第4話 不幸

騒いでいる人の中には、泣き出してしまっている者、絶望の表情を浮かべている者、俺達と同じ様に困惑する者などがいた。

人それぞれ反応は違っていたが、良くないことが起きたって事は内野達にも理解できた。


「み、皆どうしたんだ!?」


「リーダー!大変です!今回のクエストを見て下さい!」


鎧の男に向かい、人込みの中から一人の女性が走ってくる。

迷彩服を着ており、大きな弓を装備している眼鏡をかけた女性。


迷彩服に弓って…違和感しか感じないな…

てか、俺達に色々説明してくれていたあの鎧の人ってリーダーだったのか。


「今回の魔物は一体…」


「と、とにかくクエストボードの方に来て下さい!」


「あ、ああ」


そう言うと二人は足早に人混みの奥に向かっていった。

4人は取り残されてしまい、どうすればいいのか分からなくて立ち尽くす。


…で、俺らはどうすれば良いんだ?

一応ステータスがどうこうだとかの話は分かったが、それ以降何が起きたのかサッパリ分からん。


「あのー、取り敢えず僕らもついて行って見ませんか?」


そこでスーツの男が三人に向いそう提案する。


「そ、そうしましょうか」

「そうね。何があったのか気になるし行ってみましょ」

「…」


内野とギャルはそれに同意し、ボサボサ髪の人は小さく頷く。

取り敢えず四人で鎧の人を追いかけ、人混みの奥へと向かっていった。





人混みを抜けた先には巨大なドラゴンの様な生き物の石像があった。

ドラゴンの石像と言っても首と頭しか無いが、頭だけで普通の一軒家に匹敵するくらい大きい。誰しも一番最初に目が入るぐらいこの広間で一番存在感を放っている。


そしてドラゴンの石像の下には、何やらステータスの時に出てきた画面にそっくりなものが現れていた。

ステータスとは違い全員にも見えているようで、内野もそれを覗き込んでみるとこんな事が書いてあった。

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討伐対象:スライムlv,40

制限時間:4時間


プレイヤー人数:148人

プレイヤー平均レベル:22

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これがさっき言っていたクエストってやつか。

討伐対象にスライムって書いてあるが強いのか?

まだよく分かってはいないが、lvって多分レベルって事だと思う。レベル40って…あ、もしかして…皆が騒いでるのってこれのせいなのか?


内野が鎧の男に近づき聞いてみようとした瞬間


「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「うおっ!」


鎧の男は膝から崩れ落ち、叫びながら地面を何回も殴りだす。


き、急な事にビビって思わず「うおっ!」とか変な声が出てしまった。人前で恥ずかしい…


いや、そんな恥ずかしい事とか今はどうでもいい。

それよりも…この反応はマズイ気がする…

スライムがやばい敵なのか、もしくはレベル40が高いのか…

じゃなきゃこんなに取り乱したりしないだろう


内野はどうすれば良いのか分からず、ただその場で立ち尽くす事しか出来なかった。

他の3人もこの状況でどうすればいいのか分からず、ただ鎧の男を見つめる。


すると、迷彩服の人が鎧の男の隣に座り、叫びながら地面を殴っている鎧の男の肩を抑え


「メンタルヒール」


そう呟いた。

すると緑色の光が鎧の人の体を包み、鎧の男は徐々に落ち着き取り戻していった。


もしかして…あれがスキルってなのか。

さっきまであんなに動揺していた鎧の人が…今では平常心に戻ってる。スキルってすげぇ…

 

「済まない。僕が…リーダーが取り乱しちゃったら駄目だよね…もう大丈夫」


鎧の男はゆっくりと立ち上がりながらそう言うと、クエストの内容が書かれている文字の前に立つ。


「みんな!聞いてくれ!」


鎧の男がそう叫ぶと広間に居た全員が彼の方を向く。


「…今回のクエストの相手はスライムだ。一ヶ月前の惨劇を知っている者ならスライムの凶悪さは分かるだろう。

物理攻撃は効かず、相手の攻撃を防御する手段も避ける事しか無い。一ヶ月前のクエストは僕らの先輩達も沢山おり、相手のレベルは25だった。

それにもかかわらず80名以上もの死者が出てしまった。

そして今回の相手のレベルは40。

まともに戦おうとしたら、恐らくここにいる半数以上が死ぬだろう」


鎧の男の言葉で、全員がこの状況が絶望的だという事が理解できた。


えっ、待て待て待て。

俺今日が初日だぞ!?この人達がいつから魔物と戦っているのか分からんが、そんな人たちでも沢山死んでいるのなら…俺はどうなるんだ…!?


