第17話 近くにあったゴミ箱を蹴散らす不良

〜涼風理央視点〜

 月日は遡り、春休みのある日…


「お願いします!どうしてもお金が欲しいんです!何でもしますから働かせてください!」


 そう言って居酒屋の店長に頭を下げる。これで頭を下げるのは何度目だろう…。


「うーん、働かせてあげたいけど、君、高校生でしょ?ここは高校生のアルバイトは禁止にしてるから」


 このセリフも何度も聞いた。


「どーしてもお金が欲しいんです!お願いします!」


 再度頭を下げるも、良い返事は貰えなかった。


「はぁ、またかぁ」


 ため息の回数も増えていく。


 私はつい最近この地域に引っ越してきた。ここには母方の実家があり、何度か来たことがある。小学生6年生のある日、私を助けてくれた男の子もこの地域に住んでいると思う。いつか会えるといいなぁと思ってはいるが、今はバイト先を探すのが優先。


 引っ越してきたばかりということもあり、なかなかバイト先が見つからない。学生なのでバイトする時間は夜の方がありがたい。しかも出来るだけ時給が高いところでバイトを…ってなるとやはり自給が高くなる深夜帯でも働ける場所となる。そうなると、数は限られてくる。


 現在はバイト募集の居酒屋全てにお願いをしている状況だが、運が悪いことに、募集している居酒屋は高校生不可となっている場所ばかりだ。


 そのため、直談判しているのだが…。


(やっぱり、チェーン店のファミレスしかないのかなぁ)


 そんなことを考えてると…


「ねぇ、そこのお嬢ちゃん」


 と、ガラの悪そうな人達に後ろから声をかけられる。


「な、なんですか?今、急いでいるので…」


 そう言ってその人達から距離を取ろうとするが…


「ちょっと待てよ!」


 男の一人から手を掴まれる。


「は、離してください!」


 振り解こうとすると、すんなり離してくれる。


「悪い悪い。別に危害を加えようってわけじゃねぇんだ。ただ、俺たちと遊んでくれるだけでいいんだ」


「嫌です!」


 と、すぐに返答し、その場から逃げようとするが…


「まぁ待てよ」


 と、再度腕を掴まれる。


「やめてください!」


 と大声で叫ぶ。しかし、今回はすぐに掴むのをやめずに


「ねぇ、お嬢ちゃん。お金が欲しいんだよね。俺たちと一日遊んでくれたら5万やるよ」


 そう薄気味悪い笑みを浮かべながら話してくる。恐怖で足が動かなくなり、叫ぶことしかできなくなった。


「嫌です!離してください!」


 そう叫ぶが離す様子はない。


(怖い、怖いよぉ……誰か助けて……)


 このままどこかに連れ去られてしまうんだろう。そう思うと涙が出そうになる。そう思った時…


「ねぇ、その女の子嫌がってるけど」


 と、前方から声が聞こえた。顔を上げると、髪の毛をヘアゴムで結んでいるイケメンがいた。こんな状況にも関わらず、そのイケメンの顔をマジマジと見てしまう。


(って、今見惚れてる場合じゃないでしょ!

声をかけてくれたのはありがたいけど…)


 そう思って不良達を見てみると全員、イケメンくんに注目している。しかも今にも殴りにいきそうな不良もいる。


(まずい!このままではイケメンくんに危害が加えられそう!)


 そう思ってイケメンくんに逃げてもらうように考えていると…


(あれ?この人、どこかで会ったことがあるような…しかも、この目つきの鋭さ…あ!この人もしかして、昔、私を助けてくれた人だ!よく見るとあの時の男の子の面影を感じる。特に目つきが特徴的だったからなぁ)


 今では目つきの悪さがイケメン度を上げている。こんな状況にも関わらず、そんなことを考えてしまう。すると


「お前には関係ねぇだろうが!」


 と言いつつ近くにあったゴミ箱を蹴散らす不良。


(ヤバい!こんな状況だけど、再会できてすごく嬉しい!確か名前は…そう!凛くん!そんな名前だった!)


「いや、見るからに嫌がってるじゃないですか?」


 凛くんはそんなことを言いながら私の方を見る。見られたことにより、顔が赤くなると同時に頷いてしまう。


(ってそんな場合じゃないでしょ!何頷いてるのよ私!たしかにホント、嫌だったから頷いてしまったけど、このままじゃ凛くんが…)


 そう考えていたが…


「はぁ、少しは痛い目を見ないと気がすまねぇみたいだな!」


 そう言いながら不良の一人が凛くんに殴りかかる。凛くんが殴られる瞬間、咄嗟に目を閉じてしまう。すると…


「グハッ」


 と言いながら不良のほうが動かなくなる。


「これは正当防衛だよな?」


 凛くんが睨みながら言う。


(え、え!待って、何があったの!?)


 と、困惑しているうちに、数分後には5人の不良が地面に倒れていた。


 これが私を以前助けてくれた男の子との再会だった。

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