みんな大好き。ドジえもん!

石狩なべ

第1話 ドジえもんがやってきた!


 今日もとっても平和な日。

 鳥が飛び、スズメが鳴き、平和な朝がやってくる。駅は仕事に行く人たちでごった返し、通学路には学校に遅れそうな子供たちが走っている。


「あーん! たいへん! ねぼうしちゃったー!」


 そこに現れるのは今日も朝寝坊をして食パンをくわえて走る北海道花子ちゃん。全力で走っていたら、小学一年生に追いこされた。


「おい、見てみろよ! きょうもぼけハナコが走ってるぞ!」

「追いこしてやろうぜ!」

「あーん! 一年生に追いこされちゃったよ! しかもちょーバカにされた!」


 さーて、学校が始まる予鈴が鳴った。きんこんかんこん。ハナコが教室のドアを開けると、ぷんすかぷんぷん顔のミニスカ先生が鞭を持って待ちかまえていた。


「こら! 北海道くん! また君かね!」

「ごめんなさーい!」

「いかん! 今日という今日は許さんぞ! 北海道くん! そこに手をついて、おしりを向けなさい!」

「で、でも先生! おしりを向けたら、スカートの中が見えちゃいます!」

「遅刻する君が悪いのだ! 早くしなさい!」

「ふ、ふええ……!」


 ハナコが羞恥心でいっぱいの中、黒板に手を付けおしりを向ける。するとスカートから水玉ぱんつが見えてしまう。クラスメイトたちの今夜のおかずが決まった。全員に見られながら、先生がムチを打つ。


「喘げ! エッチな声で! 喘ぐのだ!」

「あん! 恥ずかしいです! 先生!」

「ふう! 満足した! 北海道くん! 廊下に立ってなさい!」

「はい……」


 今夜もクラスメイトたちのおかずにされたハナコが廊下に立った。


(あーあ、またやっちゃった)

「災難だったね。ハナコちゃん!」

「あっ!」


 彼を見た瞬間、ハナコの胸がきゅんと鳴った。


「クラスのイケメン男子、みんなの憧れ! 東京太郎くん!」

「今日もお寝坊かい!? 全く! 君はいつもお寝坊さんだな! そんなところもキュートだね☆!」

「きゅん!」

「おっと! もう授業の時間だ! 頑張るんだよ。ハナコちゃん!」

(はあ……。きょうも太郎君はかっこいいなぁ……)


 皆の憧れのイケメン男子。東京太郎くん。イケメンの彼の元にはいろんなクラスの女の子がやってくる。


(あーあ、わたしもいつか、太郎くんの彼女になれたらなぁ!)

「もういいぞ! 北海道くん! 席につきなさい!」

「はーい」


 先生に呼ばれたハナコが教室に戻り、席に歩いていくと、足を引っ掛けられた。


「きゃっ! 横から足が! な、なんてひどいことを! いったい誰が!」

「まあ、ごらんあそばせ。サチコさん! ハナコが転んでいらっしゃるわ!」

「あ、あれは社長令嬢の意地悪女子、京都チヨコと、女番長の大阪サチコさん!」

「ハナコぉ! あとで顔見せな!」

「ああっ! そんな! 今日もアレをしないとだめなの!?」

「お前に断る権利なんかないんだよ!」

「そんな、ひどい!」


 というわけで放課後、ハナコは校舎裏にやってきて、サチコによって壁に押し付けられてしまった。さらにそれだけでは終わらず、今日も激しく唇を重ねられてしまう。


「んぅ! んん……!」

「サチコさん! この女、感じてるみたいですわよ! 今日こそ処女を奪ってやりましょう!」

「まあ、待ちな。楽しみは後に取っておいた方が面白いよ」

「さすがサチコさん! 焦らしプレイもお手の物! そこにシビれるあこがれるぅ!」

「わすれるんじゃないよ。ハナコ。あんたはあたいのもんだよ」

「そ、そんな……」


 夕暮れ時に解放されたハナコがさんぽセルを引きずりながら帰路を歩く。


(わたし、このままサチコさんに処女を奪われてしまうのかしら。ああ、毎日がゆううつで、こわくてしかたない)


「ただいま……」

「お帰り。ハナコ。テストはどうだったんだい。パピーに見せてごらん」

「え、て、テスト? あー……」


 ニコニコするお父さんにテストを渡すと、ハナコは一目散に二階の部屋へと逃げ出した。だって、テストに書かれていた点数は0点だったんだもの!


