Chapter 6-3
「いや。彼女の場合は少し違うな。聖剣の勇者と言うのは少々特異な存在だ。まあ、お前もお前で特異ではあるが……。勇者と呼ばれる存在は、輪廻と言う概念から完全に切り離されているんだ。聖剣に選ばれた勇者は、未来永劫、世界の守護者として魂を隷属される。そして勇者の資格は血統を巡り受け継がれていく。お前に分かりやすく言い換えれば、だ」
サツキは一旦言葉を切り、コーヒーを口にする。
「天海結花という存在は、勇者ララファエル・オルグラッドの子孫であり、その生まれ変わりだと言う事だ」
「生まれ、変わり……」
「最もそう定義するのなら、ララファエル・オルグラッドの子孫全てが彼女の生まれ変わりと言えるがな。天海結花は今代の勇者として選ばれた時点で、その存在はララファエル・オルグラッドと同義になった。彼女が天海結花でいられるのか、それともララファエル・オルグラッドであるのかどうかは、彼女の自意識次第、だがな。お前は見た筈だ。天海結花でありながら、ララファエル・オルグラッドであった勇者の姿を」
竜成の脳裏に浮かんだのは、辰真の介錯を任せた少女の姿であった。
「それよりも問題はお前自身だ。今のお前は、宮木竜成でもあり、カヴォロスでもあるという状態で安定してしまった、酷く不安定な存在だ。先程、私は輪廻と言ったが、カヴォロスは確かに勇者によって倒された筈だな? なら、その魂はどうなったと思う?」
「……まさか」
「そのまさかだ。宮木竜成はカヴォロスの生まれ変わりであり、そしてカヴォロスもまた、宮木竜成の生まれ変わりだ」
竜成は言葉を失ったが、しかし同時に、やはりという確信めいた思いも生まれた。竜成で在りながらカヴォロスで在る――カヴォロスで在りながら竜成で在る。その理由が、サツキの言葉ですんなりと納得できたのだ。
「……そして俺は、またカヴォロスとしても死んだ……。ここは所謂、あの世という事か」
いや、とサツキは頭を振った。
「この世界を、私はこう呼んでいる。輪廻の境界、とな」
「何が言いたい?」
「お前は今、生きているとも死んでいるとも言えない微妙な状態だ。宮木竜成は、瀕死よりも更に重く、しかしまだ死んではいない。カヴォロスもまた、瀕死より死に近付いているが、死んだ訳ではない」
「要は、生死の境にあるという事か」
「それだけなら普通の人間にもよくある事だがな。だが、お前は少々事情が違う。今のお前は、二つの存在が同居した、奇妙な状態にある。通常の輪廻転生の環から別たれてしまったお前は、宮木竜成か、カヴォロスか。どちらかにしかなれない。そしてそのどちらもが危篤である今、お前が行きつく先はここしかない」
「……俺は、どうすればいい」
「このまま待っていれば、お前は宮木竜成としての生を取り戻せるだろう。お前の魂は今は本来、宮木竜成であるべきだからだ。だが、カヴォロスとして在りたいと願うのなら――」
と、ここで言葉を区切ったサツキは、入り口のドアの方へ鋭く視線を向けた。
「思ったより早かったな。樹理!」
「分かってる」
サツキが名を呼ぶとほぼ同時に、彼女の隣に少女が現れた。樹理と呼ばれた彼女は、先程サツキから娘だと言われた少女であった。
樹理はサツキを一瞥もせず、再び姿を消した。
「あと少しでいい。時間を作ってくれ」
返事はなかったが、樹理という少女が頷いたような気がした。
竜成が状況を把握できない中で、サツキは話を続けた。
「お前は選ばなければならない。宮木竜成を殺すか、カヴォロスを殺すか」
「……それは、これで奴を倒す事と関係があるんだな?」
竜成は聖剣を掲げて見せる。サツキは頷いた。
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