殲滅された小国の姫は、転生したので人生を楽しむことにした。

とうたら

第1話 プロローグ

初投稿です。

不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。


拙い文で、申し訳ありません。

どうか、寛大な心で、気長にお付き合いくださいませ。


◇◇◇


 グランドール大国の最北。魔獣が出没する辺境を統治するナイトレイ侯爵領邸の一室。グリーンとブラウンを基調にした令嬢の私室で、生成りの柔らかな絹モスリンで覆われた寝台に横たわるシルヴィアは、原因不明の高熱と激痛に襲われていた。


 シルヴィア専属子守ナースメイド兼護衛のマリーは、片時も離れず必死に看病を続けている。天真爛漫で好奇心旺盛な愛らしいシルヴィアの苦悶する姿に、胸が張り裂けそうだ。

 シルヴィアは苦痛に顔を歪め、身をよじり、既に声にもならない悲痛な悲鳴を上げた。マリーは堪らず、シルヴィアを強く抱きしめた。


 マリーの心地良いひんやりとした魔力に包まれ、シルヴィアは安心して意識を手放した。


◇◇◇


シルヴィアが病床に伏して二日目


 ハリス医師の処置とマリーの献身的な看病をよそに、シルヴィアは昏睡状態のままだ。回復を願うみなの祈りは、神に届かないのか。ナイトレイ侯爵家は灯の消えたような寂しさと重く暗い空気に包まれていた。


◇◇◇


シルヴィアが病床に伏して三日目


 針葉樹の香りを運ぶ爽やかな風が、窓辺のカーテンを揺らす。小鳥たちのさえずりと、誰かの囁き声が聞こえる。額にそっと置かれた、ひんやりとしたマリーの手の感触が気持ちいい。


(マリーが側にいる。大丈夫。あれはただの悪夢。目の前で惨殺される家族や民たちの叫びも、残忍に何度も切りつけられた痛みも、すべては夢)


 シルヴィアは安堵し、ほっ、と息を吐いた。


「シルヴィア様?シルヴィア様!!」

「誰か閣下と奥様にお知らせして!早く!!」


(……何事ですの?何故、ハリス先生はわたくしの部屋にいらっしゃるのかしら?)


 俄に慌ただしくなる家人たちの気配に、シルヴィアは驚いた。


(身体が……、動かないわ)


 身じろぎもままならず、そっと瞼を押し開くと、眼前には号泣するマリーの美しいかんばせがあった。反対側から覗き込むのは、ナイトレイ家お抱え医師ハリスだ。


 シルヴィアは辺りを見渡した。


 自分の私室だと確信はあるのに、他人の部屋にいるような違和感を感じるのは何故だろうか。手に触れる寝具は、しっとりとした絹の感触。こんなにも心地よく、肌に馴染むのに、何かが違うと、直感的に感じる。なぜ、そう感じるのか分からない。


 開け放たれたドアから雪崩れ込むように、複数の足音が近付いてきて、マリーとハリスは素早く退いた。


「おぉ!ヴィー!!」


(お父様とお母様がいらっしゃったのね)


 感極まったご様子のお父様が、十六歳のわたくしを軽々と持ち上げたことに驚く。感涙に咽ぶお父様とお母様から、包み込むように抱きしめられた。


(ふふふ。なんだか幼い頃に戻ったようだわ)


 小さな子どものように扱われ、シルヴィアは気恥ずかしさと嬉しさから、はにかむように微笑んだ。


 兄のアルバートも、シルヴィアの元へ駆け寄ってきた。


 大好きなアルバートお兄様は、泣きながら、そっとわたくしの手を両手で包み込み、指先に口づけた。お兄様の美しいタンザナイトのような青紫色の潤んだ瞳に惹きつけられていた視線が、お兄様より幼く小さな自分の手に移った。


わたくしの手?)


 刹那、殲滅された記憶が鮮やかに蘇る。壮絶で残忍な死の記憶が、濁流のようにシルヴィアを襲った。


 幼いシルヴィアは、再び気を失った。


◇◇◇

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