memory.7 アウト・サイド・ロッカーズ
「おっ、
「そういや、じゃないでしょ。
「私の見てないところで私を置いていかれると困るからねぇ」
いつも笑っている女だったが、珍しく、少しだけ、憂鬱そうな顔をしていた。
親しい身内が亡くなったのかもしれない。だが、忌引の申請はしていなかった筈だ。
友人か何かの葬儀があったのか。
「大丈夫ですよ。無茶はしません」
「嘘だ」
笑った。
「じゃあ俺はこれで」
「あ、倫くん、この後、予定空いてる?」
「まあもう家帰って酒飲んで寝るだけっすけど」
「ふぅん……じゃあ一杯ひっかけてかない? 良い店知ってるよん」
「おっ、良いっすねえ」
なんか『普通の上司が誘えばアルハラだが、美しい顔をしたこの私が、笑顔の裏にほんの少しだけ物憂げな色合いを含ませて誘った場合、これはハラスメントではなくご褒美である』という顔をしている。
まあ元気なら良い。
*
連れて行かれた店は個室だった。他の客からガキを飲ませていると思われないのは丁度良い。ビールとお通しの白子ポン酢和えで乾杯を終えたところで、乙女さんは切り出した。
「今日お葬式に行ってきた人間がね、外部協力者だったの。イタリア料理店を経営してて、色々な事件の情報を提供してくれた」
「親しかったんですね?」
「まあね、ガキの頃はおんぶしてやったり、上京してきてからは仕事の世話もしたし、良い男も紹介してやったりしたもんよ」
「もうただの外部協力者じゃなくないですか」
乙女さんは遠くを見るような目をして幸せそうに微笑む。
「孫みたいなものだったから」
「流石に孫なんて年じゃないでしょ」
乙女さんはクスリと笑う。
「確かにそれもそうね。じゃあ娘にしておこうか」
「“笑う神”読んで気になったんですが、警察以外にも、こういう事件に関わる人間って居るんですね」
「少ないけどね。企業、犯罪組織、異常存在になってしまった一般人、異常存在が起こす事件に関わり続ける人間は確実に存在する。あなただってそうでしょ」
“ガンスリンガー”のファイルを思い出す。たしかに、俺も関わってしまった。それに生き残ってしまった。
「……っすね。じゃあ、人間と異常存在の違いって、特にDocuments/Aの連中ってのは、何が違うんですか」
「異常かどうか、かな」
「異常って、何を以て異常なんて」
鶏唐揚をハイボールで飲み込んだ乙女さんは嬉しそうに語りだす。
「人類に理解できるかどうか、受け入れられるかどうかだよ。人間に理解できるようになった異常存在は、いつか異常存在ではなく人間社会の中に受け入れられる。死神ではなく黒死病に、火の槍ではなく自動小銃に、人類は異常存在を少しずつ矮小化しながらねじ伏せて拡大してきた。我々はこの日本で市民が生きていける人間の世界を広げる
「成る程……外部協力者って、俺もいつか会うことになるんですかね」
「いつかね。あんまり肩入れしすぎるなよ~?」
あんたが言うかよ。
「……分かりました。からあげとハイボール頼みましょ」
「レモンは?」
「俺はかけたい派」
「じゃあ私もかけたい派。んで私は二杯目からは日本酒派」
俺が外部協力者と出会うのは、それからしばらく経ってのことだ。
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