第10話 討伐対象:スライム5
「あっ、向こう側に一人だけいるわよ!」
「光の大きさは俺達と比べてどう?」
「私達よりも少し大きいわ」
なら次に襲われるのはその人で、俺達はスライムに襲われる心配はないという事だ。
「良かった…なら僕らは安全ですね!」
「いや、まだ安心するのは早いです。
さっき工藤がスキルを使って光が小さくなったように、その人もスキルを使ってMPが減ってきたら…多分相手はこっちに来ます」
安心して座り込む進上だったが、まだ油断出来ない状況だと内野が警告する。
「でもそれって私達がスキルを使えば解決するのよね?いっそMPが0になるまでスキルを使ったりすれば大丈夫じゃない?」
「そうだね。『光が消える=MPが0になる』だとしたら、私達の光を見えないスライムは襲いに来ないって事になるね。でも…それは少しリスクが高い気がする。
もしも『光が消える=MPが0になる』じゃなくて、ただ光が小さくなるだけならMPを無駄にするだけになっちゃう。
それに鎧の人が「MPが少なくなるとステータスの恩恵を得られなくなる」って言ってたし危険だと思う」
そこに工藤が解決方法を言うが、新島はそれの不安になるところを言う。
確かに俺もそこは不安だが…一番不安なのはそこじゃないんだよな…
「内野君…どうしたの?」
「いや…確かにスキルを使ってMPを減らす作戦はいいと思う。だけど…俺のスキルが…」
渋い顔をする内野を疑問に思い、新島が内野の心配をする。
そう、一番の不安は自分のスキルの事だ。
何故か俺のスキルには消費MP量が書いておらず、更に名前からは効果が全く分からない。
何が起こるのか分からないスキルをここで使うのは危険な気がするし、もしかすると皆を危険な目に合わせてしまうかもしれない。
それに…何故だかこのスキルはむやみに使ってはいけない気がする。
クエスト前に恐怖に負けず冷静になれたのも、さっきから妙に頭が冴えるのも、このスキルの違和感も…全てがよく分からない。
でもそのお陰でスライムの行動の規則性も分かったわけだし、今は考えなくていいか。
取り敢えず内野はこのスキルの問題点を3人に説明してみると
「別にスキル使えばいいじゃない」
「そうですよ。それに今の内にスキルについて知っといた方が良いかもしれないですし」
「私達に危険が及ぶって言っても、少し離れた所で使ってみれば問題無いと思うよ」
思いの
「ほ、本当にいいの?もしかしたら相手に場所を知らせるようなスキルかもしれないんだよ?」
「そんな事考えなくていいのよ。それに私達よりも大きい光を持つ人がいる限りは、別にMPを減らす必要は無いんだし、それはその時考えましょ」
工藤はそんな能天気な事を言うが、残りの2人も同じ意見の様だった。
「もしも一発でMPが無くなるスキルだとしても僕が担いで逃げますよ!」
「うん…それに私も頑張って走るよ」
「皆…ありがとう!」
今日は滅茶苦茶なことに巻き込まれ散々な日だ…と思っていたが、この3人に会えたのはよかった。
辺りは暖かい雰囲気が広がり、とても命懸けの状況とは思えないぐらい心が落ち着いていった。
あれから20分経過した。その間に作戦を考え、どんな事態でも対応できる様にしておいた。
そして残りクエスト時間10分になった頃。
「あっ!消えちゃった!」
突然工藤がそう叫んだ。
大体何が起きたのかは分かる…俺達よりも大きかった光が消えたのだろう。
「周りに他の人はいる?」
「いや…私達だけ」
つまり次にスライムが襲いに来るのは俺達ということだ。
そして工藤はスライムの光は見えない様なので、今どこら辺にいるのかすらも分からない。
「…時間が無い。取り敢えずMPが0になったら光がどうなるか試そう」
「分かった」
新島がそう答えるとスキル名を連呼し、手からは大量の毒が噴出した。地面には大量の毒が溜まり、辺りの土の色がどんどん悪くなっていった。
そして毒が全く出なくなった新島を工藤が見る
「どう…?光は消えた?」
「ダメ…ほんの少し見えるわ…」
どうやらMPを使い切っても光は消えないようだ。
つまり死ぬ事以外で光を消すことは出来ないので、この4人の内の誰かがスライムに追いかけられる事になる。
「内野…ど、どうするの?」
「それよりも3人の中で光が一番大きいのは誰?」
「今は進上で、次に大きいのは内野」
「それじゃあ進上さん、僕の光よりも小さくなるように何回かスキルを使って下さい」
「分かった」
進上は俺達から離れ木の方を向いて立つと
「一閃!」
その言葉と共に腕を横に薙ぎ払う。
すると目の前の木が切れ、周りの木にぶつかりながら大きな音を出して倒れる。
何も持っていないはずの進上だったが、3人の目からはまるで剣を振ったかのように見えた。
「ど、どうかな?」
「大丈夫、今は内野の方の光が大きいわ」
進上がスキルを一回使い、光の大きさは内野>進上>工藤>新島になった。
「じゃあ皆。作戦通りに頼むよ」
