Chapter2 日和見主義の殺人鬼

Chapter 2-1

 路地裏の狭い道を身体を引きずるように歩く人影があった。

 黄泉よみだ。胸の傷を押さえて歩くその息は既に絶え絶えだ。


 京太きょうたに心臓を貫かれた彼だが、かろうじて生き延びていた。

 しかしこのままでは虫の息も甚だしい。早急に回復が必要だった。


 壁に背を預け、その場に腰を下ろす。視界がぼやけ、焦点が合わなくなっていく。

 さすがにここまでか。さしもの彼も死を覚悟した、そのときだ。


 キン……キン……と金属音が鳴り、誰かがこちらへやってくる。

 ゆっくりと歩み寄ってきたのは、一人の少年だった。その姿はどことなく黄泉に似ていた。


 かすむ視界に映った少年の姿を認め、黄泉は口を開く。


「双刃か……。ちょうど、いい……ところに」

「はははっ、ずいぶんこっぴどくやられてんじゃねぇの、兄貴」

「いいから、肩を……貸せ……」

「はいはい、っと」


 黄泉の前にしゃがみ込んだ少年を前に、黄泉の目が驚愕きょうがくに見開かれた。

 胸に衝撃。

 視線を落とせばそこにはナイフが一本、突き刺さっていた。


「おつかれさまでした、っとぉ」


 少年はナイフを抜き取る。

 舞い散る血しぶきのなか、数珠じゅずつなぎの火の玉が次々と黄泉の身体から溢れ出していく。


 それを掴み、少年はすべて呑み込んでいく。

 火の玉を呑み込み終えると、少年は表情を歪める。


「まっず。なんだよ、こんな悪食で『扇空寺せんくうじ』の相手になんざなるわけねぇだろ!」


 少年は立ち上がり、もう動かなくなった黄泉の身体を蹴り飛ばす。


「あんたじゃあいつにゃ勝てねぇよ。ま、あとは俺に任せてぇ、大人しく寝ときな! あひゃひゃひゃは!!」


 そして、少年は再び夜の街のなかへと消えていった。

 残された黄泉の身体は、闇に溶けてなくなっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る