ベッツィ・ラヴハリケーン

エリー.ファー

ベッツィ・ラヴハリケーン

 殺したわ。

 確かに、あたしが殺した。

 好きだったから。

 どうしようもないくらいに好きだったから殺したの。

 だって、このまま生きていたらどうにかなりそうだったんだもの。

 だから、殺したわ。

 殺すしかなかったの。

 あたしは、あたしのことが大好きで、それと同じくらいあの人のことも好きだった。

 だから、殺したの。

 絶対に殺してやろうと思ってた。

 あたしをあたしじゃなくした、あの人に責任をとってもらおうと思ったの。

 あたしは、あたしというブランドの維持のためにどんなことだって、やったわ。それこそ、分かりやすい努力から、分かりにくい精神的な訓練も含めてね。

 でも、全部壊れてしまった。

 あたしが積み上げてきたものが全くの無意味になったの。

 謝罪の一つも欲しいくらいだけど。

 まぁ、許してあげた。

 その代わりに殺しただけ。

 あたしに傷をつけたんだから、それくらいは当然でしょ。

 本気にならないと、あたしはあたしを守れないんだもの。

 みすぼらしい言葉だけを積み重ねて、あたしに迫ってほしくなかった。

 それで揺れるあたしの心のことを憎んでた。

 どうすればよかったの。

 じゃあ、どうしたらあたしはまともになれたの。

 人間として生きることができたの。

 何が人間を人間たらしめるの。

 何も考えて来なかったから天罰が下ったということなの。

 それが、すべてだってことなの。

 あたしには分からない。

 分からないの。

 何もかも、大切にしてくれて。

 何もかも、失わせてくれて。

 何もかも、奪わせてくれた。

 あの人に感謝はしてる。

 でも、それだけじゃあ、あたしには何も残らないじゃない。

 あたしだけが損をして、あたしだけが得をしたと思わされて。

 あんまりじゃない。

 あの人との時間が、あたしの人生に生まれた幸せだったなんて思いたくないじゃない。

 あたしは、プライドが高くて、あの人は、プライドが低くて。

 いつだって、あたしをお姫様みたいに扱ってくれて。

 感謝ばかりだけど。

 でも、あたしを幸せな気持ちにした責任を取ってはくれないから。

 思わせぶりな態度なんて、なかったけど。

 何もかも幻じゃなくて、中身のある愛もあったけれど。

 実際。

 本当に。

 恋人だったけれど。

 でも、それだけじゃあ、保てなかった。

 あたしは満足できなかった。

 あたしは物足りなかった。

 あたしは変わりたくなかった。

 だから、殺した。

 あたしは、あの人のことを好きだったけれど、あの人に変えられたくはなかった。

 まぁ。

 あたしが勝手に変わってしまっただけで、あの人の責任ではないけれど。

 でも、愛し合っていたんだから、分かっていたはず。

 殺してしまえばいいと思ったのは、たぶん秋ごろ。

 あの人の誕生日にケーキの予約をしに行ったの。

 ふと、思いついて。

 ずっと、頭の片隅に寝かしていたの。

 必要な時間だった。

 あの人は、ずっと優しくて、ずっと強くて、ずっと賢かった。

 あたしの愛を抱きしめるのに適した存在だった。

 殺したのは夕方だった。

 後ろから、首を絞めた。

 あの人は、抵抗しなかった。

 いい夕焼けだった。

 遺産目当てなんて言われたけど、もうどうでもいい。

 あたし、死刑でいいの。

 死刑じゃないなら、自殺する予定だから。

 話を聞いてくれてありがとう。

 初めて会った時に、殺してくれって、お願いされて、それを叶えた女の話。

 意外と面白かったでしょ。

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