「ハナコーーーー!!!」

「まあまあ、あなた。ハナコも年頃だから」

「お前はいっつもそうやってハナコの肩を持つんだから! ハナコ! 今晩の食後のアイスは抜きだからな!」

(ああ、もういやだ。こんな毎日)


 ハナコは部屋の畳にうずくまった。


(頭は悪いし、太郎くんともうまく喋れない。おまけに放課後は毎日サチコさんとチヨコに虐められて、なんてふがいないのかしら。こんな自分、いやになる。生まれ変われたらなぁ)


 あ、大好きな日記を書く時間だ。ハナコは伸びをして、机に向き合った。


(さて、日記を書かなきゃ)


 えんぴつを取ろうと机の引き出しを引くと、中から影が物凄い速さで飛び出してきて、ハナコの額とぶつかった。


「あん! 痛い!」

「ふげっ! 痛ぇ!」


 ハナコが畳に打ち付けられ、向こうは引き出しの中で悶えた。


「頭を打った! クッソいてぇ! 悶絶もんだわ! これ! くそ! ドジっちまったぜ!」

「ひい! 引き出しから怪獣の被り物をした変な女の子が現れた! あなたはいったい誰!?」

「驚かないで。過去のわたし」

「また別のお姉さんが現れたわ! あなたは誰!?」

「わたしは未来のあなたよ。ハナコ」

「えー!? 未来のわたしー!?」

「そうよ。わたしは過去を変えるためにこのドジえもんを連れてきたの」

「こんにちは。あたしドジえもんです」

「落ち着いて聞いてちょうだい。未来のわたしの環境はとても悲惨なの。なにが悲惨って、わたしは強制的に高級な建物に住まわされて、毎日毎晩お金持ちの社長となったサチコさんに重く深く愛されてしまっているの」

「えっ!? 太郎くんは!?」

「太郎くんはエリート美人女子、秋田エリコさんと結婚したわ」

「そ、そんな!」

「そうよね。でも安心して。このドジえもんがいればもう安心。ポケットから素敵な道具を出してわたしをたすけてくれるわ」

「うっす」

「ああ! 時間だわ! 早く戻らないと、浮気を疑われてサチコさんに目隠し拘束プレイを強要されてしまう! あとは任せるわよ! ドジえもん!」

「気をつけて帰れよー」


 引き出しの中に戻っていった未来のハナコ。残されたのは恐竜の被り物をした女の子と現在のハナコだけ。


「まあ、そういうわけだから、よろしく」

「よろしくね! わたし、ハナコ! これからわたしを守ってね!」

「ハナコー! ご飯できたぞー!」

「あ、お父さんとお母さんにも紹介しないと! そうだ! ドジえもん! さっきお父さんを怒らせてしまったの。原因はわたしがテストで0点を取ったから」

「お前まじかよ。0点はさすがに取らねえだろ。名前でも書き忘れたのか? この時代からぼけてんだな」

「そうなの! だから、お父さんの機嫌が良くなる道具とかないかしら!」

「おう! そういうことなら任せろ!」


 ドジえもんがショルダーポケットから道具を出した。


「たららら、ららら、ごまだれー! これを使いやがれ。ハナコ」

「なーに? これ」

「おう。こいつはデンマって言うんだ」

「デンマ?」

「電気マッサージだよ。これを使えば、パパもきっと機嫌が良くなるはずだ。さあ、行ってこい」

「へえ! 変な形のマッサージ機だね! でもわかった! 渡してみるよ! ありがとう! ドジえもん!」


 ハナコは一階へ駆けていった。そこでドジえもんは重要なことを思い出した。


「あれ? この時代の電気マッサージって、普通の使い方だっけ? あれ、歴史の本どこだっけ?」

「お父さん、これ、お父さんにプレゼント。はい、どうぞ」

「ひい! お前! ディルドなんて持って何やってるんだ!」

「え? なーに? それ」

「さてはいけないことをしていたな!? ハナコー!」

「えー!? また怒られたー! なんでー!?」

「……」


 ドジえもんが歴史の本を見て、頭を掻いた。


「あ、やべえ。別名でアダルトグッズ認定されてる時代だ。ははっ。またドジっちまったぜ」


 こうして、ハナコの元に、ドジえもんがやってきたのです。


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