第12話 ちなみにお兄に拒否権はないから!

前回のあらすじっ!

 家に帰ったら舞に玄関で正座させられました。怖いです。以上っ!




 俺、汐留凛はコンプリートしなければならないミッションに今、取り組んでいる。それは舞に“何で怒っているのかわからないことを隠すこと”だ。今も鬼の形相で俺を見下している舞に対してだ。下手なことは言えないので難易度は最高。mission impossible(極めて危険で難しい任務)開始だ!


「ねぇ、お兄」


「はい」


「涼風さんと同じクラスなの?」


「はい」


「お兄の明日の弁当は涼風さんが作るんだよね?」


「はい」


「涼風さんって綺麗だね」


「はい」


「お兄って胸は大きいほうが好きだよね?」


「はい…って!そんなことな……」


「死ね」


「………………………はい」


 どうやら死刑を宣告されたようだ。せめて骨は拾ってもらおう。


じゃなくて!


(おい!これはホントに何か言わないとヤバいぞ!)


 と頭をフル回転させてると……


「ちなみにお兄は何で私が怒ってるかわかってる?」


「………………………はい」


「ふーん、じゃあ、答えて」


「…………………………………」


「死ね」


「………………………はい」


 はい、mission終了のお知らせ。


(俺、「はい」しか言ってないんだけどなぁ……。どうやら俺は舞に勝つことができないらしい…)


 って、そんなことより!今の状況の舞に何を言うのが正解かわからないが、何も言わないよりかはいいはず!とりあえず、一つ一つ反論していこう!


「い、いや、確かに明日は涼風さんが弁当作るけど、舞の弁当が嫌ってわけじゃないよ!いつも美味しく作ってくれて……えーっと………そう!舞からの愛情を感じる弁当で午後からも頑張るぞーってやる気が出る!」


「………………」


「た、確かに涼風さんは綺麗だけど、俺は舞も綺麗で可愛いと思ってるよ!」


「………………」


(ヤ、ヤバい!何か言おうって思ったら舞を褒める言葉しか出なかった!こんな陰キャのお兄ちゃんに言われても嬉しくないだろう。その証拠にずっと黙って目を合わせてくれないし、顔も真っ赤になってる。これは怒り爆発の前兆だな。あれ?今までの思い出が脳内で流れてくる。あぁ、これが走馬灯ってやつか…)


 凛はそんなことを考えており、対する舞は…


(えっ、えっ!お、お兄ちゃんが私のことそんなふうに思ってくれてたなんて!嬉しんだけど!ヤ、ヤバい!嬉しすぎてお兄ちゃんの顔が見れない!)


 と、しばらく玄関が無言となったとかならなかったとか………。




〜舞視点〜

(落ち着け、私!どうせ私の機嫌を良くしようと考えて言っただけ!本心じゃない!だいたい、お兄ちゃんが嘘ついてるか、ついてないかは顔や反応、言葉遣いでわかる!14年もお兄ちゃんの妹なんだ。それくらいわかるはず!)


 そう思い、先程凛が言った言葉を脳内でリピートする。“ボッ”っていう効果音が聞こえてくるくらいの勢いで再び顔を真っ赤にする。


(くそぅ、お兄ちゃんのくせに、カッコいいこと言い出して……。しかも、私の勘だと、あの言葉は全て本心。ヤバい!嬉しすぎてニヤニヤが止まらないんだけど!私の表情筋、頑張ってよ!じゃなきゃお兄ちゃんに変な子だと思われてしまう!)


 そう思い、大きく深呼吸をする。


(よしっ!)


「ま、まぁ、そこまで言うなら許してあげるよ。弁当も明日だけは譲ってあげる」


 その言葉にお兄ちゃんが驚愕する。いや、驚きすぎなんだけど!


「よかったぁ………」


 ものすごくホッとされる。お兄ちゃんは私に何されると思ってたんだろう。ここまで露骨に安心されると少しは罰を与えた方がよかったかな?って思えてしまう……。


 ので!


「ただし!私のお願いを聞くこと!ちなみにお兄に拒否権はないから!」


 そう言うとお兄ちゃんが「うっ、何されるんだろう。今からフルマラソンしてこいとかかな………」とか言ってる。私が鬼にでも見えてるのかな?まぁ、お兄ちゃんのことだからそんなことだろうとは思うけど……。


「きょ、今日は私と一緒に寝ること!」


(顔が赤くなってる自覚はあるけど今日ばかりは引けない!涼風さんに負けないように、私を意識させなきゃ!)


 でも、私が勇気出して言ってるのにお兄ちゃんは「ま、舞は俺をぐっすり寝させないようにするのか!背後に気をつけながら寝るとか無理だぞ!」とか言ってる。


 なんかバカなことを言ってるがスルーする。お兄ちゃんに拒否権はないから。


「あ、そーいえばお兄、胸は大きい方が好きって質問の弁解聞いてないんだけど………」


「………………………俺は大きい胸が好きとかそんなことないから……」


 目が泳ぎまくっており、声もだんだん小さくなってる。はい、有罪。


「死ね」


「…………………はい」


(どうやら私は急ピッチで胸を大きくする必要があるらしい。牛乳の量を増やそうかなぁ……)


 そう思いながら凛を蹴り続ける舞であった。

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