第二部
Chapter5 目覚めるとそこは
Chapter 5-1
目を覚ますと、視線の先にあったのは見慣れた天井だった。
ごくごく一般的な、賃貸マンション特有の白い壁紙が広がっていた。まだ微睡みの中にある思考でそれだけを認識したが、その意味する所に気付いた瞬間、目を見開いて跳ね起きる。
何の影響だろうか。たたらを踏みながら覚束ない足取りで向かった先は、風呂場である。備え付けの鏡を覗いて、そこに映し出された自分の姿を彼は呆然と見つめた。
四魔神将カヴォロスであった筈のその姿は、宮木竜成となっていた。
どういう事だ。混乱する竜成だが、どこか冷静でもあった。頭痛があり吐き気もこみ上げて来るが耐えられないほどではない。覚えている限りで記憶を遡り、状況を把握しようと努める。
記憶が途切れているのは、結花の姿をしたララファエルに辰真の介錯を頼んだ所からだ。致命傷こそなかったものの、既に限界であったカヴォロスはそのまま気を失ったのだ。
そこからどうしてこの状況になったのかは、竜成の持つ情報では分析できない。唯一考えられる可能性としては鬼という世界の危機を退けた為、竜成は元の世界に戻されたという事くらいか。しかし聖剣による結花の召喚やカヴォロスの復活など、一連の関係性が不可解なままの今、推測の域は出ない。
何がどうなっているのかは分からないが、とにかく今の状態を受け入れる他ないようだ。となれば、ここは竜成の暮らしている部屋で間違いないが、こちらの世界の状況はどうなっているのだろうか。あちらの世界で戦っていたのは約七日間だ。一週間の間、竜成はこちらの世界にいなかった事になるが……。
現在の体調が答えを示しているような気もしていたが、竜成はよろめきながらもベッド脇に戻り、スマホの画面で日時を確認する。
成程。理解した途端に竜成は口を押さえてトイレに駆け込んだ。
示されていた時刻は、飲み会で酔い潰れてから翌日の朝であった。
暫くして、竜成はげっそりとした状態でトイレから出た。水を一杯飲んで息を吐く。落ち着くと、先程よりも世界がよりクリアに見えて来るような気がした。竜成自身は冷静であるつもりであったが、存外そうでもなかったという事だった。
何はともあれ、まずは身体を休めよう。竜成はベッドに戻り横になった。もう一度日時を確認すると、今日は日曜である。だからこそ(人並み以下の量ではあるが)あんなに羽目を外していた事を思い出して、別の意味で頭が痛くなってくる。
そう言えば。恐らく酔っ払った竜成を介抱してくれたのは、同席していた結花の筈だ。感謝のメッセージでも入れておこうとスマホを操作する。それにしても、昨日まで会っていた結花にはこの件は何の関係もないとは奇妙なものだ。そんな事を思いながら、タップやフリックを重ねる動作に違和感が付き纏う。
「……ん?」
いや、違和感どころではない。明らかにおかしい。当たり前だ。結花は竜成にとって、一・二を争う程頻繁に連絡を取り合う相手だ。そんな彼女の連絡先を探すのに、ここまで時間が掛かる筈があるまい。
一週間の間に要領を忘れてしまったのだろうか。それならばいっそ、と音声認識で検索を掛けてみたが、逆にこれが決定的となってしまった。
竜成のスマホからは、天海結花の連絡先も、彼女と連絡を取った形跡も、何もかもが消えてなくなってしまっていた。
そんな馬鹿なと竜成は何度も探し直すが、結果は変わらない。理解の追い付かない現象が続き、眩暈がしそうだった。頭痛も酷くなる一方である。
身体を休めなければどうしようもなさそうだ。竜成はスマホを置いて目を瞑る。目が覚めたらまた向こうの世界だったらまだマシだな、などと考えつつ、眠りに着いた。
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