう言い、周りもそれを盛り上げる。

一言で表すと完璧。

陰の者である俺にも話しかけてきてくれるし、恐らくこのクラス1の人気者。


「春樹君がんばれー!」

「キャー!山田君カッコイイ(≧∇≦)!」


山田に女子から黄色い声援が飛び交う、山田が女子に手を振ると「キャー!」「素敵ー!」といった反応を見せる。


山田はイケメンな上に頭も良く、スポーツも出来て軽音楽部でバンドもやっている。聞いた話によると、受験で都立の超名門校を受けたのだが、あと一歩のところで落ちてしまったらしい。それで二次募集をしていた近場のここに入った。

だから俺達と頭の良さが桁違いに違うのだ。全てが完璧、一生女に困ることなんてないだろう。

羨ましい…



当然それをよく思わない奴もいる、特に「小西 柊人」だ。

厳つい顔に、髪を染め、ピアスをつけてる。見てわかる通りヤンキーで、学校でも色々問題を起こしてる。

山田程では無いが彼らもモテる方。ああいう悪い奴に惹かれるっていうのは、俺には全く分からない。校外でカツアゲをしてるだとかいう噂もあるし、良い印象は無い。


その小西のいつも傍にいるのが「松野 悠大」。正直いつも小西についている奴という認識でしかない。だが小西と比べたら悪い噂は聞かない。


でも一番が山田っていうのが気に食わないのだろう。実は今回のドッチボールのチームだが。



Aチーム

山田 山田の友達 陰の者達(俺を含む)


Bチーム

小西 松野 小西の取り巻き 



という分け方になっている、多分女子の前で山田を倒すっていうのが小西達の作戦だろう。同じAチームの俺にも被害が出なければ良いが…


「ゲームスタート!」


女子の合図でゲームが始まった。

先行はBチーム。小西がボールを投げ、それを難無く山田がキャッチする。

小西は舌打ちをしてたが、山田は構わず小西に投げる。

山田と小西のボールは豪速球で、その二人の戦いに後のメンバーはついていけなかった。


そんな二人の戦いが数分経過した時


「長引きそうだからボールを追加するね~♪」


「新田 杏里」がそう言うと、新しくボールをBチーム側に渡した。

新田はギャルで小西の彼女。こいつら十中八九グルだ。

じゃなかったら勝手にボールを追加して、それをBチームに渡したりしないだろう。

でも小西が怖くてみんな言いたいことを言えないようだった。


新しいボールを手に入れた松田と小西は、二人同時に山田にボールを投げる。

一つの球は避けることが出来たが、その後に放った小西のボールに当たってしまった。


「「しゃああああ!」」


山田にボールを当たったことでBチーム側が喜ぶ。

そして山田がいない今、俺らが勝つことは不可能になった。小西は山田とタイマンはれるくらい強く、松野もかなり運動ができる方だ。こっちにいる山田の取り巻きも俺よりも運動はできる方だが…


「う…みんなごめん…」


「いや…春樹任せにしてすまん」

「俺達も頑張るよ」

「外野から復活できるようにボール渡すよ」


ボールに当たった事を山田がこっちに謝る。


山田が謝る事は何一つ無い、よく頑張ってくれた思う。でも、汚い手を使う小西には少しムカついた。



それからというもの、山田を失ったAチームはただ逃げるしかなかった。誰も小西達のボールをキャッチできないから、当然反撃のチャンスもやってこない。

Aチームがボールに触れるのは誰かが球に当たった時ぐらいで、外野の山田にボールを渡すも復活出来なかった。


どんどん数が減っていくAチーム、もはや試合ではなく一方的な蹂躙になっていた。


今残っているのは内野と学級委員長。

学級委員長と内野は明らかに運動できなさそうだから残されたのだろう。もう応援していた女子の声援は聞えず、この場にいる全員がAチームの敗北を確信していた。



何回かボールを避けたが、そこで違和感を感じた。


いつもは身体が反応出来ず避けられないような球でも、今日は身体が思ったように動く。

動体視力が良くなっただとかでは無いが、いつものように見てから反応してからでも余裕で避けられる程度に身体が軽かった。

もしかすると…というか確実にステータスが上がったからだよな。


この時、普段の目立たないように行動しようとする俺なら絶対に考えないような事を考えた。


ここで俺がBチーム倒したらカッコよくないか?


日頃溜め込んでいた内野の妄想が遂に実現する時がきた。

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