Neutral(私の夢の見つけ方)
一本杉省吾
第1話 卒業式の朝
まだ、寒さの残る三月一日。今日は、私の高校生活、最後の日。卒業式の朝、いつもより早く目が覚めてしまう。この日を、どれだけ、待ちどうしかった事か。式が終わると、その足で東京へ、向かう事になっている。長く伸びた髪を、右手で掻き上げて、自分の部屋から見える田園風景に視線を向ける私。この風景とも、今日でサヨナラをしなければいけない。嬉しい様な、寂しい様な、複雑な感情で、田舎の風景を眺めている。
<あぁあ>そんな溜め息ともとれる、一呼吸で、布団から飛び出す。思い切り、身体を伸ばして、自分に気合いを入れる。明日から、自分の夢に向かって、東京と云う土地で頑張っていかなければいけない。とにかく、今は、今日の事が大事である。
(高校を卒業する事)と云う、東京の友人との約束を守る為に、今日と云う日を待ちわびた。最後の最後の日も、気を抜かないようにしなければいけない。私は、部屋にある鏡台の前に座り、自分の顔を瞳に映す。前髪を上げて、化粧水を肌に沁みこませる。不意に、視線を上にあげる私の瞳に映る制服のブレザーとズボン、その隣には、白いワンピースがハンガーに掛けてある。今日、このワンピースを着て、この家を出ていく。
式には、父親は来ないだろう。仕方がない事だと、私は思っている。東京に出る事に、父親は首を縦に降り下ろしていない。私の事を心配しているのか、信用していないのかは、父親に聞かないとわからない。
正直に言うと、東京に出て、自分の夢を追いかける事に、不安を持っていないわけではない。怖くて、足を踏み出せない自分もいる。東京には、そんな私を応援してくれる友人がいる。心強い人達である。今、こうして東京に出ようとしている自分がいるのは、そんな友人達がいるからだと思う。ふと、私は、白いワンピースを見つめてしまう。高校二年の七月、現在から一年と半年前、本当の意味で、【僕】から【私】に変わった出来事があった。私の生きる道を示してくれた人々との出会い。鏡台の前で、ゆったりと瞳を閉じた。
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