習作 浄められた夜

わたくし

月下

肌寒い初冬の夜、誰もいない公園の並木道の上には大きな満月が輝いていた。その光は地上のあらゆる物を優しく包み込むようにして影を造っていた。

夏の太陽のように全てを焼き尽くすような、はっきりとした陰と陽では無く、境界線の無い薄っすらとしたグラデーションでこの光景を造っていた。

木々の葉はすかっり枯れ落ちていて、空に向かう枝々は月光を取り込もうとして伸びているかのように見えた。


並木道に男女の二つの影が近づいてくる。

女性の名は”千恵子”、三十歳目前のOLで、先ほどレストランで隣の男性”浩二”に結婚前提の交際を申し込まれていた。


浩二は半年前に本社から、千恵子の勤務する地方の支社へ主任として転勤してきた。

噂では、本社で大きな失敗を犯して降格・左遷されたと聞いていた。

千恵子は勤務先の先輩として、浩二に慣れない地方支社の仕事を丁寧に教えていた。

やがて、浩二は持ち前の優秀な才能を発揮して、支社の成績が全社での一位を取る位になっていた。

「やはり、二十代で課長になった噂は本当なのね」千恵子は思った。

指導期間が終わったあとも浩二は何かと千恵子に相談を持ち掛けてくる。

昼食時や退勤後にも千恵子を色々誘っていた。

千恵子は浩二が自分に好意以上の物を持っているのを感じていた。

そして、ついに先ほど交際の申し込みを受けたのだ。

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