神様のミスで女に転生したようです

結城はる

第1話 異世界転生したようです

 

 私、秋本修弥は普通の人間だと思っている。

 両親から愛されて育てられ、勉強も運動も平均で決して優秀でもない大学を卒業し、なんともパッとしない中小企業に勤めている。

 働き始めて12年も経ち34歳になった私は、親からはそろそろ結婚しろと電話で言われ続けて面倒になっていた。

 別に今まで女性と付き合ったことがないわけでもないけど、長続きしたことがない。

 それに就職してからは学生時代の友人とも疎遠になってしまい、交友関係も殆どない。

 仕事関係以外の人と会話をしたのなんてもう思い出せないほどだ。

 そのため、結婚するにしてもそもそも女性と付き合う以前に出会いがない。

 本当に結婚なんて出来るのだろうか……。


 あー、孫の顔が早く見たいとか言われても困るんだよね。

 でも妥協で結婚しても幸せにはなれないだろうし……。

 この年齢になると、大して稼いでもいない普通の男に惚れる女性がいるのだろうか。

 なんかこのまま一生結婚しないまま生涯を過ごしそうだ。

 

 そんなことを考えながら、会社に行く準備をして外に出る。

 最近は夏に近づき少しずつ暑くなってきていた。

 早く電車に乗って涼みたいと思い、早足になりながら駅へと向かう。


「きゃーーーー!!!」


 突然後方から叫び声が聞こえてきた。

 思わず振り返ると、後ろにいた女性は上を見上げながら私の真上を指差している。

 上を見ると黒い大きなものが落下してきていた。

 目を凝らして見てみると人だった。

 急いで逃げようとしたが間に合わず凄まじい衝撃を身体全体で受け、歩道に倒れ込んだ。

 周囲が騒いでいるがよく聞こえない。

 私はそこで意識がなくなった───。





「ここはどこだ……?」


 目を覚ますと知らない場所というか、あたり一面が白銀の世界のような神秘的な場所にいた。

 え、ここって天国じゃない? うそ、死んだのかな。

 正直、天国なんて全く信じてなかったから驚きなんだけど。


『ようこそ、秋本修弥さん! あなたは地球でマンションから飛び降りた男性の下敷きになり死亡しました! ご愁傷様です!』


 突然目の前に絶世の美女が現れた。

 真っ白な肌に綺麗な金髪が背中まで伸びており、更には巨乳の女性だ。

 こういう女性と一度でもいいからお付き合いしてみたかったものだ。


 いや、そんなことはどうでもいいか。

 この女性が言うようにやっぱり私は死んだみたいだ。

 父さん、母さん、孫の顔を見せられなくてごめんよ。

 ……っていうか、誰この人。もしかして神様とか?


『そうなのです!』


 やっぱりそうなんだ!

 地球の神様ってこんなに綺麗な女性だったんだ……。

 ……あれ?

 なんで私が思ったことに反応したんだ?

 もしかして、この超絶美女の神様に心の声でも聞こえているのかな?


『聞こえていますよ! それに綺麗な女性なんて……照れちゃいます」


 やっぱり聞こえているみたいだ……。

 流石神様……心の声が筒抜けなんて変なこと考えたら神罰とか下りそうだ。


『そのような事はしませんよ! そんなことよりも秋本修弥さん。あなたは何故か私が管理する世界に魂が迷い込んだみたいなんですよ』


 え、どういうこと?

 私が管理する世界?

 地球の神様じゃないの?


『それが違うんですよ。私は地球とは違う世界の神です。』


 え……。

 てっきり地球の神様だと思ったのに、他の世界の神様?

 っていうか他の世界ってなに……。

 そんなのはファンタジー世界の話でしょ。

 これからの私ってどうなっちゃうの……?


『秋本修弥さんの魂は、地球に還すことができないのでこの世界で転生するか、私の手によって跡形もなく消滅させるかしかありません!』


 こわっ! 消滅って……。

 でもその二択なら自動的に転生を選ぶしかないよね。

 ファンタジー漫画でもよくある展開だし……。


『わかりました! では簡単にご説明しますね! あなたが転生する世界は、地球とは違い魔法やスキルというものがあり、地球みたいな科学技術とかは魔法に頼っているので発展してません!』


 おぉ!

 これぞ異世界転生ものの定番!

 やっぱり異世界となると魔法だよね。

 うんうん。


『ふふふ、喜んでいるようでよかったです! あ、一応伝えておきますが、こちらの世界は地球と違い、王族や貴族制度があります。また、魔物とかも存在しています! なので、転生してすぐ命を失う可能性もありますので気をつけてくださいね!』


 え、え、大丈夫なの?

 転生してすぐ魔物に食べられるとかないよね。

 こういうときはチート能力とかを与えてくれるんじゃないの?


『あまい! あますぎですよ! そんなことはしません! ……とも言いたいですが、少しだけサービスしちゃいますね! 今、ちょうど命が尽きかけの男性がいるみたいなのでその方の身体に秋本修弥さんの魂を入れ替えますね! そうすればこの男性のスキル【無限収納】が使えます』


 魂を入れ替える?

 なんだ、てっきり赤ん坊からやり直すのかと思った。

 しかし、その亡くなった男性の身体を乗っ取るにしてもいろいろ弊害があるんじゃないのか。

 その男性のフリをして生きていくなんて面倒なんだけど。

 でも、無限収納とか異世界での定番スキルっぽいじゃん!


『あー、身体はその男性のものを使いますから言われてみるとそういう弊害も出てきますね。よし! 私の方でこの男性の顔とかは変えておきますね!』


 まあそれならいいかな。

 それにしてもこの神様大丈夫かな。

 ちょっと心配になってきた。


『大丈夫ですよ! 心配することはありません! それでは早速転生させたいと思いますが、最後に何か聞いておきたいことはありますか?』

 

 聞いておきたいことか……。

 なら、神様の名前を教えてくれませんか。

 あと、神様にまた会うことってできますか。


『そういえば名前は言ってませんでしたね! 私はこの世界を管理する女神のイスフィリアって言います! 私に会うとなると、教会の神殿でお祈りを捧げれば会えるかもしれませんね!』


 わかりました。

 また会いたくなったら教会にでも行ってみます。


『はい! では秋本修弥さん、またお会いしましょう!』





 目が覚めると洞窟のような場所に眠っていた。

 んー、なんかまだ視界がボヤけるな。

 とりあえず周囲を確認してみる。暗くてよく見えない。

 歩き出そうと足を前に出すと、何かにぶつかった。


「え、なにこれ。うわっ!」


 足元にいたのは血塗れの男性だった。

 確認してみると、死んでいるみたいだ。

 ってことは私が身体を乗っ取った男性と足元で死んでいる男性は一緒にこの洞窟で死んでしまったんだろう。

 あとで埋葬してあげよう。


「あれ?」


 ふと違和感に気がつく。

 目の前で死んでいる男性ではなく自分についてだ。

 ちょっと胸筋を鍛えてた男性なのかな。

 少し触ってみる。

 むにゅ。

 うん、胸筋じゃないな。

 

 って、ええええええええ!!!

 これって胸だよね?!

 女性にあるべき逞しいおっぱいだよね?!

 ちょっと待って、あの女神やらかしたんじゃね。

 一応、念の為、股間を触ってみる。


「ない……」


 転生したら女になってるじゃねーかよーー!!!

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