抱擁

近づいて来た浩二は、後ろから千恵子の肩を抱き優しい声で語りかけた。


「君に授かった子供を、君の心の重荷にしてはいけない」

「私は本社で部下と上司の裏切りに合い、事業の失敗の責任を取らされてこの支店へやって来た」

「人を信じる事が出来なくなった私に、優しく接してくれたのが君だった」

「君のおかげで私は立ち直る事が出来た」

「君の優しさや誠実さは、この半年間で良くわかっている」

「爛れた肉体関係なんてこの際、何の重要な意味を持たない」


「周りを見たまえ、この周囲の物体が素晴らしく美しい光で照らされている!」

「光と影を一つに包み込む様に月光が全てを照らし出している!」

「目の前の月光が君の体と、お腹の子供を洗い浄めてくれるだろう!」


「私は君を、君は私をお互いに支え合って生きて行こうではないか」

「君はその子を私の為、私の子として産んでおくれ」

「君の誠実さは私の心を照らし出してくれた」

「私は君しか考える事が出来なくなっていた」


千恵子は泣きながら黙って聞いているだけであった。

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