ワインディング・ロード
さてやけど、ここからどうするかや。どうするもこうするも寒霞渓に行くんやが、ポピュラーなんはロープーウェイや。コトリかって乗りたいし、紅葉のシーズンやったら外せんとこやけど、
「バイクでも登れるんだね」
そういうこっちゃ。目指すは県道二十九号、通称ブルーラインや。三十分ほどで着くはずやねんけど、
「まさか小豆島でワインディングやると思わなかった」
コトリもや。これはかなりやけど楽しいな。おっとここが寒霞渓か。ここに来たら、
「オシッコ」
景色もエエけど、ここのトイレも隠れた名所や。とにかく一億円かけて作ったデラックス版や。
「便器は普通だったけど」
黄金の便器でしたかったら坂出に行け。もっとも黄金の便器でオシッコは出来へんけど。わざわざバイクで寒霞渓に上がって来たのは理由がある。
「トレッキング?」
今日はパスや。寒霞渓スカイラインを走る。十分もせんうちにあったあった、
「四方指って方に曲がるで」
「らじゃ」
こりゃ狭いな。ほいでも抜けたらあった、あった。この辺にバイクは止めといたらエエやろ。
「ここって、寒霞渓以上じゃない」
見晴らしはな。これもちょっとした注意やが、四方指展望台より大観望展望台の方がエエ。インスタとかに上がってるのはこっちやねん。気持ちはわかるわ。
「コトリ、お腹空いた」
朝早かったもんな。そやけどさすがにこの辺にあらへんねん。そやから銚子渓おさるの国を吹っ飛ばして中山千枚田の方に行くで。二十分ぐらいのはずや。ここで寒霞渓スカイラインは終わりで、県道二十六号を南に下って行くのやが・・・おかしいぞ。
「ちょっとストップ」
いくらなんでも下りすぎや。どっかで左に曲がるはずやけどなんにも道路案内があらへん。
「通り過ぎてるけど、これってナビの罠じゃない」
あるあるや。無料ナビは重宝するんやが、時々トンデモな道に誘い込むからな。そやけどバイクなら行けるやろ。つうか、そうでもせんと着かへんやんか。引き返して、
「あれやろ」
「見るからに怪しいよ」
怪しいのは怪しいけど一車線半ぐらいあるやんか。ほいでもなんも案内あらへんな。とりあえず進むか。
「ちょっとストップ」
四つ角やけど走って来たのは一車線半、クロスしとるんが二車線。なんも道路案内はなしや。
「直進は怪しげだから右じゃない」
直進は怪しいのは同意やが、ここはナビを確認や。どうも左やな。なんか目印になるようなもんがあらへんかな。あった、あった。小豆島町中山って住所表示がやっと出てきた。この辺は農村地帯になっとるから小豆島の穀倉地帯ぐらいやろか。そんなに遠くないはずやけど、これは・・・
「ちょっと待った」
「またなの」
なんちゅうややこしい道や。ナビ見たらやっぱり通り過ぎてるわ。またUターンして、あったあった、こっちからやったら看板見えるやんか。
「これって営業してないんじゃない」
う~ん。赤茶けたトタン板の壁に色褪せ切った木の看板や。その家が店とはさすがに思えんな。たぶんやけどもうちょっと先に店があるんちゃうか。ナビ的にそうやねん。とにもかくにもあの角を入ろ。
「あっ、ここだ」
へぇ、やっぱりここや。それにちゃんと営業してるわ。古民家風つうよりタダの古い家やでこれ。まあエエわ、こういうとこで食べるのもツーリングや。メニューは案外あるやんか。
「棚田のおにぎり定食と小豆島オリーブ牛バーガー」
「それに手作りスウィートも付けて」
そうめん定食も心魅かれたけど棚田に来たらおにぎりやろ。お昼を楽しんだら千枚田やねんけど、このまま直進したら行けるはずや。
「これって完全に農道だよ」
その通りや。前から軽自動車が来てもアウトや。それにコトリらのバイクでもUターンは厳しいやんか。ひたすら登ったら、
「これは・・・」
こういう千枚田は減反政策で減ったもんな。さすがに見事に残ってるわ。あんな上まであるけど水だけは豊富なんやろな。
「コトリ、引き返した方が無難じゃない」
これもその通りやねんけど、ひやぁ、こりゃアドベンチャーや。なんとか集落みたいなとこまで下りて来られたけど、
「ちょっと待った」
「どっちなの」
わからんからナビ見てるんや。ここは右か。しっかしゴチャゴチャしとるで。ここも止まって確認や。なんか迷路をさまようてるみたいやったけど、
「出たぁ」
良かったで。これやったら素直に引き返しといたら良かったわ。
「これもツーリングよ。結果オーライ」
それやったら、途中であれだけ文句垂れるな。
「それもツーリングよ」
そやな。こうやって迷うのも思い出になるもんな。
「♪ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」
ロングやないけどワインディング・ロードやったもんな。
「ロングだよ。寒霞渓の登りからワインディングだもの」
後は南の海岸線まで一本道のはずや。
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