内野は周りにいる人達の顔を見るが、全員が絶望の表情を浮かべている。

それを見て更に不安が高まり、内野の心拍数が更に上がる。


ヤバい、胸が痛くなってきた…まだ魔物なんて見たこと無いけど、この話が噓だとは全く思えない。

それは広場にいる人の表情を見ればわかる、あの絶望を目の当たりにしたかの様な表情、演技で出せる者とは到底思えない…


「ちょっと!80人も死んだなんて、あんた何言ってんのよ!」

「そ、そうですよ!急にこんな所に連れて来られてそんな事言われても…」


ギャルとスーツの男が大声を上げ、全員の視線が二人に向く。


「まだこっちは状況すら理解できてないのよ!それなのにここにいる半数以上が死ぬかもしれないだなんて言われて理解できるわけないでしょ!」


「あ…多分今日来た新規プレイヤーだ」

「こんな時に来るなんて…」

「可哀想に…」


周りからヒソヒソとそんな声が聞こえてくる。

ギャルの問いかけに鎧の人は


「済まない、だがこればかりはどうにもならないんだ。本当に申し訳無い…」


消え入る声で鎧の人が謝る。

別にこの人のせいでこうなっている訳じゃないし、これは仕方ない事なのだろう。

で、でも…きっと何か策があるのだろう。

だってさっき鎧の人は「まともに戦おうとしたら」と言ったし、戦わないという選択もきっとある。


「くっ…少しでも多くの人が生き残るには…これが最善か…

みんな!20QPを持っている人はショップで『帰還石』を買ってくれ!」


鎧の男は苦渋の決断を下すかのように呟き、その後皆に聞こえるように大きい声でそう言う。


QPってステータスの所にあった値か。

それにショップといえば、さっきのステータス画面でそんなの書いてあったな。あれの事か?


「ステータス」「ステータス」「ステータス」


そう考えていた矢先、周りの皆が一斉にステータスと呟き始めた。そして何かをタップする様な動きをする。


あっもしかしてステータス画面にあった【ショップ】って所を触ってるのか?


取り敢えず内野も皆と同じ様に「ステータス」と呟き、【ショップ】の項目に触れてみる。

すると案の定色々なアイテムの名前が並んでいる画面が出て来た。

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所持QP10

<ショップ>       QP

 スキルガチャ      50

 パッシブスキルガチャ  50

 蘇生石         50         

 帰還石         20

 装備限定ガチャ     20

 アイテム限定ガチャ   20

 魔力水MP50       10

 ポーションシリーズ   10

 ランダムガチャ     5

 10万円        1

 運向上         10

              [2ページ目]

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どうやらQPというので色んなアイテムが買えるらしい。下の方に1QPで10万円とあるので、20QPの帰還石には200万の価値があるという事か。


帰還石という所をタップしてみるとこの様な画面が現れる。

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 帰還石  必要QP20

『ロビーもしくはクエストの最中に砕くと、石の所有者はクエストを棄権できる』

 購入しますか YES/NO

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そうか!今回のクエストは危険だからみんなでリタイアしようとしてるのか。

QPっていうのがどれだけ貴重なのかは分からんが命には変えられない、あの人の言う通りこれを買おう。


クエストというのをリタイア出来ると知り、内野はほっと一息ついてYESを押した。


『QPが不足しております』


するとこんな画面が現れ、アイテム名が並ぶ画面に戻ってしまった。



内野はようやく事の重大さに気が付いた。

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