memory.6 光の巨人
「へえ、君が
よれよれになった灰色のスーツ姿で、ひげを伸ばした男が、俺を嗤うような調子でそう聞いてきた。
「答える義理はない。そして、あんたは既に懲戒解雇されている。俺は警官で、あんたは犯罪者。もう一つ言えば――」
挨拶代わりに引き金を引く。
軽い銃声が首都圏外郭放水路に響き渡る。
男は眉間を確かに貫かれた筈だが、血も出ないし、痛みを感じる様子も無い。
「――かーっ、先輩相手に手加減する義理もねえってか。そっか、君は人間の捜査官だもんなあ。人間の捜査官のほうがそういうとこきついよね」
「やっぱりホログラムだね。実体を取り戻したかとも思ったけど……まあいいや」
隣に立つ乙女さんがため息をついた。
「元第一研究室主任、
「お久しぶりです副所長! いや~~~~相変わらず麗しいお姿惚れ惚れしてしまいます」
乙女さんが舌打ちをして俺に続きを話せと促す。
「今野大我、お前が七歳の時に実の両親を殺害した容疑がかかっている」
「ああ~光の巨人のときのやつ? 時効だろぉ? それにひどい親だったんだ。世界を皆で救うより、自分で自分を救わなきゃね。それも僕の罪状に加わるの?」
「異常存在の犯罪は例外だ」
「人間の規律のまがい物で、人間を越えた存在を縛るなよ。つまらねえ男だ」
天井に向けてもう一度撃つ。
ホログラムを投影しているであろう装置が、先程から張り付いていた。
弾丸は装置をわずかにそれて天井の穴に食い込む。
「……マジかよ後輩ちゃん。天井まで相当距離あるぞ」
眼の前の男は冷や汗を流している。俺がわざと外したと思っているのだろう。
俺は中指を立てて突きつける。
「お前は人間以下だ。人間の都合でふんじばってやる」
「今の僕、データ生命体ってやつだぜ? デジモンみたいなもんさ。君、ベルゼブモンとか好きそうだよな」
「ついてくるのか? こないのか? こないならこちらも実力行使だ。お前の射殺許可は既に出ている。俺ができるかは知らんが、乙女さんが本気を出したら多分やるぞ」
眼の前のスーツ姿のホログラムはため息をつく。
「ついていくよ、ついていく。僕は君たち人類が大好きなんだ。人間を辞めて初めて人間を愛せるようになった」
「御託は良い。任意同行だ。デジモンの話でもしてろ」
「後輩ちゃん、君の好きなデジモンは?」
「エンジェウーモン」
スーツ姿の男は真顔になる。
「……君みたいなやつ、結構好きだぜ」
今野大我、元奇捜研第一研究室主任。
現在は異常存在として奇捜研究所に確保される度に逃走を繰り返しながら世界各地で異常存在の研究を行っている。
「マンガは? コロコロ? ボンボン?」
「コロコロ。あんたは」
「ボンボン」
俺はこいつが嫌いだ。
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