「任せなさい!」
「うん!」
「皆…頑張ってね」
そして内野、工藤、進上はバラバラの方向へ走り出し、新島はそこへ残った。
これが俺達の考えた作戦だ。
3人でバラバラに走り出し、出来るだけ3人間の距離を作る様にする。
スライムは一番光が大きい者を追いかけるので、今回の場合は俺を追いかけに来るだろう。
スライムが近くまで来た瞬間にスキルを使いMPを使う事で、次は進上さんがターゲットになる。
それをまた進上さんがする事で、次は工藤がターゲットになる。
そして次に工藤がスキルを使った時には、真ん中に残った新島のMP量が多少回復しているので、最後は新島がターゲットになる。
こうして時間を稼ぐという作戦だ。
正直上手くいくかどうかは分からないけど、全員が生き残るのにはこの作戦に賭けるしかなかった。
それに、進上さん曰くスライムは俺達が全速力走っても逃げ切れるスピードではなかったらしいので、時間を稼ぐのにはこれしかない。
本当はMPが0になると光が無くなっていて欲しかった。
じゃなければこんな危険な賭けに出る必要なんてなかったから。
それに俺が一番最初にターゲットになったのにも理由がある。それは最初にターゲットになる人が一番危険だからだ。
皆には、スライムに追いかけられていてもMPが少なくなれば、相手のターゲットから外れる言った。だがこれには確証が無い。
もしも、スキルを使いMPが少なくなる事で相手のターゲットから外れるのならば、きっと他にも生存者がいる。
スライムに殺された人達もきっとスキルを使用して攻撃したはずだ。当然スキルを使用したのでMPが少なるし、それならその人は狙われなくなる。
だが実際はそうなってはいない。
もしかすると…スライムが近くにいる状態でMPの量が変わっても意味が無い、だとかいう性質があるのかもしれない。
俺はこの事を分かりながらも最初のターゲットに名乗り出た。そしてその事を後悔してはない。
これまで何も考えず生きてきた俺が、人の命を助ける事が出来る。
そう思うと自分の中に勇気が湧いてきた。
内野は前だけを見て森の中を全速力で走っている。自分がどれだけ引き付けられるかによって仲間の生死が関わるので、未だかつてないほど本気だ。途中で大きい虫などがいたりしたが、それらも全て無視して走り続けた。
3,4分程走っていると、背後から草が揺れる音がした気がした。
振り返って後ろを見てみると
もうスライムが目と鼻の先まで近づいて来ていた。
スライムは等速直線運動の様な動きをしており、木に当たってもスルスルと身体が抜け、一切スピードが落ちない。
気配も音も殆どせず、聞こえるのはスライムが当たった葉が擦れる音のみだった。
「ッ!?強欲!」
突然の事に内野は考える間もなく自分のスキル名を言う。
すると内野の全身から謎の真っ黒の物体が現れた。まるで闇を物体化したかのようなものはスライムの元へ向かっていく。
それと同時に内野とスライムに異変が起こった。
内野は全身から力が無くなり、ステータスの恩恵を得られる前のいつもの足の速さへ戻る。
スライムはいきなり方向を変え、内野から離れようとする。
闇はスライムへと付着すると、まるでスライムの巨体を包み込むかのように拡がる。
だがスライムはそれを分裂する事で逃れ、闇はスライムの身体の2割程を吞み込んだ。
闇から逃れた分裂したスライムは進上のいる方へ進んで消えていき、残ったのは闇の吞まれたスライムの身体のみだった。
な…なんだよこれ…一体何のスキルなんだ…?
難を逃れることが出来て安心する気持ちと、自分の良く分からないスキルを見て困惑する気持ちが重なる。
内野がその場で立ち止まっていると、今度は闇が内野の方を目掛けて飛んでくる。
急に向かってきた闇にビックリし、思わず腕で闇を振り払う。だが闇は内野の腕に触れると、そのまま腕の中に入っていく様に徐々に消えていった。
俺のこのスキル…一体何なんだ…
スライムを呑み込んだ闇が俺の中に入ってきたけど、それ大丈夫なのか?
まさか後で身体の中からスライムが出てきたりしないよな…?
特に身体に異常は無いが、スキルを使ってからは足の速さが元に戻った…という事はMPが0になったのか?
するとこのスキルは、俺の持っているMPを全部使ってしまうって事か。
すげー使いにくいスキル…本当に切り札としてしか使えないじゃん…
取り敢えず今の俺はステータスの恩恵を得られてない無防備な状態だ。クエストが終わるまで何処かに隠れていよう。
スライムを追い払った後、内野は近くにある木の傍に座り込み作戦が成功する事を祈りながら待機した。
そして数分後、内野の身体が青色に光りだした。
こ、これでクエストが終わるんだ!
お願い…どうか皆無事であってくれ!
こうして内野は、3人の無事を祈りながら青の光に包まれていった。
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