『幼馴染を愛(め)で隊』の隊長になったら、俺の幼馴染本人が入隊してきてしまった。しかし俺は死んでいる
南川 佐久
第1話 『幼馴染を愛で隊』を発足させたら、俺の幼馴染本人が入隊してきたんだが?
――幼馴染。
それは、古今東西、誰もが羨み、憧れ――
一方で、萌え、悶え、苦しみ、思い悩む存在……
両想いになりそうでなれない。
どうしたらいいか。
告白するか? でも、失敗したら今の関係すら壊すことになりかねない。
そもそも、仲がいいというのも自分の夢見がちな幻想――思い込みで、振り向いてすらもらえないかも?
でも。ああ、どうしようもなく……
『
そう、真っ白になっていく頭の中で呟く。
耳の奥に、けたたましく響く急ブレーキ、サイレンの音。人々のどよめき。
全てが俺から遠ざかっていって、りん、と鈴のような声音が問いかけてきた。
『さぁ、待ちに待った異世界転生よ。もちろん、転移でも可。チート能力でもなんでも、好きな願いを叶えてあげる。地位も名誉も、金も女も好きなだけ。TSして悪役令嬢にだってなれちゃうわ』
(え。誰?)
よくわからないが、とにかく偉そうな女神的な存在だということらしい。
『その願いが大きければ大きいほど、叶ったときに、私の養分――おおっと、女神パワーも強くなるの。うふふっ。さぁ教えて。あなたの願いは?』
女神の問いに、俺は答えた。
『異世界転生……別に俺は、魔王なんて倒したくないし、成り上がりたくもないよ』
『……ふぅん。変な子』
でも、ひとつだけ。
思い残したことがあるとすれば……
『俺は、絵里香が好きだ……』
幼馴染の絵里香のことが、十余年以上ずっと好きだった。
でも、最期まで言えなかった。
だから……
『俺は、すべての世界の、幼馴染を好きな人の気持ちが報われて欲しい。世界なんて救いたくない。俺はただ、俺のできなかった分まで――幼馴染のことが好きな人を、救いたいんだ』
『正真正銘、一生に一度の願いよ――いいの?』
『ああ』
『わかったわ。じゃあ、お仕事決定ね♪ これからあなたを、【幼馴染を愛でる会】――通称、【幼馴染を愛で隊】の隊長に任命します。あらゆる世界、過去未来の幼馴染たちを、思う存分好きなだけ。救ってちょうだいな~』
にひひ、と笑うその声に、俺は瞼の奥深くで頷いた……
◇
――それが、つい数か月前の出来事。
とはいえ、自称女神の用意したこの空間には、およそ時の流れというものがあるのかすら疑わしいので、あくまでそれは俺個人の体感だ。
深紅のクッションが柔らかい椅子に腰かける俺の前には、巨大な円卓。
転々と置かれた椅子に、恰好も年齢もバラバラな数名の男女が腰かけている。
――そう。ここにいるのは皆、幼馴染を愛してやまない同志諸君。
『幼馴染を
今わの際の俺の願いを叶えた女神が作りだした、時間と空間、その他諸々を超越した謎空間。この部屋で、俺は隊長としての仕事に励んでいる。
仕事というからには、何かしらの報酬が与えられて然るべきと思わなくもないが、最愛の幼馴染とはもう死別しているし、今俺がこうしていることで、死に際の夢も叶っているからあまり気にしてはいない。
円卓中央と、壁にかけられたロウソクの灯りを頼りに、千夜一夜の物語大会でも開こうかという雰囲気のなか、とある銀甲冑の紳士が神妙な面持ちで呟く。
「今日も、幼馴染のルーナが可愛すぎて、執務中に議事録を鼻血で汚してしまいました……」
「おお、それはなんとも……」
「あるある。割とある」
「仕方なかったんです! 可愛すぎたんです! 聖女騎士団の詰所の近くをたまたま通りかかったようで、目が合うと『あ。お疲れ様ぁ』のような瞳でこちらに手を振り、その際に風でスカートが――あああああっ!」
そう言って、金髪の騎士団長、クラウスさんは再び机上の鼻血だまりに顔を伏した。
「わかる。わかるよその気持ち……私は、授業中の
と頷く、黒髪美少女JKの咲愛也ちゃん。
「私は、彼の写真が写ったスマホを……」
「俺はパンツを……」
口々に、幼馴染への愛をぶちまける面々。
流れが怪しくなってきたところで、端正な顔立ちをした銀髪の少年、
「うるさいなぁ、変態自慢ならよそでやれって。ここはあくまで相談の場。惚気や愚痴のための場じゃない。こちとら遊びできてるんじゃないんだよぉ! 大体さぁ、幼馴染がこの世で一番可愛いことなんて、いまさら言われなくとも、この場にいる奴らは全員わかってるっての!」
最近、魔法少女である幼馴染とうまくいっていないせいか、苛立ちを隠しきれない泉を、俺は制止した。
「まぁまぁ、そんなに声を荒げなくたっていいだろ。皆、幼馴染が好きすぎてどうしようもないだけなんだから」
「そうだ、そうだぁ! 泉くんのケチぃ!」
「咲愛也ちゃんも、惚気は控えめにね。うまくいってない子が妬くから」
「うまくいってないって何だ! うまくいってないって!」
「事実ではありませんか」
