第9話 討伐対象:スライム4 

ギャルの兜を脱がすのを諦め、出来るだけ体力を使わないように座って休む。


「ところでギャルさん…貴女はどうして私達の場所が分かったの?」


「え、ギャルって私の事!?そんな言い方しないで!

…まぁ、これも何か縁だし自己紹介でもするわ。だからしっかり名前で呼んでちょうだい。

私の名前は工藤くどう 鈴音すずね15歳。好きな食べ物は寿司で、その中でも特に醬油をたっぷりと漬けたマグロが…」


「あの、一ついいですか?」


自己紹介する工藤の言葉を遮り、進上が話し掛ける。


「何よ、人の話は最後まで聞きなさいって!」


「いえ、もしよければ…この怪我を治してもらえますか?

もし次に魔物が襲ってきたら逃げられないと思うので」


「残念、別に私医学部志望じゃないからどうすればいいのか分からないの」


「い、いえ…スキルでお願いします」


「………あっ、そういう事!」


自分のスキルを完全に忘れていた工藤は、進上の言葉を理解するのに時間が掛かった。


今工藤が人の話は最後まで聞けって言ったが、たしか鎧の人の言葉を遮って突っかかってたよな。

ブーメラン刺さってるじゃん…


「そんな顔で見て…何よ、あたしの顔に何か付いてる?」


「え…あ、何でも無い」


「ならいいけど…あんた年上には敬語使いなさい。それが最低限のマナーってやつよ」


ええ…

さっきまで年上の二人にため口で話してたのにそれを言うのか…てか俺は何歳だと思われてんだ。

17歳だから俺の方が年上なんだけど。



工藤がヒールと唱えると、明るい黄色の光が進上の足を包む。

すると足の怪我がみるみるうちに治り、遂には完治した。


「す、凄い…もう普通に歩けるよ!ありがとうございます工藤さん!」


「そうよね!私凄いわよね!」


怪我を治してもらい、進上は年下である工藤に敬語で感謝する。そして褒められたことで工藤は気を良くする。


でもヒールのスキルは凄いな…どうりで鎧の人があんなに喜んだ訳だ。



進上の怪我が治ったので、次は3人で工藤の兜を引っ張ってみる。

が、兜は全く外れる気配が無かった。


「…取れないわね。被る時はすっぽりハマったのに…」


「3人で引っ張っても抜けないとなると、もう力任せじゃダメそうですね。でも後30分ぐらいでクエストが終わるようですし、家の石鹼とか洗剤使えばスルッと抜けるかもしれないので、家で頑張って下さい」


確かにそうだ。案外洗剤とかのヌルヌルを利用すれば抜けるかもしれない。

もう30分後には帰れるわけだし、それまではこのままで良いだろう。

って、え…何で時間わかるの!?


「何で時間が分かるんですか?」


「ん、この腕時計があるからだよ。クエストは20時に開始されて、今は23時30分前。時計のズレもあるだろうから多少の誤差はあると思うけどね」


「じゃあ後30分で帰れるのね!」


元の世界に帰れる、そう思い全員の表情が明るくなる。

自分を盾にしてと言っていた新島もホッとした表情をしており、それを見て内野は安心する。


あんな事言ってても…やっぱり死にたくないよな。

まだ毒を掛けられそうになったのは許してないけど、何だかこの人は危なっかしくて放っておけない。

下手するとまた誰かに毒を噴射するかもしれないからか…?


「そういえば…さっきも聞いたことなんだけど、何であなたは私達の場所が分かったの?」


内野が新島の事を考えていると、新島が工藤にそう質問する。



「ああ…実はこの兜を被ってると不思議な事に、サイズがバラバラの光が見えるの。それで人が何処にいるのか分かったのよ。

何か赤色の光と青色の光があって、赤色の光を追いかけたらでっかい虫がいてビックリしたわ。

そして悲鳴の聞こえた方向には青色の光があったから、多分青色の光が人間なんだと分かったわ。


だから取り敢えず青の光が大きい奴の場所へと向かってたんだけど、何故かその光が大きい奴から順番に消えていってたの。

そんで逆に小さい青の光がいるの所に来てみたら、あんたらに出会えたってわけ」


「その光で人の場所が分かるって事ですか?」


「そうそう、今も3個…あっ、私含めて4個の青色の光が見えてるわよ。

でも光の大きさが急に変わったりするのは何なのかしら?現に私がスキル使ってからは私のから出てる光が小さくなった気がするし」


光が大きいやつから消えていく?

なんか引っかかる…

もしかして…進上さんがスライムに無視されたのも、何か繋がりがあるんじゃ…


「ねえ…青色の光が人間なのは確かなの?」


「さっきも言ったけど敬語を使いなさい。私は高校生よ」


「俺も高校生だって!」


「え!?」


「いや、今はこんな事を言ってる場合じゃないかもしれない。

仮に青色の光が人間から出ているものなら、青の光が消えたっていうのは…何処かで人が死んだって事なんじゃない?」


「いや…大きい青の光から順に消えた時、赤色の光なんて一切見えなかったわよ」



もしも『光が消える=死亡』だとすると、光が大きい者から死んだという事になる。だが工藤の言う限り、光が消えた時は周りに敵がいなかったという。


この謎を解くのは…多分光の大小は何が関わっているのかだ。そしてこれも工藤の発言から予想できる。しかもこれが俺達四人が残っている理由にも繋がるな。


「じゃあ光の大小が何なのかだけど、俺の予想だと、多分MPの量が光の大小に関係してるんだと思う」


「…あっ。

そうか…これなら私達が残っているのも説明が付くね」


「え?どういう事?」

「僕達が残っている理由?運が良かっただけじゃ…」


新島は内野の考えが分かったが、工藤と進上は理解できていない様だった。


「いや、今回初クエストの俺達が生き残ったのは理由があるんだ。

それは光が大きい人…つまり俺達よりもMPがあって強い人が優先的に狙われているからだと思う。

相手も工藤の様に光が見えて、大きな光を優先して攻撃してる…これなら進上さんがスライムに見逃されたのも合点がいくでしょ?」


「あれ、でもそれならスライムの光が見えないのはおかしくない?スライムが人を襲っているのなら見えるんじゃないかな?」


「進上さんの「探知の範囲の内側から急に現れた」発言から察するに、多分探知スキルを使っても、相手が近づいて来ないと分からなかった訳だよね。なら工藤が遠くにいるスライムの光を見えないのは納得できるよ」


「ああそっか」


新島の疑問に内野が丁寧に答える。


「そうか!僕らは弱かったから狙われなかったのか!」


「あんた最初の広間ではあんなにオドオドしてたのに、結構いいとこあるじゃない!」


「内野君凄いね…」


「あ、ありがとう//」


全員に褒められ、褒められ慣れていない内野は顔を少し赤くして照れる。


こんなに知らない人から褒められるのは初めてだし…やっぱり嬉しいな。

ってまだ浮かれてる場合じゃない、まだやるべき事がある。


「そうと分かれば、他に俺達よりも光が大きい生存者がいる限り俺達は襲われないわけだ。

だから確認してみてくれない?」


「分かったわ。でも光を見れる範囲には限りがあると思うから、そこだけ注意してね」


そう言うと工藤は周りをキョロキョロ見回し始めた。

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