Grandia Days ~悪党の街グランディア~

ヤマタケ

第1章 金貸し屋クロガネ

第1話 悪党の街グランディア

 毎朝目を覚まして、カーテンを開けるたびに、うへえ、と顔をしかめてしまう。


「あー、外れだ」


 一面の曇り空。晴れ間を拝めることなどほとんどない。可能性があるとすれば、朝のわずかな時間だけ。

 今日は晴れていないか。それを確かめるべく、決まった時間に起きているのだけど。


「……まあ、しょーがないしょーがない。いつもの事」


 クロガネは一人そう言うと、窓の下の、もう外を出歩いている人並みを見やる。


 どいつもこいつも悪い顔。顔に傷はある奴ばかりだし、きっと脛に傷がある奴はもっといる。ここはそういう街だ。


 グランディア。王国の中でも最も治安が悪いといわれる都市。

 なんでそんなことになっているのかと言えば、近くに『ダンジョン』があるのだ。ダンジョンがある、というのは、この世界において金の生る木が生えているのと同義である。金の成る木があれば、虫が群がるのも仕方ないわけで。


 色んな人たちが集まった結果、善良な人は身の危険を感じていなくなってしまい、悪い奴しかいなくなってしまった。

 そのせいか、この街は「悪党の街」と、外では言われているらしい。


 だが、住めば都。一度住み慣れてしまえば、こんなに居心地の良い街もないだろう。クロガネは、そんなグランディアの街を気に入っていた。


 のんびりと朝食をとり、眠気覚ましに茶を淹れて一口。これが彼の毎日のルーディンである。


 火の魔石で沸かしたお湯で体を清めると、仕事着に着替える。仕事着の色が黒いのは、会社のテーマカラーだから。黒ければ、あとはなんでも良かったりする。

 長い髪をうなじでまとめ、仕上げに身体をうんと伸ばす。全身の骨を鳴らしたら、いよいよクロガネは仕事場へと赴く。


 文字通り、社長出勤である。


********


「おはよーございまーす」

「……おはよ、シャチョー」


 ドアを開けて元気に挨拶をすると、不機嫌そうな従業員の挨拶が返ってきた。彼女は、シャチョーであるクロガネのデスクに、堂々と座っている。


 いろいろと目立つ特徴はあるのだが、何よりも目立つのは彼女の持っているものだろう。漆黒の「それ」は、愛用の鉄パイプだ。


 彼女の名はアドレーヌ。クロガネは通称「アド」と呼んでいる。彼の会社、『クロガネローン』の従業員であり、主な仕事は取り立てだ。


「今日の予定は?」

「これから集金。誰かさんが来るの遅いせいで、出発できなかった」

「それは失敬」


 アドをどかしてデスクにつくと、ぱらぱらと資料を眺める。集金予定のリストを見やり、回る順番を確認した。


「……今日は、おとなしそうですね」

「まーね。じゃ、行ってくる」

「はーい、行ってらっしゃい」


 アドは鉄パイプを持ったまま、部屋を出て行ってしまう。


「さーて。今日も、お仕事頑張りましょうね」


 クロガネは、金貸し屋の社長である。

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