何事もなかったかのように鼻血を拭き終えたクラウスさんの冷静さが、かえって泉の傷口を抉る。
泉はぐうの音も出ないといった感じに押し黙り、不貞腐れて机に頬杖をついた。
こんな風にして、俺たち『幼馴染を
そう。ここには、俺の出身である2020年の日本をはじめとする、あらゆる異世界、あらゆる日本の
例えばだけど、クラウスさんは剣と魔法の世界の住人で、聖女様につかえる騎士団長を務めている。
咲愛也ちゃんは、俺と比較的似通った環境で暮らす現役美少女JK。
片や泉は、幼馴染の魔法少女とコンビを組むマスコットの男子高校生なんだとか。人間なのにマスコットってどゆこと? とは思ったが、そこは重要じゃない。
規約違反とかではないが、必要以上に本人や幼馴染の個人情報につっこまないのが、ここでの暗黙の了解となっている。
幼馴染との関係に困っている――この空間では、それが全てだ。
彼らは皆、この場で行われた会議のことは、『夢で見た』ように記憶に残るそうで、それが時間と空間を超えて『幼馴染愛で隊』が存在することを可能にしているんだとか。
改めて見渡すと、クラウスさんも泉も咲愛也ちゃんも。メンバーは結構美男美少女が多い。
でも、そんなイケメン・美少女でも悩むくらいに難しく、うまくいかないのが幼馴染って関係なんだよ。
(だよなぁ……うまくいかないもんだよなぁ)
困ったようにため息を吐くと、咲愛也ちゃんは両頬を手で包み込んで、うっとりとしたため息を吐いた。
「もう……監禁しちゃいたいくらい好きだよぉ……」
「あはっ♪ キタよ、ヤンデレだw」
「まぁまぁ、イズミくん。そういうのはナシですよ。誰も彼も、心病んでいなければ、このような会に集ったりはしないでしょう?」
楽しそうに口笛を吹く泉をいさめるクラウスさんも、そう言うからにはどこか病んでいるのだろう。
「幼馴染とは、ときとして愛ゆえに、そういうものです」
「そうだぞ、泉。ここはそういう、みんなの幼馴染に対する想いや問題を解決しようっていう場なんだから、言いっこなしだ。おちょくるのも大概に。ごめんね、咲愛也ちゃん。一言報告会のあと――今日は咲愛也ちゃんの進捗報告がメインだったよね? 続けて」
穏やかに、慣れた口調で進行していく俺の姿を、円卓の向かいに腰かけるJK……に擬態した女神――サキュバツィアーノ=キューピッド=キューティ(略してキューティ)が、にまにましながら、時に冷やかし、野次を飛ばして見守っている。
「でねぇ、幼馴染のみっちゃんが今日も学校でカッコよくて、しつこいナンパから助けてくれて……」
「うむうむ、騎士道精神に則った素晴らしい幼馴染です」
「そうなのぉ! もぉカッコイイのぉおおお……! おうちに囲って閉じ込めてひとりじめしたいよぉおおお! なんで学校とか行くのぉぉお!?」
あああ!と頭を抱えて萌え悶え苦しむ咲愛也ちゃん。そうこうしているうちに、会議はいつものごとく幼馴染自慢大会へと成り果てて、大体うまくまとまらない。
しかし、今日はある変化があった。
トントン、と会議室の扉を叩く音がする。
新人さんが来る合図だ。
俺は椅子から立ち上がり、扉に向かって指パッチンをする。すると扉は魔法のように、ひとりでに鍵が開いた。
「あのぅ……」
そこにいたのは、さらりとした色素の薄い髪に、愛らしい上目遣いの女子高生だった。
「幼馴染を愛するものなら大歓迎! どうぞ席について!」
ほぼ反射的にお決まりの台詞を口にした俺は、その少女を見てぎょっとする。
(……絵里香じゃん)
俺の、幼馴染だ。
その瞬間。今度はキューティが指パッチンを鳴らし、俺の顔には
瞬間。その場にいる全員が理解する。
この空間では、自分の幼馴染に、幼馴染バレするはNGらしいって。
※現在、カクヨム『お仕事コンテスト』応募中です! 中編なので全12話程度で、さくっとお届けしたいと思っています。
よろしければ、感想を、作品ページのレビュー、+ボタンの★で教えていただけると嬉しいです!
★ ふつー、イマイチ
★★ まぁまぁ
★★★ おもしろかった、続きが気になる など。
今後の作品作りのため、何卒、よろしくお願いいたします!
※ラブコメスキーな方は、最近完結したこちらも併せてよろしくお願いします! ↓
『アイスクリーム屋でバイトはじめたら、好きでもないクラスメイトにくそモテる』
https://kakuyomu.jp/works/16817139555722004943
※蛇足オブ蛇足ですが、登場人物のクラウス、泉、咲愛也ちゃんは三人とも自作からの友情出演です。
クラウス→『チートなしで〜ヒモ宰相』
泉→『あなたの闇堕ちお手伝いします』『魔法少女と亀の俺』
咲愛也→『美人双子に愛されすぎて監禁(本編後、EP1以降)』
ご興味あればどうぞ!
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