愛人稼業
それにしてもや、いつコトリらに気づいたんや。
「裏社会では有名ですよ。赤と黄色の小型バイクの女二人組には何があっても手を出すなって。白羽根ともやりあったんでしょ」
それこその蛇の道は蛇やな。白羽根はフロント企業のうて超ブラック企業やが、まあ広い意味で同類みたいなもんか。ああいう商売は裏ともつながりがあるからな。そやけど白羽根の件まで知ってるんやったら・・・結衣は急に居住まいを正して頭を下げ、
「お願いがあります。どうかパトロンになって下さい」
そうなるか。真剣師の感覚やったら欲しいやろな。それだけやない、結衣は法月王座の妨害にも警戒しまくっとるけど、明日の対局で何か企んでるはずや。そりゃ、因縁の相手なんてものやない。何をするにしても後始末が必要や。
「さすがによくお判りです」
ここでユッキーが、
「パトロンの代償に何を差し出すつもり。体が欲しいと言えば差し出せるの」
「お望みとあれば同性でも喜んでお相手します」
やったことがあるんやろか。つうかどうやって組長の愛人なんかなれたんや。
「代打ちもフリーと専属がありまして・・・」
フリーはどこの組の依頼を受けるもんで、専属はそのままや。違いは組に庇護されるか、そうやないかぐらいみたいやけど。
「組に庇護してもらう料金は結構なものになります」
こういうとこは裏社会やな。自分らで送り狼になって襲うのに用心棒代は払えやもんな。ここからはありきたりか。裏将棋に参加する女なんて滅多におらんそうや。そりゃそうやろ。女と言うだけで別の意味で目を付けられる。結衣も美人やから当然のように目を付けられて、
「はい、庇護してもらうには早道です」
さらっと言うけど、
「声を掛けられて専属契約だけじゃなく愛人にもなりました」
結衣が言うには、愛人になれば用心棒代がロハになって手取りが良いとか。その代わりは、
「愛人稼業もマグロでは済みません」
組長も色々やろうけど、何人も愛人を抱えているのは珍しくもない。組の規模が大きいほどそうやろ。結衣もそうやったみたいやけど、
「組長の寵愛が深いほど愛人の地位も上がります。ですからベッドは真剣勝負です」
ハーレムの世界やな。ベッドで組長をいかに満足させるかで寵愛の度合いは変わる。より寵愛させるほど愛人のランクも上がり待遇も良くなるってことか。
「とにかく相手は女を扱うプロみたいなものですから演技は通用しません。全身全霊で応えなければなりません」
愛人稼業もラクやないな。でもや、愛人になっても嫌われたりしたら、
「そんなもの決まってるじゃないですか、世界最古の職業が待っています」
シビアや。結衣は組長に気に入られて愛人の地位を上げて行ったで良さそうや。そやけどや、寵愛されてる愛人を命勝負なんかに出すか。
「そんな世界です。あの世界で女は道具か商品としか扱われません。機嫌一つで愛人から組員の性欲処理に回されるなんて日常茶飯事です」
たまらんな。知っとるのは知っとるけど、実際の体験者の話はそうは聞けんからな。そういう世界やからレズぐらいは座興で命じられるぐらいはナンボでもあるのかもしれん。
「命勝負への出場も、あの連中からすれば座興に過ぎません」
結衣が命勝負で負けた時の条件は、
「女ですから少し条件が変わっていまして・・・」
なんやて組長の愛人を賭けての勝負やて。負けたら相手の組長の愛人になるんか、
「運が良ければです。大抵は組員のレクリエーションにされ、飽きられたら世界最古の職業です」
要は体ごと売り飛ばされ、相手の好きなようにされるって事やな。結衣に言わせれば、相手の組長の愛人を嬲り者にするのは、ああいう連中にとって楽しい娯楽らしい。そやったら結衣の対戦相手は女か。
「相手は男です。ですが・・・」
結衣が賭けさせられるものは体やが、その代金の時がまずあるそうや。それだけやなく、相手も愛人を賭ける時があるそうや。
「面白い対局風景でしたよ」
賭け金なら三方に置かれるそうやが、愛人の場合は素っ裸にされて検分され、柱に縛られとったそうや。ホンマに道具扱いやな。結衣は代打ちやからそうはされへんかったやろうが、
「まさか。裸と検分までは同じです。縛られなかったのは、それでは将棋が指せないからです」
じゃあ、命勝負の時は裸で指しとったんか。
「ええ、賭け物ですから」
ホンマにさらっと言うなぁ。そやけど結衣はとにかく強い。そやけど結衣欲しさに次々に命勝負を挑まれたそうや。勝てば結衣も儲かるが、組も儲かる仕組みやな。そういう世界で生き抜くために体を張るのは当たり前やってことか。
「必ず御満足頂けるはずです」
そう言うと結衣はなんの躊躇いもなく服を脱ぎかけたんや。なるほどこういう覚悟を常に持っとるんやな。ここで躊躇うどころか嫌がったら論外で、むしろ進んで喜んで見せなあかん世界で生き抜いてきたんやろ。
「はいストップ。さすがね。でもパトロンにはならない」
「ダメなのですか」
ユッキーはニコニコ笑いながら、
「コトリ、もう認めてあげても良いでしょ」
そやな。エエ根性しとるわ。結衣が裏から表に出て活躍したいんやったら、なんぼでも応援したるわ。
「結衣。パトロンにはならないけど、旅の仲間として認めるよ」
「旅の仲間ですか?」
さすがにそこまで知らんか。要は友だちってことやけど。
「コトリもとっくに認めてるよ。だからこそ月夜野うさぎとしてこの宿を選んでる。それだけじゃない。この宿を全部借り切ってるもの。あなたの明日の勝負の邪魔は誰にもさせない」
バレとったか。
「結衣、そういう世界は終わりにしたいんでしょ。イイよ、協力してあげる」
「代償は?」
「旅の仲間だと言ったでしょ。仲間に代償なんて求めるはずなじゃないの。それよりなにより女の身で将棋界制覇なんて嬉しいじゃない」
コトリもや。
「まず鬱陶しい法月王座を粉砕してやりなさい」
「お任せください」
ユッキーは楽しそうに、
「結衣の裸を見せてもらうよ」
結衣がまたさっと服を脱ぎかけたけど、
「ここじゃなくて脱衣場で脱いでよ。結衣の裸なんて昨日も一昨日も見てるじゃない。さあ、温泉だ♪」
そやな。時間もあるしノンビリするか。
「コトリ、今夜は歩三枚で相手をしてもらったら」
嫌や。そこまでのハンデでも勝てる気がせんへんし、コテンパンに負けたら恥の上塗りどころの話やないからな。
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