私はお前におとされない!!

うめもも さくら

どうやら私は異世界に来てしまったようだ

ある日、目が覚めたら見知らぬ場所にいた。

周りを見渡してみても私の暮らしていた現代日本の一般家庭の部屋とは到底とうてい思えない調度品ちょうどひんの数々。

まるで昔見た映画のお城の一室。

特別、目利きがきくわけではないがそんな私が一目見てわかる高価そうな調度品は高級感のある部屋をさり気なく演出している。

華美ではなく品の良い部屋だということはわかる。

この部屋にどうやって来たのかも、何故この部屋にいるのかも、この部屋にこのまま居ても良いのかも全く何もわからないのだけれど。

「聖女様、失礼致します」

控えめに部屋の扉をノックされた後、女性の慎ましやかな声が続く。

この部屋を見渡しても私以外誰もいない。

彼女の言葉にある聖女様とは私のことだろうか。

それとも他の誰かのことだとしたら私は不法侵入してしまっていることになる。

実際、自分自身が何故ここにいるのかわからない時点ですでに意図せず不法侵入してしまっている気分になっている。

窓から逃げようかと近づけば、下には小さく町並みが広がっていた。

すごく高い階層にある部屋のようだ。

逃げることは不可能と判断しそれならば、どこか隠れられる場所はないだろうかとあちらこちらをうろうろしている間に扉が開かれる音がする。

そして私と同じ年頃だろうか、メイド姿の女性が恭しく礼をしながら部屋に入ってきた。

そして彼女が顔を上げたとき、観念した私は自分を小さく嘲るように微笑むと、即座に勢いよく土下座をする。

「すいませんでしたーー!!」

理不尽に感じてる部分はもちろんある。

けれど最大限の謝罪は時に自分自身を守る最大の防御にもなり得る。

反抗や抵抗すれば聞いてもらえる話もさせてもらえない可能性がある。

大人しく謝罪から入り、その後に私が置かれている状況を説明する。

現代日本で生きてきた私なりのやり方だ。

無抵抗な人間に酷いことは出来まい。

床を見つめながらそんなことを考えていると、少々の戸惑いと安堵が混ざり合った女性の声が降ってくる。

「せ……聖女様……あぁ、やっとお目覚めになられたのですね。すぐにアルト様にお伝えしなければ」

そして女性は気遣うように私に近づくと言葉を続ける。

「お可哀そうに。こんなところに倒れられて。どこか痛みますでしょうか?医者を呼びましょうか」

どうやら土下座という文化を知らないらしい女性は私が体の不調で倒れていると思ったようだった。

その時、私はこの状況を把握するため考えを巡らせていた。

彼女の言葉をそのまま受け取るならば、先程彼女の言っていた聖女というのは私のことで間違いないようだ。

目が覚めたということをあんなにも喜んでいるところを見ると、どうやら私は長いこと意識不明だったらしい。

アルト様……という名前をどこかで聞いたことある気もするがとりあえずどんな人かはわからない。

今目の前に広がる部屋の風景、私に向けられる聖女という言葉。

現代日本ではない部屋、現代日本ではありえない聖女という肩書き。

受け入れ難い現実だが、現時点で私が置かれているこの状況の全てが受け入れろと迫ってくる。


どうやら私は異世界に来てしまったようだ。

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