Chapter 6-2
「私を信用できない、とでも言いたげな顔だな」
「信頼を得る為には、まず自分の事を知ってもらう事からだと教えてくれた奴がいるものでな。生憎、俺の事であんたが知らない事はなさそうだ。なら、俺はあんたを信用して話を聞く為に、まずはあんたの事を教えて欲しいと思っただけの事だ」
竜成の脳裏には金髪の美丈夫の姿があった。彼がどうなったのかも気になる所ではあるが、今はサツキの話を聞く以外に選択肢がない。
「あんたは、魔法使いなんだな?」
「ふむ……」
この問いに、サツキは考え込むように視線を落とした。
「お前は、魔法と魔術の違いを知っているか?」
それから大した間も置かず、再び竜成を見やったサツキは問い返す。竜成は首を横に振るしかなかった。
「いや……。学問に於いてはそう分類されるという事しか」
「そうか。ではその学問に於ける分類を簡単に言えば、魔術とは魔力を扱う為に体系立だてられた技術全般を指す。その性質上、魔術とは本来誰にでも扱えて然しかるべきものだ。無論、魔力を使える事が前提条件だが」
サツキは一度言葉を切る。ここまでは分かるかという無言の問い掛けに、竜成は頷いて先を促した。
「それに比べて、魔法はより高度なものだ。いや、ある意味では原始的ではあるが……まあ、それはいいだろう。それ故に扱える者は数えられる程しかいない」
「成程……。まさか、あんたは違うのか?」
「いや。私は魔法使いさ。その存在の根源からすべからくな」
サツキは、右目の目元を指で叩きながらそう言ってのけた。そこに表情はなく、ただの事実を告げただけのような口振りである。
竜成は彼女の様子に溜め息を吐く。サツキが並の使い手ではない事は先の戦いで充分理解している。
「なら、最初からそうだと言ってくれればいいだろう」
違っていたのなら、今の説明を受けた道理は察しが付くが、そうでないのなら何故わざわざ回りくどい説明をされたと言うのか。
「なに、老婆心だよ。門外漢にそこまでする者がそういるとは思わないが、魔術師に対して魔法使いなどと呼べば殺し合いになる可能性もある。気を付けてもらえればと思っただけだ」
「そんなものか」
「そういうものだ」
あまり想像が付かないまま、竜成はコーヒーに口を付ける。その苦みと共に、サツキの話も呑み込んで新たに問い掛ける。
「続けよう。あんたは何故、俺の事を知っている?」
「それも既に言った筈だ。私はその剣の持ち主から、お前の事を頼むと言われたから助けた。最も、ここで迷子になった者を助けるのは私の役割だ。頼まれずとも助けには行ったが……。話が逸れたな。という事は当然、お前の事はあいつから聞き及んでいる訳だ」
「……どうも、それだけとは思えないが」
「ふむ。例えば?」
「そうだな……。奴を倒せば俺が死ぬとあんたは言ったな。何故、そんな事が分かっている?」
「それは簡単だ。ここが、そういう世界だからさ」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味さ。ここは見た目通りにお前が知っている世界とは――少し、違う」
「……少し、か」
竜成は思い返す。彼女の言う少しの違いがどういう意味合いかは分からないが、竜成が感じた違い。それは本当に僅かな違いに過ぎないのだろうか。
「違うと言うなら、あんたには分かっている筈だな? 俺の知っている人間が、一人どこにもいないかもしれないという事を」
「当然だ。天海結花は――いや、勇者は今、アルド王国にいるのだからな」
「つまり、あの世界にいる限り、この世界にはいない事になる……という事か?」
結花の存在を指し示す痕跡は今、竜成の元にはない。まるで最初から、天海結花という人間がこの世界にはいなかったかのような錯覚さえ覚える状況は、そう考えれば少しは納得のいく説明になるかと思われた。
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