気まぐれ

ももいくれあ

第1話

片腕をもぎとられたカマキリのような、ちっぽけな目をしていた。

いつもの時間になったというのにその瞳は開かなかった。

ココに私がいることさえも、気がつくことすらないままに、

ぼんやり口を開けていた。

いつまでも待ち続けた。

あの場所で待ち続けた。

朝も昼も夜も朝も、

でも、レイナは来なかった。

あれから2ヶ月が過ぎて、窓の外は変わっていた。

時々とぎれる記憶をたよりに、あの場所にたどり着いた。

レイナはやっぱり来なかった。

いつも笑顔で手を差しのべてくれた、

恵みの粉をふり注いだレイナの姿はそこにはなかった。

それでも私の毎日は、とても穏やかなものだった。

隣を泳ぐ仲間たちは、もうとっくにいなかった。

私は玲奈を失った。

カイトもレイナを失った。

今まで私になんて見向きもしなかったカイトも、

今では毎日話しかける。

私をココに連れてきてから一度ものぞかなかったくせに、

一緒に住んでるつもりなのか。

 【レイナは俺を裏切った。】

でも、それは嘘だろう。

レイナはとても優しかった。

そして、とても可愛かった。

いつでも優しく微笑みかけた。

カイトの手は小さくなっていた。

まるでカマキリの片腕のように。

 カップッ

かんでみた。

よく晴れた朝だった。

いつもより沢山の恵みの粉と共に、

カマキリの片腕はやってきた。

ピクリともせずにただ静かに近づいた。

 ピチャッ

体中の力を下半身に集中させて飛んでみた。

突然、柔らかそうな壁が邪魔をした。

 バシャッ バシャッ

私はいつの間にかすっぽり包まれていた。

そして、真っ暗闇の中へすとーんと落ちていった。

しばらくすると、ドロドロとした臭いが襲ってきた。

 ポチャッ

苦しくなってきた。

目の前にある物が何なのか、全くわからなかった。

 キューッ

かすかに心臓が叫んだ。

あー、このまま終わってしまうのか、

 くそっ

だから、レイナはいなくなったんだ。

レイナは解(し)ってたんだ。

みせかけの優しさをひけらかされるコトにうんざりしてたんだ。

きっと、そうだ。

 くそっ

こんなことになるなら、もう一度、かんでおけばよかった。

かみちぎってやればよかった。

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